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メリークリスマス貯金

私はまだクリスマスにワクワクできる人間だと思っていたけれど、それは子供の頃に味わってきた「ワクワク貯金」の切り崩しをしているだけに過ぎないんだなと気づいた。そんな24歳のクリスマス。

小さい頃は、毎年家でクリスマスケーキを作っていた。作っていたと言っても、スーパーで買ってきたケーキスポンジに出来合いのホイップクリームを塗って、フルーツの缶詰を乗せるような簡単なものだったけど、それがいつも無性に楽しみだった。最後にカラフルなチョコスプレーを山のように振りかけて、きのこの山やコアラのマーチで飾り付けをしていたものだから完成品はいつもファンシーゴブリン城の最終戦みたいになっていたけど、家族でワイワイ言いながらケーキを作る時間が何より好きだった。

ある年の冬は、クリスマスの少し前に一緒に暮らしていた祖父が突然トイザらスのチラシを持ってきて「好きなもん選べ」と言ってきた。こんなことは後にも先にもこのときだけだったので、恐らく景気が良かったのだろう。その頃私はもうおもちゃを欲しがる年齢ではなかったので、代わりに図書カードが欲しいと言った。そしてクリスマス当日、祖父からもらった図書カードはなんと5000円分だった。子供にとっての5000円は夢のような数字だったので私は大喜びし、ピーターラビットの絵が描かれた図書カードを握りしめて、近所の蔦屋書店に駆け込んだのを今でも覚えている。

中学生の頃、英語の授業で「サンタさんに手紙を書こう」という課題が出た。手紙はフィンランドにいるサンタに送ることができるということを、その時初めて知った。ちなみに、それまで毎年家のクリスマスツリーにぶら下げていた手紙は当然日本語で書いていたため、「大人の事情」というものも同時に学んだ。
とはいえ面識のないおじさんに対して何を書けばいいのかわからなかったので、とりあえず欲しい物を書いた。この時点で十分厚かましいのだが、そのときは部活で使う楽器が欲しかったので「I want Trombone(Bach)」と書いた気がする。厚かましい上、メーカーの指定までしてしまった。
結局郵便局に行くのが面倒でその手紙は出さなかったけど、もしフィンランドのサンタ協会まで届いていたら、クリスマスの朝枕元にトロンボーンが置かれていたりしたのだろうか。

こういう思い出の貯金があるおかげで、私はまだクリスマスというものにワクワクできる。近年はもう貯金を切り崩しながら過去の思い出に縋っているだけなのでそろそろ新たな思い出を作っていきたいが、今年は仕事も休みだし誰とも会う予定がない。ワクワクから一番遠いところにいる気がする。


クリスマス・イブ当日の今日、近所の書店に行きブックサンタ用の本を購入した。
クリスマスくらいは大人としての責務を果たすか…という勝手な思いで、毎年何かしらの行動を起こしている。去年は募金にしたけど、本好きとしてブックサンタはなかなか惹かれる企画であったため、今年はこちらを選択。

ブックサンタには絵本が多く集まっているらしいが、私は小学校高学年の子に向けた本を選ぶことにしていた。なぜなら私が本を読み始めたのが、小学校6年生の時だったからだ。子供用に作られたものではなく、大人が読むような本を自分が読めるようになったことが嬉しくて、休み時間まで本に夢中になっていた。だから、誰か1人でもあの時の私と同じような気持ちを味わえる子がいてくれたらいいなと思って。
かすかな記憶を頼りに、自分が小6〜中学生くらいの頃に読んだであろう本を探した。もう何年も前に読んだ本が、今でも書店に並んでいるのを見ると少し嬉しくなる。文庫本5冊をレジに持って行き、ブックサンタでと伝えた。

今年のラインナップ

私が選んだ本をどんな子が読むのかはわからないけど、どうしてもその子に教室の隅で休み時間に本を読み続けていた自分自身を投影してしまう。
読書一つで世界の見え方は大きく変わるし、それによって人生も変わる。現実は何も変わらないかもしれないけど、現実を見る目は確実に変わってゆく。そうして出来上がった大人の自分が今見ている世界は楽しいし、何より見える幅が大きく広がった。だから私は道を間違えてはいないよと、過去の自分に教えてあげたくなった。そんな24歳のクリスマス。


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