カープダイアリー第8304話「レギュラーシーズン折り返し、開幕3連戦以来の神宮球場で高津監督と新井監督が話したこと」(2023年6月30日)

雨のグラウンドを見つめながら試合前、新井監督は高津監督と10分以上も話し込んでいた。

開幕3連戦以来の神宮球場。初陣を前にした3月30日、ふたりは球場内で会見を行った。

「みんなで力合わせて何とか乗り越えて、最後は頂点に立ちたい」(高津監
 
「高校の大先輩ですし、連覇中ですし、日本一になった名将。戦いながら何か一つでも吸収したい」(新井監督)
 
「胸を借りるつもりでぶつかっていきたいと思います。よろしくお願いします」(新井監督)

「貸しません」(高津監督)

大瀬良、床田、玉村で0-4、0-1、2-3。新井カープの船出は高津ヤクルトの前に遭難の危機に見舞われ、開幕連敗は4に伸びた。

しかし4月6日、降雨コールドゲーム宣告のマツダスタジアムで連敗を止めるとそこから5連勝。遠藤に続いて大瀬良、床田、玉村、九里に白星がついた。先発で試合を作って粘り強く戦う。キャンプから目指してきた形がおぼろげながら見えてきた。

5月3日の横浜スタジアム。1―4で敗れた翌日の中国新聞「球炎」コラムの見出しは「若手の失敗責めない指導」だった。13勝13敗で3位。ヤクルトは12勝14敗で4位だった。

4日は2―3惜敗。同コラムのタイトルは「力負け迫力欠く4番」だった。

迎えた5日のマツダスタジアム。3万1193人のファンの前で阪神に0-5で敗れ同コラムで「今季ワーストの内容」と指摘された。

コラム執筆担当はDeNA戦が五反田康彦記者、阪神戦が木村雅俊記者。ともに新井監督の人となりを知り尽くしている。五反田記者から指摘された「四番」ライアンは6月11日に二軍降格となった。

一方「ワースト」とされたチームの戦いはその後、猛反発して5月16日には貯金3の3位。首位を行く阪神は6月に入って貯金18をキープしており交流戦序盤の6月7日の時点で首位まで9差になった。

ところが阪神はその後、失速。交流戦明けの1位2位直接対決でDeNAが3連勝して首位に立った。そのDeNAをマツダスタジアムで“粉砕”した新井監督は貯金を最多の6として神宮球場に乗り込んだ。「ワースト」の指摘から1カ月半で“ベター”な状況を探り当てた。

「ワースト」見出しでチームを叱咤激励した木村雅俊記者が6月22日付の中国新聞「潮流」コラムでは「特別編集委員」の肩書でこう寄稿している。

「大善戦新井カープ」(見出し)

以下要旨

・セの新人監督で貯金を持って交流戦に入りそこを勝率5割で乗り切るのは史上初、リーグ戦再開時に貯金2は「大善戦」

・64試合を振り返り新井監督のチーム作りを見誤っていたかも?若手育成、選手に寄り添うだけではなく、中堅・ベテランもバランス良く、全体の育成でチーム力を押し上げる

・首を捻るような選手起用にはコーチ陣が進言するが「フラットで」と我を通すらしく、固定観念を嫌う

・残り79試合で何かしでかすかもしれない…

……

一方のヤクルトは“大善戦”の真逆の“大誤算”。5月後半、マツダスタジアムでの3連敗も含めて12連敗を喫し、交流戦終盤でも6連敗。中日との2弱を形成して最下位争いを演じている。

チーム防御率、総失点がリーグワーストとなっている高津監督からこの日の対談でどんなことを新井監督が聞かされたかは分からない。

だが、おそらく“高津先輩”からはお褒めの言葉があったのではないか?交流戦明けのマツダスタジアムでの巨人、DeNA相手の6連戦でのスコアは…

●3-5
〇3-1
〇3-2
〇3-2
〇6-2
〇5-3

ディフェンス重視の戦いがはっきりと浮かび上がてくる。

…と同時に百戦錬磨の日本一監督からは決して油断するな、先の先を見て準備を続けなさい、との金言があったのではないか…

国内各地で大雨予報が出される中で、神宮球場も雨のプレーボール。試合は二回に坂倉の7号2ランが、三回に菊池の4号ソロが飛び出すと五回にも秋山、坂倉、田中にタイムリーが出て6対0。ここまで5勝でヤクルト勝ち頭のサイスニードを二塁打4本を含む長打攻勢で攻略した。

七回にはマットにも2点タイムリーが出て8対0となった。先発の九里は大量援護を受け5安打8三振、しかも無四球完封で6勝目をマークした。

「チームも連勝していたので、そのいい流れに乗って、野手も早い回に点を取ってくれたので、いいピッチングができたと思います」

自己改革を誓いオフに単身の米国武者修行を敢行した九里は新井監督の下でその調整を任された。新たな投球フォーム作り。簡単にはいくはずもない。試行錯誤を続けながら開幕には間に合わず。

手ごたえをつかんだのは、チームが開幕4連敗から盛り返して5連勝をマークした4月11日、今季2度目の先発となったバンテリンドームナゴヤでの中日戦だった。8回4安打無失点で四球1。そうこの時の1勝目が今回の6勝目につながった。

技術的には「まず右足への体重の乗せ方、それができるようになれば次は左足…」という下半身の誓い方や「下半身の動きと上体の動き、トップの位置とを合わせる」動作、タイミング。それが試合の中で意識せずにできるようになれば、ムダ球が減って多彩な球種のどれも偏らず投げることができ、投手有利のカウントで真っすぐ勝負もできる。やがて「四球を減らして、ピッチング全体に余裕が生まれた」と関係者が口を揃えるようになった。

バッテリーを組み続ける坂倉にとっても九里の躍進は追い風になった。開幕前に「自信がまだない、自分でもどっしり感がないと思う」と話していたから、開幕後は当然ながら悪戦苦闘の連続で、バッティングまでも低調となった。

昨季、一度もかんぶっていないマスクをかぶり続ける、というのはそういうこと、だ。

だから九里との共同作業によってチームに勝利もたらすことが何よりの励みになり、自信にもなった。5月半ばを過ぎても2割3分台だった打率はその後、徐々に上がり始めて、地力が試される交流戦で「天才」龍馬の打率・343に次ぐ・340をマーク。12球団第9位、要するに国内ベスト10の打撃力で・292まで率を引き上げて6月最終戦に臨み、4の3、3打点でついに・301に乗せたのである。

オーダーは菊池、野間、秋山、龍馬、坂倉、田中広輔、マットと続いて八番には前日の上本に代わって矢野。一番から七番までで2日連続の先発全員安打を記録して同時に今季最多タイの14安打となった。

秋山が八回の守備からベンチに下がり、フルイニング出場が止まったのは逆に今後も「三番秋山」をキープするため、でもある。

レギュラーシーズン前半71試合を消化して、ともに敗れた首位阪神まで2差、2位DeNAまで0・5差。「何かしでかす」ために必要なことはまだたくさんあるだろうが、この日の指揮官の自己評価は「非常に素晴らしい試合」で言い換えるならベストゲーム…だった。

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