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#4: チェサブル、10のすすめ

チェス学習プラットフォームでは近年、一番人気のチェサブル

  • 序・中・終盤からタクティクス・ストラテジーまで、多くのマスターやチェス愛好家によるコースから学ぶことができる

  • コースを購入しても、30日間は全額返金保証付き

便利なプラットフォームで、私も2021年7月から1年ほど、特にオープニング系のコースにハマって1000時間以上、サイトで過ごしました。

しかし、便利だからこそ使い方に注意しないと、あなたのチェスに悪影響を与えることもある。

この投稿ではオープニング系のコースに絞り、チェサブルを使う際に気をつけるべき点やアドバイスを紹介します。




1. コースを購入するのはまず指してみてから

よくあるパターン

  1. 新しいコースが発売される

  2. このコース良さそう!買おう!

  3. 何週間もかけて学習してからようやく実戦投入

  4. うーん、いまいち自分に合わないかも、やめよ

  5. 新しいコースが発売される

  6. このコース良さそう!買おう!(以下略)

今や、オープニングについて無料でも学べるリソースが色々あります。
興味があるオープニングは、本やコースを買う前にまず指してみましょう。
事前知識なしでもいいし、棋譜を並べたりしてざっと学んだあとでもいい。指していくうちに、なんとなくでも相性がどんな感じか分かることが多い。

大事なのは「これ面白そう!」という気持ちが、棋譜を並べたり実際に指したりする中で自然と出てくること。チェスの実力は序盤より中終盤で発揮されますが、序盤ではあなたに合うものを指したい。
合っていると感じると指すのも楽しいし、好きなものには自然と熱意を注げる。そういったオープニングを見つけられると、生じるミドルゲームにもハマります。


2. 復習するより自分のファイルを作ろう

チェサブルは復習法を使ってオープニングの手順を覚えるのを推奨します。コース内の手順を自動的に指してくるCPUに対し、何度も指していくことで記憶に定着させようという狙いです。
この復習法は手順を覚えるのに効果的に思えますが、私は問題点も多いと思います。

  • 一番よく指される手順も、一生指さないかもしれない、エンジン的な手順も同等とみなされるのであまり実戦的ではない

  • 1手1手を「最善の手」、「それ以外」とみなしやすくなるので、想像力や他の手を探求しようとする柔軟性が衰える

  • 複数のコースを学習していると、復習はパパッとやらないと手順を全部消化できない。スピード勝負となると思考停止になってしまうし、何よりオープニングを暗記で片付けようとするのはどこかで弊害が出る。

チェサブル上でじっくり考えながら、1度くらい復習するのはいいとしても、あなたが自分でファイルを作って、自分の言葉で解説文を入れたほうがより深く理解できて、実戦でも効果的に使えると思います

OTBやオンラインで指す中で最もよく出てくる手順を調べたり、棋譜を並べたりする中でチェサブルの内容とも照らし合わせ、どういう風にそのオープニングを指したいのか結論を出すのが理想的。
チェサブルを見ない状態で、どれほどの手順を理解しているか、チェスベースなどのプログラム・アプリやリチェスのスタディでファイルに1から入れるのを試してみましょう。


3. 暗記より理解をこころがけよう

①コースで勧められている手順を実戦で完璧に指す
②解説されていた最後のポジションで、相手が自然な手を指してくる
③何をすればいいのか全く分からずに長考し、すぐ形勢を悪くする

こんな経験はありませんか?
暗記するだけでは、チェス自体はあまり強くなりません
チェスでは良い手を見つけるスキルが最重要ですが、手順を覚えようとするだけではこのスキルは磨けない。

  • なぜここではキャスリングしないで、まず…h6を挟むのか?

  • なぜここでわざわざ2手使って白マスビショップを交換するのか?

1手1手、なぜ指すのか、手の意味やその背景を理解できると、見知らぬポジションでも道標とできる知識や知恵、また、アドリブ能力も身につく。

記憶力だけに頼るとどこかでボロが出るし、時間が経つと忘れてしまう。
しかし、手の意味を理解していると、実戦環境でも良い手が見つけやすい。


4. サイトに入り浸らないように

チェサブルはチェスの学習をゲーム化することであなたを虜にしようとします。手順を覚えれば経験値(XP)が稼げて、復習したらXPが増える。毎日ログインすると「デイリーストリーク」が更新されて、宝石が手に入る。
しかし、こういったXPや宝石をいくら稼いでも、チェスが強くなるわけではありません。

あなたのチェスにとって今、一番やるべきことがチェサブルならいいですが、ゲーム化された環境にハマると、ログインするのが当たり前になってしまう。より多くのコースを買ってほしいチェサブルはもちろん、これが狙いです。

チェサブルを使うのはいつでも、経験値を稼いだりするためではなく、何か明確な狙いを遂行するためにしましょう。


5. オープニング以外を優先しよう

チェスのトレーニングや勉強となると、多くの人はオープニングに時間を費やしすぎて他の部分を疎かにしています。

オープニングは勉強の見返りが感じやすい。次のゲームで早速、今知った手順が使えるかもしれないし、そのおかげですぐ優勢になるかもしれない。
オープニングの原理原則を理解するのは大事だし、おぼろげでも、序盤から中盤にかけてどういうプランが狙えるかを知るのは大事です。

しかし、オープニングのエキスパートになるために多大な時間と労力をかけるより、知らないポジションでも良い手が指せるスキルのほうを磨くほうが大事です。結局どこかの時点で未知の領域に入るので、オープニングで勝とうとするより中終盤やタクティクスに力を入れたほうが地力は伸びやすい。

オープニングよりは実戦、検討、問題を解くなどのほうを優先しましょう。

私は、オープニングの大事さは過大評価されていると思う。クラブプレイヤーはよく、「まず、いい感じのオープニングレパートリーを組み立て、それからミドルゲームとエンドゲームの上達に集中する」と意気込む。正直に言うと、完全に満足するレパートリーを手に入れることなんて無理なんだ。

The Secret Ingredientより、GM David Navara

6. 1つのオープニング内にオプションを持とう

多くのチェサブルのオープニングコースが抱える「問題」は、GMが対GMを想定して作ったという点です。

良いアイディアだらけで、堅実で、客観的に言って強い。
それでも、勝つべき相手に指すには良くないオプションかもしれない。

黑番で、ドローのチャンス濃厚なエンドゲーム。
格上の相手には満足な展開でも、格下の相手相手でも勝つチャンスはかなり少ないようなポジションかもしれない。相手のプレイスタイルや長所・短所によっても、効果がいまいちな手順もあるかもしれません。

なので、コースに出てくる限られた1つの手順しか知らず、それしか指せないという状況を避けるためにも、状況によって臨機応変に使える選択肢を自分で増やしましょう。

状況に応じて指せるオープニング自体の選択肢を持ってもいいし、1つのオープニング内でいろんなオプションを持っておくのもいい。


7. 自分の頭で考えよう

  1. チェサブルで手順を学習する

  2. 実戦投入する

  3. 指したものと、コースの手順を比較して後者に合わせようとする

一時期、私もこんな風にやっていたんですが、このやり方ではコースで勧められている手順を盲信してしまうのが問題です。他の誰かのチェス哲学を、考えもせずに飲み込んでから吐き散らかしているとも言えます。

コース作者のアイディアを情報源として使うのは有意義ですが、好奇心を持って、あなたの頭でも1手1手考えながら検証しましょう。

コースの手順やおすすめはあくまで指し方の1つでしかないので、気になる手があればデータベースで調べたり、モデルゲームを並べたりする中であなたがそのオープニングをどう指したいのかを考えましょう。
あなたのチェスをコースに合わせるより、そのオープニングがあなたのチェスの一部となるように落とし込みましょう


8. コースの終着点より先へいこう

③同様、コースで解説されている手順で満足してしまうともったいないです。作者が「ここまでで十分」と止めたポジションで検証を続ければ、一番価値があるとも言えます
実際に試合でそこまでたどり着いたらプレパ的にリードしていそうですが、さらに深くまで掘っていたらそれ以降も自信を持って指せます。

もちろん、自力で掘らないといけないので時間も労力もかかりますが、オープニングを指すにあたって、派生する中盤の経験や知識は不可欠なので、

  • 棋譜を並べる

  • トレーニングパートナーとそこから指してみる など色々試しましょう。

チェサブルのオープニングコースも、その手順よりもむしろ、

  • チェスの知識と理解を深めてくれる解説文

  • ここも掘ると面白いですよというおすすめ

などのほうに、長期的に使える価値があるかもしれません。


9. 「チェサブル時代」を生きるには

チェサブルはオープニングコースだけに絞っても、トッププレイヤーの作ったものをはじめ、見事なカタログを揃えています。

同時に、あなたが対戦する相手もこの恩恵を受けやすい状況です。
「平均的なオープニングの知識は上がったから、できる限りのコースを学習して、今まで以上にオープニングに時間を割かないといけない」と考えてしまいます。

私は逆のほうに解釈したほうがワクワクすると思います。
あなたの実力に見合う塩梅で、チェスのオープニングの進化に置いていかれないことは大事ですが、これほどまでに、深い理解、想像力や順応性に支えられる、「チェスの地力」が大事だった時代も今までないとも言えます。

多くの人が、最新の本、コースやデータベースの習得に固執し、より本質的な部分を見失っているからです。


10. チェサブル以外も試そう

チェスに限らず、学ぶ場も色々試してみると視野が広がるし、あなたに何が合うのか見つけやすい。チェスのオンラインプラットフォームだけでも、例えばこういうサイトもあります。

モダンチェス

チェサブルのコースに目を通すには、あなたがサイト上で学習・復習するか、自力でチェスベースやリチェスなどに移す必要がありますが、モダンチェスのデータベースを購入すると、すでに手順や解説文が全て入っているファイルが手に入ります。
なので、すぐに好きなところから並べられますし、自分で打ち込んだりする必要はない。序中終盤からタクティクスやストラテジーまで、チェサブルに引けを取らないほど充実しているカタログが揃っています。

チェスムード

最近、日本チェス連盟の公式パートナー・スポンサーになったチェスムード。オープニング面でいうと、チェスムードは1つのレパートリーに特化しています。
創始者のGM Avetik Grigoryanは、あなたが1からファイルを作ることで、知識や理解がより頭にうまく定着するという考えなので、ファイルを作りたいなら動画を見たりしながら自分で手を打ち込んでいくしかありません。
実際、集中して頭を使わないといけないので、良いアプローチだと思います。チェスムードのレパートリー、私も何度もOTBやオンラインで対戦していますが、とても質が高いので、こちらも良いオプションには違いません。


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