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青山美智子「お探し物は図書室まで」


この小説は、職場内で本の貸し出しをしている同僚から借りました。
その前に借りて呼んだ本が、私の好みに合わなくて、ちょっと辛い読書体験になったので、そのことを話すと、「じゃあ、こちらがお勧めです」と言って、手渡されました。

ここに書かれているのは、目次の5つの章のタイトルが、名前、年齢、職業になっているように、5人の物語です。全て物語の中で図書室にたどりつき、そして、そこにいる司書に本のリストを手渡されます。そこに書かれた本を読むことで、考え方や行動を変えることができて……。

一番共感したのは、「夏美 四十歳 元雑誌編集者」の話です。子どもが生まれても、その前と同じようにバリバリ働きたいと思っていたのに、会社に配慮されて忙しい部署を外され、夫からも子育てに協力してもらえないという話です。

どうしても外したくない仕事があったのに、保育所から電話が来て諦めます。ですが、その日、夫はお酒を飲んで帰ってきます。「一杯ひっかけてきただけだよ」という夫に、普段ため込んでいた思いが爆発して、もっと協力して欲しいと言います。

「じゃあ、俺が出世しなくてもいいの? 会議や出張をほっぽって迎えに行ったり、早く帰ってきて夕飯作るとか、無理だよ。現状として動けるのは、融通の利く部署にいて五時で上がれる夏美じゃないか」
私は黙った。悔しかった。修二が会社で立場が悪くなったら、それは困ると思う自分がいる。
でもそんなのずるい。私はキャリアを降りたのに。修二だけが自由に仕事に集中できるなんてずるい。
結局、家のことは私がすべて背負わなくちゃいけないんだろうか。
母親だから?
「……私ばっかり損してるよね」

本書

こんな思いをずっと抱えてきたけれど、それを夫に言ったかどうかは覚えていません。
そもそも夫と私は就職の時点で、社会的な評価に格段の差がある組織に入りました。私も夫と同じようなところに就職することも試みましたが、試験に落ちました。激務に耐えられる自信もなかったし、家庭をよいものにする貢献は私の方がしたいという気持ちもありました。心のどこかで夫が主、私が従みたいな感覚があったのだと思います。
ですが、仕事をしていく中で、いくつか貴重な経験をさせてもらうことができて、自分だってこんなに社会に価値を提供できる仕事に携わることができていて、もっと仕事に時間を使えれば、もっとたくさんのことができるようになるはずなのに、と思うようになりました。

1つにはSNSの力があります。
リアルに足を運ぶことはできなくても、一度つながった人とはSNSで情報収集し、やりとりして、アンテナを張ることができます。
そして、もう一つは、本の力。
実は電車通学が終わり、自転車で通勤するようになって読書が激減していました。そして自動車通勤もやはり本が読めない。
読書が復活したのは育児期間中でした。外に出かけられないから、本の中が私のお出かけ場所。夜中だって出かけることができます。
仕事に復活してからは、自然と仕事に関係する本を読むことになりました。本を読んでいくと、どういった考え方が一番自分にしっくりとくるか、ということが見えてきます。その立ち位置から、仕事の身の回りの状況を見ることで、少しずつ自分なりの足場が固まってくる感じがしてきました。

だからここに書かれている登場人物たちが、本を読むことで体験したことがすごくよく共感できたのです。というか、私のこのnoteそのものが、私にとっての、「お探し物は図書室まで」の物語なのだろうな、という気がしてきました。

この本を読み終わるまでの間に、ネットでたまたま「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という本を見つけました。

この帯の言葉も、すごくよく分かります。

私もよくスマホを見てしまうのです。活字を読むことには変わらないのですが、なぜ本を読まないのか、ということを想像してみると、本を読むのには少しだけ越えなければいけないハードルがあるからではないかと思いました。Kindleはそのハードルを下げてくれましたが、図書館で借りたり、書店で買ったりしないと読むことができません。

この本での図書室でのできごとは、この本に対するハードルを超えさせてくれるものだったのだろうなと思います。でもそれは実は難しいことではなく、どんな図書室でもおそらく、体験できるはずのこと。

私も次に図書館に行った時には少しだけ勇気を出して、体験してみたいと思いました。

そして、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」も今度読んてみたいと思いました。

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