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想起集合や第一想起を獲得するために「記憶の多重貯蔵モデル」を理解しておこう

以前書いた想起集合や第一想起の記事がとても読まれているので、その続編として(想起集合や第一想起を形成する「記憶のメカニズム」についてまとめておきます。

※ 新刊『売上の地図』の紙面の都合上、カットされたボツ原稿であることは内緒です

記憶のメカニズム

前記事で、想起集合が「何かのニーズが顕在化したときに頭の中で純粋想起される好意的な選択肢の集合体」であり、想起集合に入っていなければその時点で(ほぼ)負けが確定、第一想起ポジションが獲得できていれば買ってもらえる確率が極めて高くなることを詳しく解説しました。

想起集合と第一想起は、一度できあがったら半永久的に固定化されるものではなく、常に順位が変動する特性を持ちます。この現象を正しく理解し、マーケティング戦略や打ち手に活かすためには、人間の脳が持つ「記憶のメカニズム」を理解しておくことが重要です。想起集合に関わる記憶は、脳でどのように組織化されるのか。そして、記憶の保存や検索はどのようにして行われるのでしょうか。

記憶の種類

記憶の構造は、アトキンソンとシフリンによって1968年に提唱された「記憶の多重貯蔵モデル」が有名です。その中で、記憶は、感覚記憶、短期記憶、長期記憶という貯蔵庫(登録器)があるとされています。

感覚記憶

目、耳、鼻、口(舌)、身体(皮膚)などの感覚レジスターを通して受けた刺激が0秒から5秒程度持続する記憶のこと(図は1秒と記載)。

つまり、日常生活の中で受ける外部刺激のすべてを指します。これらすべてを記憶していたらとんでもない量の情報を貯蔵しなければならないため、極めて短い時間で、入力と忘却を繰り返す特性を持っています。

視覚による記憶(アイコニックメモリー)は、0.2秒〜0.5秒ほど保持され、耳による記憶(エコイックメモリー)は最長で5秒程度保持されると言われています。テレビCMの最後に流れるブランドのジングル(サウンドロゴ)は、エコイックメモリーに残るために活用されていると言えます。

短期記憶

短期記憶は、容量に限界があり(7±2チャンク)、短時間(15秒〜30秒)で忘却される特徴を持ち、感覚記憶から転送された情報と、長期記憶に保存されている情報の意味づけを行う機能があります。

電話番号を記憶するときなどに少しの間だけ保持される記憶だけでなく、長期記憶の中から検索された情報の出力場所でもあることがポイントです。

チャンクとは処理される情報のカタマリのこと。

たとえば、0467233000という文字列を数字のまま記憶しようとすると10チャンクあって難しいですが、0467-23-3000と4つのチャンクとすれば覚えやすくなります。

また、eyenoseearmouthという文字列をアルファベットのまま記憶しようとすると15チャンクあって難しいですが、eye、nose、ear、mouthという単語として見ると4チャンクになって覚えやすい。

ここが重要なんですが、なぜあなたがこれらをチャンクとして認識できたかというと、目、鼻、耳、口という身体に関する知識を長期記憶から引き出しeye=目、nose=鼻、ear=耳、mouth=口と、【短期記憶内で意味づけを行っているから】なんです。

このように、感覚記憶に意味づけを行う処理を「知覚符号化」関連する複数のチャンクを1つにまとめる処理を「チャンキング」と呼びます。

一方で、短期記憶は保持することができる時間が短いため、意図的に短期記憶を長引かせるか、長期記憶に転送する必要があります。

このときに行われる処理が「リハーサル」です。

短期記憶は「リハーサル」という行為を行うことで、短期記憶内での維持期間や、長期記憶への転送を促すことができます。

リハーサルには、維持リハーサル精緻化リハーサルがあり、維持リハーサルとは、電話番号を忘れないように、ボタンを押しながら何度もつぶやき続ける反復行為が代表的です。テレビCMで商品名を連呼したり、選挙カーが候補者名を連呼するのは、維持リハーサルを促すためです。

精緻化リハーサルとは、他の記憶と結びつけたり、構造を理解する反復行為を指します。元素記号を「水平リーベ…」と語呂合わせで覚えたり、英単語の動詞や形容詞に接尾辞の「tion」を付けると名詞になるなどの構造を理解することで記憶するもの。維持リハーサルよりも精緻化リハーサルの方が、長期記憶に転送される確率が高くなると言われています。

長期記憶

短期記憶から転送されたもので、半永久的に、上限なく貯蔵される記憶のこと。長期記憶に入ると、情報を整理したり、検索することが可能となります。

情報を取り込むことを「記銘(符号化)」、保存することを「貯蔵」記憶を引き出すことを「想起」と呼びます。

つまり、想起されるブランド情報は長期記憶に入っていて、(感覚レジスター経由で入力された刺激に基づいて)「検索」され、引き出される想起集合は短期記憶(ワーキングメモリー)上ということになります。

また、長期記憶は、言語によって記憶される陳述記憶と、体で覚えた非陳述記憶の2つに大別されます。

陳述記憶は、経験や思い出などのエピソード記憶と、知識や概念などの意味記憶に分かれる。

非陳述記憶は手続き記憶とも言われ、言葉で表現することが難しいスキルや経験を指します。自転車や水泳のように、同じ経験を繰り返すことによって形成されるもので、「体が覚えている」たぐいのものです。使いやすいスマホアプリのUX/UIは、多くの人が持つ一般的な手続き記憶にのっとった構造になっていると言えるでしょう。

主力ブランド「よなよなエール」で快進撃を続けるクラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイングは、熱狂的なファンを増やすため、数多くのリアルイベントを開催しています。

多くの他社商品は、広告などのマーケティングコミュニケーションで、商品のスペックや機能的ベネフィット、RTB(Reason To Believe:信じるに値する証拠)を訴求し、意味記憶に残ろうとしますが、ヤッホーブルーイングは、主にリアルイベントなどを通して、「熱烈なヤッホーファンと一緒に楽しく飲んだビール」「新緑の北軽井沢でキャンプをしながら仲間と一緒に飲んだビール」というエピソード記憶にアプローチしています。

意味記憶だけでなく、エピソード記憶とともに長期記憶に貯蔵されているブランドの方が強い。なぜなら、自身の体験として刻まれた文脈的な情報とともに記憶されていることに加え、新緑の北軽井沢を訪れたとき、またはキャンプに行ったときに、そのときのエピソード記憶が蘇り、よなよなエールを想起する可能性が高まるからです。

なお、エピソード記憶は、イベントなどによるリアルな体験だけでなく、コミュニケーション活動によって、商品やサービスが、いつ、どこで、だれと、どのように使われ、どんな感情体験をもたらすのかを伝達することでも実現することができます。

自社の商品が長期記憶内のエピソード記憶として刻まれれば、以降、描写・風景・色・ロゴ(視覚)、サウンドロゴやジングル(聴覚)、匂い(嗅覚)などの刺激によって、Cue(合図)出しを行うことで、ブランドの想起につなげることができます。

感覚記憶、短期記憶、長期記憶をパソコンで例えると、感覚記憶は、CPUなどのマイクロプロセッサ内部にある演算や実行状態の保持に用いる記憶素子、短期記憶は、様々な情報処理を行うメインメモリー(主記憶装置)、長期記憶は、あらゆる情報を蓄積しておくSSDやハードディスクが該当する。長期記憶がデスクの引き出し(の中)、短期記憶がデスク(の上)とも言えます。

伝票処理などの仕事をする場合、引き出しから資料を引き出し、デスク上で作業を行います。

買い物行動も同じで、多くの商品情報はいつも引き出しの中にしまわれていますが、ニーズの顕在化や何かしらの刺激によって引き出しが開けられ、上から3枚目までのカードがデスク上に引っ張り出され(想起され)、検討、購入される。これが刺激→想起集合→購入までのメカニズムです。

では、記憶されるために、具体的にどのような施策が有効なのでしょうか。

答えは、新刊『売上の地図』(日経BP)の中に…(ドカーン!)

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