見出し画像

中野信子・兼近大樹「笑いのある世界に生まれたということ」

「少し口元をにこっと笑うような感じにして、目をつむるんだよ、するとすぐに眠れるよ~」
以前一緒に仕事をしていた上司は、自分は布団に入ったら5秒くらいで眠れる、と言っていました。なぜそんな話になったのかは思い出せないのですが、多分私が仕事のことが気になって眠れないといったようなことを言ったからだと思います。
先に笑うことで、リラックスして、眠れるのかもしれません。スポーツで笑うとパフォーマンスを発揮できるという話があるので、同じように、科学的に説明できることがあるのかもしれないし、単に、ほんのり笑顔を作るというのが眠るための睡眠儀式というか、何かのトリガーになっているのかもしれないし。私もマネしてみましたが、そんなにうまくいくわけではありませんでした。
でも、笑い、は大切だと思います。
人と関わる時には、2割増しで笑顔でいるように意識しているし(コンビニの店員さんであっても、バスの運転手さんであっても)、厳格な場以外は、ちょっとくらいは笑いが起こる方がよいかなと思ったりします。

なので、このタイトル「笑いのある世界に生まれたということ」を見た時に、なるほど、と思いました。

中野信子さんは私も何冊か読んだことがありますが、身近なことについて、脳科学の視点からとても分かりやすく書かれています。兼近大樹さんは、お笑いコンビ「EXIT」の一人で、かねちーといっしょ、というyoutube番組を持っていたり、「むき出し」という自伝的小説も書かれている方です。

本書は、こんな感じです。

プレトーク 私たちはそら豆がとてもお城
第1章 人間はお金を払ってでも笑いたい
第2章 僭越ながら――中野と兼近の芸人論
第3章 芸人の地アタマ
第4章 おもしろい人になりたい

まず、プレトークでは、二人が本を共著するようになった経緯について書かれています。「ホンマでっか?TV」での出会いから、中野さんが家庭教師となり、中卒の兼近さんが高卒認定を取ることなど。
もちろん「私たちはそら豆がとてもお城」の意味も、ここで明かされます。

第1章はタイトルの通り、人はお金を払ってでも笑いたい、ということについて、掘り下げられます。
テレビやyoutubeで笑える動画を見ることもできますが、まだそんなメディアがなかったころから、人々はお金を払って、思い切り笑える体験をしていたわけです。
さらに、今ならSNSでいつでも笑いに触れることができるのに、思い切り笑うことにお金を払うサービス(お笑い劇場とか)があるわけです。
それくらい、笑いというものは、大切なのだな、と改めて思います。

第2章では、様々なお笑い芸人を例に、笑いにも様々な種類があることが話題になっています。感覚的には分かっているような気もしましたが、とても説得力がある話です。
私の知らない芸人さんもたくさん出てきたので、検索して動画を見てみました。

第3章では、芸人は地あたまが良いという話です。しかもそれを、脳科学分野からの説明を交えながら、展開されています。
何も考えてないようなことをやっているように見えても、人の関心を惹きつけ、笑うところまで誘導するのは大変なものです。
文化が違えば、世代が違えば、笑いも違います。
だから芸人とひとくくりに言っても、どの世代に受ける芸人か、というのがばらばらです。有名になって欲しくない、というファンがいるそうだけれど、テレビに出るにはテレビを作っている世代に受けなくてはいけなくて、そうすると、尖った感じがなくなり、そのファンとして気に入っていた部分が弱まったりするということなのだと思います。

この章で特に印象に残ったのが、ダニング・クルーガー効果です。特定の領域で能力が低い者は自分の能力を過大評価するという認知バイアスの仮説で、2000年に「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に与えられるイグノーベル賞を受賞したとのことです。
自分がユーモアがあると思っている人が、面白くしようとして、芸人のマネをして人をイジるつもりが、イジメになっている、ということがあるという話の中で引用されています。
笑いには本来、その場にいる人がどう思うか、駆け引きしながら引き出さなければいけないものであるはずなのに、その見えない部分を読み取る力がないままに、表面的なところだけマネすればみんな笑ってくれるか、と思うとしたらそれは恐ろしいです。

第4章では、人を笑わせることは、プロだけの話ではなくて、もっと笑いの力を使おう、という話です。
もちろん上記の例のような難しさもあります。
ですが、おもしろい人になることは、人に好かれるための方法の一つだな、と改めて思いました。

その後に、兼近さんと中野さんそれぞれの「おわりに」が収録されています。
全体的に二人のテンポのよい会話が目の前で繰り広げられているようで、読んでいて、とても楽しかったです。きっとこんな感じだったのだと思います。

「おわりに」の中で、兼近さんの書かれていた言葉がとても印象に残りました。
何かに特化できなかった人間が、求められる=笑い=成功を手にするために必要な条件として3つ挙げています。

平凡や普通を知ろうとすること
長いモノにまかれつつ光ること
側にある優しさに気づくこと

本書

この中の2番目の例えがとても分かりやすかったです。

長いモノに巻かれるのも大事で、われわれ持たざる者は、太巻きの中の変わり種であらねばならぬ。単体でも美味い何かになれば、どこに行っても光ることができるが、その能力は自分にあるか? 冷静に判断して、ないのであればもともとある体制をうまく利用するのは大事。太巻きからあふれないように皆と違う動きや思考で笑いを奪い、変わった味を出すべし。

本書

私は恵方巻のかんぴょうを思い浮かべながら、納得しました。自分も職場の中で、自分らしさを発揮しつつ、仲間と一緒にいい太巻き寿司に作りたいです。
他の2つもとても大切なことだと思います。

明日から、この世界に笑いがあることに感謝しつつ、丁寧に笑いを感じ取りつつ、周りの笑いを引き出す試みをしていきたいと思います。
そうしたら、ストレスで眠れないなんてことも、減ってくるかもしれません。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?