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イスラエル

本投稿は、2018.11.22のi.lab BLOG「Path to Innovation」からの転載です。

i.lab マネージャー/ビジネスデザイナーの寺田です。今回はイスラエルについて紹介します。 i.labでは、イノベーション実現に向けたプロジェクトの一環として、プリンタブルセンサーコード技術研究組合(以下、PSC)に対して投資および事業開発のお手伝いをしています。PSCは2018年2月に設立された組合です。組合員企業がオープンイノベーション方式により得意分野を活かし、温度によって模様が変化する印刷可能な3次元カラーコードを開発しています。 今回、このPSCの仕事の一環として、R&Dパートナーとなるイスラエル企業の探索を目的として、2018年9月3日〜9月6日の旅程で、JETRO主催の JIIN イスラエルIoTミッションに参加しました。 本ミッションは、イスラエル企業との連携及び市場動向把握に向けた最新情報収集や現地動向把握、そしてイスラエル企業とのネットワーク構築を目的としています。 ミッションの後半にはイスラエル最大のスタートアップの祭典である「Digital Life Design (以下、DLD) Tel Aviv Innovation Festival 2018」への視察及び参加が組まれており、濃密な4日間でした。 本ミッションは一般枠とアントレプレナー枠があったのですが、PSCと私は幸運にもアントレプレナー枠に選んで頂きました。

1.イスラエルの紹介

イスラエルは地中海の東端、中東地域にある国です。1948年に建国され今年で建国70周年です。首都はエルサレムと主張していますが、国際的には認められておらず、多くの国はテルアビブに大使館を設置しています。そういったことも関係するのか、政治の中心はエルサレム、文化・経済の中心はテルアビブとなっています。面積は四国4県程度、人口は大阪府程度(2018年2月時点で882万人、イスラエル中央統計局(CBS))です。私は到着した日に電車を乗り間違い、中央部のテルアビブから1時間弱でイスラエルの北端近くまで行ってしまい、国土の「小ささ」を実感しました。

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図:イスラエルの地図(出展:CIA World Fact Book)

イスラエルの有名な産業はなんといってもハイテク産業です。昔から研究・開発には力を入れており、ノーベル賞級の優れた人材を数多く輩出しています。

技術分野としては、最近話題になっている画像処理やサイバーセキュリティといったコンピューターサイエンスだけではなく、農業・灌漑や海水淡水化などの分野でも有名です。前者は自動運転のモービルアイのような企業が、後者は点滴灌漑のような技術が有名です。中東というと砂漠の印象があるかもしれません。実際もその通りで国土のほとんどが砂漠または半砂漠で、降雨量も少ないです。しかしこのハイテク農業のおかげで、イスラエルでは国内の食糧のほとんどを自給でき、農産物の輸出も行う農業大国となっています。

イスラエルにはいわゆる大企業が少なく、テクノロジーバックグラウンドの優れた起業家がスタートアップを興し、欧米の大企業に株式を売却して「エグジット(Exit)」するというサイクルが注目されています。このサイクルから、近年では、「中東のシリコンバレー」とも「Start-up nation」とも呼ばれています。

2.なぜイノベーション?

イスラエルの起業文化は国の置かれた状況から影響を受けています。イスラエルは隣国の中東諸国と、戦争も含め、争いが絶えない状況のため、周囲の国に頼るわけにはいきません。よって優れた軍事技術を確立するための科学技術投資や農業自作率100%や海水淡水化に代表されるような、生活していくために必須となる技術への投資が盛んです。

また、徴兵制も強く影響しています。若い頃に徴兵によって軍隊に所属した人が、画像処理やサイバーセキュリティなどの軍事技術の民間転用によって起業する人が多いと言われています。

加えて、軍隊時代の人脈もStart-up nationの形成に一役買っています。軍隊で同じ釜の飯を食った同僚だけでなく、自分の所属した舞台の先輩後輩のつながりも、ビジネスを始める上での人脈形成に大きく影響するようです。日本でいう高校や大学の先輩後輩のようなつながりに似ているかもしれません。

このように、イスラエルのイノベーションは地政学上の事情やそれに付随する軍隊での事情が加わって起きていると言われています。この辺りは日本人には少しイメージがしにくい部分かもしれません。

3.わかったこと

多くのイスラエルのスタートアップは、高い技術力を背景にしています。今回はモービルアイやソニーが買収したイスラエルの通信用半導体メーカー、アルティアセミコンダクターなどを訪れましたが、いずれも高い技術に裏付けされており、それを競争優位として謳っているという点は非常に感心しました。日本メーカーでは近年あまり聞かない、技術的優位性を武器に戦う姿がそこにありました。

一方で、分野による偏りの大きさは驚きです。画像処理やデータセキュリティといった分野は強いとよく聞きますが、一方でPSCのような物流分野は大変遅れています。船やトラックの積荷マネジメントのようなサービスをDLDに出展している会社はいましたが、市民生活レベルでは頼んだモノが届かないことが頻発するレベルとのことです。

そのため、私がイスラエル人に対してPSCのアイデアをピッチしても、物流分野での課題感が全く異なるためか、物流に携わっている企業と携わっていない企業とでは反応が大きく異なりました。物流分野の課題に取り組んでいるスタートアップには大変良い反応でしたが、他の分野に比べて、物流が未熟というのは盲点でした。

また、イスラエルのスタートアップは玉石混淆です。DLDのような大きなイベントでも、アイデアがありきたりだったり何が競争優位なのかわからないスタートアップもたくさんありました。前述の事業分野とあわせて、何の分野が進んでいて何の分野が遅れているかというフィルタリングは大切です。

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DLDの入り口

4.結論

「百聞は一見に如かず」と言いますが、イスラエルのイノベーションについてはまさにこの言葉が当てはまるでしょう。いくらリサーチしても情報量も少ないですし、何から何まで日本と違うので、事前の情報だけで正確に把握したりイメージするのは極めて困難です。また、お目当ての企業に巡り合うためには、人づてに聞いた方が早い場合もあります。私も経験しましたが、目当ての企業が必ずしも「表に出て来ている」とは限りません。

今回はJETROさんに大変お世話になりました。様々な要望を聞いていただき、大変ありがたかったです。

i.labではPSCだけでなく、アイデア実現のためのプロジェクトも実施しています。また、イスラエルのように海外のイノベーション事情についても知見とコネクションを増やしています。どうぞお気軽にお問い合わせください。


寺田 知彦(i.labディレクター 2017年当時)