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書籍レビュー『文明崩壊 滅亡と存続を分けるもの』ジャレド・ダイアモンド(2005)古代と現代を結ぶ環境問題

※3000字近い記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。


古代と現代を結ぶ環境問題

この本を紹介するのは、
なかなか骨が折れます。

というのも、上下巻で
1000ページ以上ある本なので、
書いてあることも広範囲に
わたっているのです。

こういう本こそ、
友達に話すような
軽い感覚で書くのが
いいでしょうね。

まずは、著者の
ジャレド・ダイアモンドについて
お話ししましょう。

著者は、アメリカの学者であり、
ノンフィクション作家です。

もともとは鳥類学者であり、
現在では進化生物学、生理学、
生物地理学といった分野を
研究しています。

代表作としては、
『銃・病原菌・鉄』があります。

この本は'97年に出版され、
ピューリッツァー賞を受賞し、
日本でも売れた本です。

(この内容については、
 以前、私も記事に書いたので、
 詳しく知りたい方はどうぞ)

『銃・病原菌・鉄』は、
1万3000年にわたる
人類史の謎を科学的に
解き明かした内容でした。

今回の『文明崩壊』も、
『銃・病原菌・鉄』と同様に
歴史を科学的に見た
内容でもあるのですが、

それだけにとどまらず、
現代に生きる私たちが
どのように環境と向き合っていくか
というテーマも含まれています。

本書の要点は
「環境問題」です。

かつて栄華を誇った古代文明が
何ゆえに滅びてしまったのか、

そして、現代社会の発展が
このまま進むと、
どのような未来が待っているか、
という見解が書かれています。

環境問題について書くと、
著者は「リベラル(左派)」と
見なされる傾向があることを
本書の中でも述べていますが、

著者自身はそれを否定しています。

一方で、著者は研究のために、
大企業ともつながりを持つため、

リベラル派からは保守派(右派)
と見なされることがあるとも
述懐しています。

しかしながら、
それも正しくはありません。

本書を読めば
よくわかると思いますが、

著者の物事を分析する姿勢は、
極めて偏りが少なく、
右でも左でもない中庸です。

この姿勢は科学者として、
正しい姿勢だと思います。

これから本書を読む方には、
くれぐれもその辺りのことを
理解したうえで読んでほしいです。

本書の構成

本書の構成は以下のように
なっています。

プロローグ
 二つの農場の物語
第1部 現代のモンタナ
 第1章 モンタナの大空の下
第2部 過去の社会
 第2章 イースター島に
      黄昏が訪れるとき
 第3章 最後に生き残った人々
 第4章 古の人々
 第5章 マヤの崩壊
 第6章 ヴァイキングの序曲と遁走曲
 第7章 ノルウェー領
      グリーンランドの開花
 第8章 ノルウェー領
      グリーンランドの終焉
 第9章 存続への二本の道筋
第3部 現代の社会
 第10章 アフリカの人口危機
 第11章 ひとつの島、
     ふたつの国民、ふたつの歴史
 第12章 揺れ動く巨人、中国
 第13章 搾取されるオーストラリア
第4部 将来に向けて
 第14章 社会が破滅的な決断を
     下すのはなぜか?
 第15章 大企業と環境
 第16章 世界は一つの干拓地
追記 アンコールの興亡

目次を見るだけでも
長いですね(^^;

そういう本なのです。

大ボリュームです。
(私自身、読み切るのに
 2か月かかった)

この流れを簡単に説明すると、
まずは第1部で、

著者にとって身近だった
アメリカのモンタナ州から
はじまり、

第2部では、イースター島や
ピトケアン諸島などの
古代文明がいかにして
滅びたかが書かれています。

第3部では
「現代の社会」として、
アフリカや中国の歴史について
触れられています。

そして、最後の第4部では、
第1部~3部で見てきた、

古今東西の社会における
さまざまな問題点を
加味したうえで、

現代に生きる私たちは
環境とどのように折り合って
生きていくべきか、

という著者なりの考察が
述べられています。

いつまでもこの社会が
続くかのような錯覚を
払拭する

どの章も興味深いですが、
特に古代文明がいかにして
滅びたのかという話が、
印象に残っています。

ちなみに、本書は、
2005年に出版された本なので、
イースター島の見解については、

その後の研究で、
著者の主張とも異なる説も
出てきているようです。

それにしても、
文字による記録がない文明も
多いですから、

そういう歴史に対しては、
残された証拠から
推察するしかないので、

読んでいるだけでも、
それは非常に骨の折れる話でした。

多くの文明が
なぜ滅んだのかといえば、

それは自らが住む環境に
合っていないライフスタイルを
送ることによって、

多くの資源を消費し、
環境を破壊してしまったために、
滅びてしまったということです。

こう書くと、
「昔の人は愚かだなぁ」
と思われるかもしれませんが、

現代に生きる我々も意図せずに、
環境を破壊し続けています。

しかし、我々がそれを
意識する場面は少なく、

今のライフスタイルが永遠に
続くかのような錯覚を
起こしていますよね。

私たちも古代文明の人々を
笑うことはできません。

人間が生きる限り、
環境は害されるものなのです。

それでは地球上に人間は
いない方がいいのか、
という話になりますが、

そういった考えにも
私自身は賛成しかねます。

ただし、著者によると、
このままの状態で人口が
増えていくと、

あらゆる資源が尽き、
著しく環境が害され、
成り立たなくなるだろう
という見立てなんですね。

それでは、私たちは
どうすればいいのでしょうか。

それには大企業や政治の力が
大きく関わってきます。

本書では、一般市民が
環境に対する正しい知識を持ち、

環境を害するような活動をする
企業や政治家を支持しないことが
環境の維持にもっとも貢献できる
という結論でまとめられています。

約20年前に書かれた本なので、
今だから言えることでもあるのですが、

世界的に見てもアメリカをはじめ、
環境の意識は
高まっている気がしますね。

もちろん、宣伝のために、
偽善者のような振る舞いをする
企業や政治家も多くいるので、

その辺のことも、
厳しく見ていく必要はありますが、
環境にまったく配慮しないよりは、
ずっといいことだと思います。

私がこう思うのは、
やはり、本書で紹介されている
崩壊した文明の歴史を
知ったからです。

非常に古い話なので、
実感がわきにくいかもしれませんが、
今を生きる私たちと
同じ人類がそこで滅んだのです。

おそらく、そこに生まれた人々は
誰一人として、そうなることを
想定していなかったのでしょう。

こんな悲劇はありません。

私たちは同じ轍を
踏まないためにも、
そういった歴史を
よく知る必要があります。

その時に必要になるのが、
著者のような「中庸」の姿勢です。

中立な立場に立って、
科学的な視点で物事を
見るのです。

そうすれば、絶望せずに、
新しい解決策が見つかることも
あるでしょう。

私たち人類は
どうなっていくべきか、
そのヒントが本書には
詰まっています。

未来に希望を持ちたい人にこそ、
この本を読むことをお勧めします。


【作品情報】
発行年:2005年
   (文庫版2012年)
著者:サイモン・シン
訳者:楡井浩一
出版社:草思社

【著者について】
'37年、アメリカ生まれ。
進化生物学者、
生理学者、生物地理学者、
ノンフィクション作家。

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