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書籍レビュー『スタンド・バイ・ミー』スティーヴン・キング(1982)きっとあなたにもあるはず、輝かしい思い出

きっとあなたにもあるはず、
輝かしい思い出

オーストリアの詩人・
リルケ(1875~1926)が
こんな言葉を残しています。

たとえ、あなたが牢獄に
囚われの身となっていようと、
壁に遮られて世の物音が
何一つ達しないとしても―
それでもあなたには
まだあなたの幼年時代
というものがあるではありませんか、
あの貴重な、王国にも似た富、
あの回想の宝庫が。
そこへあなたの注意をお向けなさい。
この遠い過去の、
沈み去った感動を呼び起こすように
お努めなさい。

『若き詩人への手紙』リルケ

この言葉を読んだ時、
私は本作のことを
思い出しました。

以前から映画版は
大好きだったんですが、
原作ははじめて読みました。

スティーヴン・キング原作の
映画は他にもいろいろ観ていて、

デビュー作の『キャリー』、
『シャイニング』、
『ショーシャンクの空に』

いずれも大好きな作品
ばかりなんですが、
本の方では読んだことが
なかったんですね。

最初に読むのは、これだろうと、
心に決めていました。

10代の少年たちの冒険を綴った
『スタンド・バイ・ミー』です。

本作はキングが、長編の合間に書いた
4つの短編・中編からなる
『恐怖の四季』の一作です。

それぞれの作品が四季にちなんだ
作品になっており、
『スタンド・バイ・ミー』は、
その「秋」にあたります。

(それぞれの物語は独立していて、
 関連性はない)

日本語版の
『スタンド・バイ・ミー』には、

「冬」にあたる
『マンハッタンの奇譚クラブ』も
収録されているので、
そちらも合わせてご紹介します。

幼い頃の
「痛み」と「辛さ」は宝物

『スタンド・バイ・ミー』は、
作家である主人公、
ゴードン・ラチャンスの
少年時代の回想からはじまります。

彼が少年時代を
思い出すきっかけとなったのが、
とある新聞の記事でした。

その記事では、弁護士の
クリストファー・チェンバーズが
刺殺されたと報じられていました。

「クリス」こと、
クリストファー・チェンバーズは、
「ゴーディ」ことゴードンの
古い友人だったのです。

その思い出は12歳の
夏の終わりのひと時でした。

クリス、ゴーディ、
テディ、
(メガネをかけ補聴器をつけている)
バーン(のろまな肥満児)の4人は、

いつも森の木の上に作った
秘密小屋に集まって遊んでいました。

それぞれ裕福とは言えない家庭で、
それぞれの問題を抱えつつも、
楽しく過ごしていたんですね。

ある時、彼らの同級生が
列車に轢かれて亡くなった
という噂が彼らのもとに
飛んできました。

そこで、4人は、
その死体がある場所へ
行くことを思い立ったのです。

その場所は、
かなり遠いところだったので、
とても一日では辿り着けません。

そこで彼らは、親に
「友達の家でキャンプをする」
という口実をつけて、
出発しました。

道中、町で悪い噂が絶えない
給水塔の管理人と番犬の
難関があったり、

川の中で全身をヒルに噛まれたり、
悪い上級生たちに絡まれたり、

と、散々な目に遭いながらも、
どこか楽し気な彼らの姿が
印象的です。

なお、のちに作家となった
ゴーディは、当時から
友人たちの前で、

ホラ話を披露するのが得意で、
その話が別の小説という形で、
物語の中に挿入されています。

これはキング自身が、
若い頃に書いた小説を
もとにしているそうです。

そんなこともあって、
『スタンド・バイ・ミー』は
作者自身の子どもの頃の
体験をモチーフにした話
と言われることがありますね。

「さすがキング!」と
唸らせる傑作短編

『マンハッタンの奇譚クラブ』は、
『スタンド・バイ・ミー』に比べると、
ページ数が少なく、
短編小説のボリュームです。

(『スタンド・バイ・ミー』
 326ページ
 『マンハッタンの奇譚クラブ』
 136ページ)

こちらの主人公は、
『スタンド・バイ・ミー』とは
打って変わり、初老の男性です。

この主人公は
出世しない弁護士で、

どちらかというと、
仕事を淡々とこなし、
人生に希望や期待はなく、

それでも妻はいるので、
それなりに楽しい人生を
過ごしているタイプですね。

そんな彼がある時、
事務所の重役に声をかけられて、
秘密のクラブに招待されます。

そのクラブとは、
「クリスマスには物語を」
という古いイギリスの
風習に従うクラブで、

老年の人たちが集まり、
夜ごと、いろんな物語を
話して聞かせていました。

作中で主人公が明かしているように、
そこで交わされる会話は、
取り立てて、
価値のあるものでもありません。

ところがクリスマスイブに、
老齢の医者が語った物語が、
とても鮮烈なものだったのです。

それは彼が若い頃に診た、
若い妊婦の話なのですが、

これが読む者の興味を引く内容で、
とても惹きつけられました。

そして、最後には、
あんな結末が待っていようとは、
こればかりは誰が読んだとしても、
想像できないことでしょう。

「さすがキング!」
とも言うべき、
壮絶な描写が待っています。

心臓が弱い方、
想像力があり過ぎる方には
オススメしません(笑)


【書籍情報】
発行年:1982年
    (日本語版1987年)
著者:スティーヴン・キング
訳者:山田順子
出版社:新潮社

【著者について】
'47年、アメリカ生まれ。
'74年、『キャリー』で作家デビュー。

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