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国税徴収法アラカルト(8)「債権」の差押え①(形無きものの方が差押えの主流なの!?)

前回は、どのような財産が差押えの対象となるのか、逆に差し押さえることが制限されている財産とはどのようなものなのであるのか、について触れてきました。

今回から、個別具体的な各種財産の種類にフォーカスしながら、深堀していきたいと思います。



形なき財産の差押えが多いの!?

前回も書きましたが、差押えというと、「動産」に差押えの札を貼りまくっていくドラマとかででてきそうなイメージかと思われます。

以前、税務署の徴収課の経験のある方とお話しする機会があって、何気なく、「やっぱり、差押えの現場では、豪華な家財とかに、差押えの札とか貼っていく感じなんですか?」、とうかがってみたら、こんな回答が!!。

「もちろん、動産の差押えもありますけど、以前ほど、そのような光景は多くないです。むしろ多いのは、債権関係の差押えの方ですかねえ...」とのこと。

お給料が差し押さえられる!?


なるほど、目に見えない無形の債権の差押え。

これすなわち、債権の中でも最も多い差押えが「給料債権」なのではないでしょうか。

会社の従業員が税金(特に住民税)を滞納していて、その給料を支給している会社に、給料の支給状況について、事前照会がくることがあります。
そしてその後に、実際給料債権について差し押さえられるケースがこれです。

私も、その状況を目の当たりにした経験がありますが、会社としては、従業員個人の問題であるため、なかなか立ち入りにくいデリケートな部分を含んでいるような気がします。

前回、給料債権については、「一定額までは差押禁止財産」であることに触れたかと思います。

差押禁止額としては、徴収法第76条各項において規定されており、内容は次の通りで、下記①から③の合計額が差押禁止額となります。

① 給料等から天引きされる源泉税、住民税、社会保険料

② 最低生活費

滞納者1月あたり100,000円

滞納者と生計を一にする親族
生計一親族一人あたり1月45,000円

③ 体面維持費
次のいずれか少ない金額
(a)【給料-(①+②)】×0.2
(b)②×2

つまり、給料債権については、全額は差し押さえることができないわけなのです。

給料振込を「狙い撃ち」!?


しかしながら、このように全額差し押さえることができないことを考えて、また給料を支給する会社が、給料債権を差し押さえることを拒んだ場合、徴税吏員(住民税等地方税の徴収をする職員)が、「それならば...」と、従業員の給料が実際に振り込まれたタイミングで、従業員の「預金債権」を差し押さえることがあります。

「預金債権」ならば、差押禁止財産ではありませんし、仮に給料を支給する会社が差押えを拒んだとしても、これであれば合法的に全額差押えが可能であると思われるからです。

しかしながら、これまた非常にデリケートな問題です。

こういった差押えのケースで、様々な争いがあり、数々の判例がでておりますが、結論は「可」とするもの、「否」とするものまちまちです。

ここで、その数々の判例を取り上げることは割愛させていただきますが、その判断基準としては、おおむね次のようなものがあげられるでしょう。

① 預金債権の残高の内訳が、明らかに振り込まれた給料分の金額で、大半が構成されているような場合

⇒例えば、預金残高ゼロのところに給料が振り込まれて、そのタイミングで差押えがされたならば、これは明らかに給料債権が原資であるから、当該差押えは認められない、と考えられるようなケース。

② 給料振込のタイミングを知ったうえで、あえて「狙い撃ち」的に預金債権を差し押さえたような場合

⇒おおむね、このような差押えは認められないものと判示がでているケースが多いようです。

③ この給料債権から転化した預金債権を差し押さえることが、滞納者の生計維持に支障が生じることが明らかな場合

⇒このようなケースでは、当該差押えに違法性がなくとも、後々、滞納処分の停止(徴収法153条)の適用により救済される道が開けているものと考えられております。

以上のように、やはり預金債権の差押えだから制限なく適法な行政処分であるかというと、そうとも言い切れないものと考えられるでしょう。


住民税の滞納率を下げるためには


ところで、住民税の滞納が多く見受けられるのは、やはりその金額の多さや、昨年の所得を基準として翌年6月頃の忘れたころに納付書が手元に届くことから、納税者の納税の心の準備が整っていないことに起因しているものと思われます。

通常の会社員の方々であれば、大半が会社からの給与天引き(特別徴収)による徴収がなされているため、そのようなことは少ないかと思いますが、それでも、普通徴収で納付書扱いにされているケースは、まだまだ少なくないのではないでしょうか。

会社としての手間はもちろんありますが、特別徴収率を上げていくことで、かなり滞納率はさがると思われますし、長い目で見て、最終的には会社にとっても、従業員にとってもメリットかと思われます。

また、個人事業主の方々などについては、ご自身の前年の確定申告の課税所得の10%程度が、来年の6月に住民税として納付書が届く、という意識をもっていただくだけでもかなり違うと思います。

そして、失念等を防ぐ意味でも、口座からの自動振替にするなど、ほんの少しの工夫により納税に慌てる場面は少なくなることでしょう。

もちろん「給料」だけが債権ではない

今回は、給料債権にスポットをあてて、滞納した場合の差押えの様子について俯瞰してみました。もちろん、債権はこれ以外にもいろいろあり、「えっ?、こんなものも債権で差し押さえられてしまうの?!」というものもたくさんあります。

次回以降も、債権の差押えについて、もう少し掘り下げて考えていきたいと思います。



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