今年は史上初のオンラインイベントで開催!高専ロボコンの舞台裏に迫る
アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト、通称「高専ロボコン」。
高専ロボコンは、全国高等専門学校連合会、NHK、NHKエンタープライズが共同で主催し、全国の高専生が出場するロボットコンテストです。毎年秋から冬にかけて、地区大会や全国大会が日本全国各地で行われます。
高専ロボコンと言えば、アイデアと技術力を用いて、毎年変わる課題をこなすためにいちからロボットを制作する高専生たちや、大きなフィールドを縦横無尽に駆け回る大迫力の大型ロボット、アッと驚くアイデア、技術、一喜一憂する高専生たちの姿。見ている私達も胸が熱くなります。
そんな高専ロボコンが、新型コロナウイルスの拡大を踏まえ、今年はオンラインでの開催に舵を切りました。
各チームは、自宅や高専からZoomを繋いで参戦!(ロボコン公式YouTubeより)
ロボットのパフォーマンスも中継で披露(ロボコン公式YouTubeより)
実際の大会は地区大会が10月から11月、全国大会が11月29日に行われ、大盛況のもとに幕を閉じました。
初めてのオンライン高専ロボコンの舞台裏について、NHKエンタープライズ・ロボコン事務局の新井智久さんと岡田海都さんにインタビューしました。
左上から、新井智久さんと岡田海都さん、下段は聞き手の池澤です
(聞き手・編集: 池澤 あやか)
今年は運営も「アイデア対決」だった
池澤: オンラインに踏み切った経緯を教えてください。
新井さん: 高専ロボコンは毎年ルールが違うので、1月から3月にかけて、その年の大会ルールを検討しています。
毎年、だいたい3月末にはルールの概要ができていて、今年も2月の段階ではリアルで行う大会ルールを作っていました。
例年同様、このままいけば、4月にルールができているはずだったのですが……。
3月31日に新型コロナウイルスの感染者が200人を超えて、4月7日に緊急事態宣言が7都府県に出ました。4月頭に行われる、高専の地区大会の担当校への説明会では「コロナのことを考えると、今年は開催自体が難しいのではないか」というご意見もたくさんいただきました。
でも、本当に諦めてしまってよいのだろうかと。「諦める」という決断は簡単だけど、「アイデア対決」をタイトルに抱える高専ロボコンで、運営側がアイデアを振り絞らなくてどうするんだと。
競技専門委員会のみなさんと高専の先生方と我々で、なんとか開催できる方法を模索することになりました。
池澤: 今年は運営側も「アイデア対決」だったんですね。
新井さん: そうですね。そこから一週間、アイデアを練りました。その間も、コロナウイルスの感染状況は悪くなる一方で、「コロナがどんな状況になっても開催できるロボコンはどんなものだろうか」と考えたときに、今年は「在宅ロボコン」しかないという話になりました。
実は、「今年の高専ロボコンは、在宅ロボコンでもいいんじゃないか」と思えた背景には、去年から始動した「小学生ロボコン」がありました。小学生ロボコンは、小学生たちが自宅で作った面白いロボットを持ち寄って戦います。その様子を見て、自宅でも、ひとりでも、小さくても、アイデアロボットはつくれるということを学びました。小学生にできて高専生にできないはずがありません。「大丈夫、絶対面白くなる。」という確信を持って、企画を進めていくことができました。
小学生ロボコンのルールのもと作成したロボット(筆者作)。「モーターに直接つけていいのは結束バンドのみ」というルールで、より早くゴールできるロボットをつくります。
制作も大会もリモートが前提に
池澤: ルールを作る上で、例年と違う点や工夫はありましたか。
新井さん: 例年だと、「アイデア対決」と言っているわりには、フィールドもクリアすべき課題も決まっているので、ある程度最適解がありました。
しかし今年は、自宅からの対戦を想定していたので、例年のように共通のフィールドを作ることができないし、共通の素材も提示できないし、共通のルールもつくれません。考え方を100%改める必要がありました。
今年のテーマは「だれかをハッピーにするロボットを作ってキラリ輝くパフォーマンスを自慢しちゃおう」というものです。バッテリーの容量や種類の指定や、エアーコンプレッサー禁止など細かい縛りはあるものの、基本的には自由にロボットを作れるルールにしました。大会自体も、各々の場所から Zoom で中継するという方式を採用しました。
岡田さん: 実際には、秋頃はコロナが少し落ち着いて、高専で作業できるチームも出てきたり、大会当日もほとんどのチームが高専から中継していましたね。でも、「リモートで制作を進めていたので、大会ではじめて顔を合わせた」という沼津高専や、離れた場所にいるひとたちが連携して操縦を行う長野高専みたいなチームもいました。
長野高専のロボットは、ひとりのメンバーの自宅にあるひとつのロボットを離れた場所にいる複数の操縦者が操縦します(ロボコン公式YouTubeより)
飽きないイベントや番組をつくるため、会議ツールをどう駆使するか
池澤: オンラインロボコンは初めてのことばっかりだったと思うのですが、苦労したことはありますか。
岡田さん: 会議ツールを使ったイベント運営を一度も行ったことがないなかで、どうイベント運営や放送を安定的に行うか、試行錯誤を重ねました。会議ツールの選定や、視聴者が飽きない配信画面をどう構成するか、どうやって学生に配信環境を整えてもらうかなど、初めての課題が盛りだくさんでした。
飽きない画面構成にするために工夫を重ねていて、パソコンを10台くらい並べて、それぞれのチームの学生の様子をピン留め固定しておいて、配信画面を作るなど、かなり特殊な会議ツールの使い方をしていました。
新井さん: オンラインイベント運営ならではの苦労もありました。Zoom には会議中の雑音をフィルタリングする機能があるのですが、地区大会の2週間ぐらい前に、拍手の音が途切れてしまうことに気づいたんです。今年のロボコンでは、楽器演奏するチームがたくさん参加していたので、こういう音が使えなかったら、大会自体が開催できないんじゃないかという嫌な考えが頭をよぎりました。
こういうイベントに会議ツールを使うマニュアルがどこにもないため、自分たちでさまざまな設定を試した結果、Zoom 越しに拍手が聞こえるようになったときはとても感動しました。
岡田さん: 学生たちのために、そうした知恵をまとめた配信の前に行う設定マニュアルを作ったのも、今年ならではですね。
あと、今年は、カメラワークや音の調整も学生任せだったので、「どう魅せるか」「どう伝えるか」についても学生たち自身がちゃんと考えなくてはいけない大会になりました。
池澤: 今年は「テストラン」というリハーサルや最終調整を行う時間に、例年では安全チェックやキャリブレーションなどを行うところを、「そのカメラのアングルでは技術の凄さが伝わりにくい」みたいな指導が入ることが多かったですね。
カメラを持つためのロボットを作っているチームもいたのは、今年らしくて、見ていて面白かったです。
大分高専のカメラを持つためのカメラマンロボット(ロボコン公式YouTubeより)
池澤: 毎年、高専ロボコンの地区大会も、その地域に放送される番組として制作されています。今年はオンラインの開催となって、そうした番組制作に影響はありましたか。
新井さん: イベント運営なので、直接は関与していないのですが、オンラインで番組として成立するのかは心配していました。「Zoomの画質が悪くて、番組にできなかったらどうしよう」と。番組試写を見て、やっと「開催して良かった」と本当の意味で安心できました。
国技館を再現したバーチャル会場も
池澤: 毎年、高専ロボコンは国技館で開催されています。残念ながら今年は国技館では開催できないので、国技館をリアルに再現したバーチャル国技館でオンライン観戦することができました。バーチャル国技館という新しい試みはいかがでしたか。
新井さん: 何か新しいことをやりたいというのと、オンラインでいいので「みんなが集まってる感じ」を再現したくて、バーチャル空間に集まれるSNSである「cluster(クラスター)」上にオンライン会場を作ってみることにしました。
岡田さん: バーチャル国技館は、実際に国技館を撮影してつくったものです。今年は国技館には行かない年だと思ってたんですけど、撮影のために入らせていただいて、壁から床から全部写真を撮って、距離を測って、このバーチャル国技館を作りました。
実際、ロボコンは知らないけど、cluster 上で面白そうなイベントが開催されていたから入ってきたという方もいらっしゃったみたいです。こうして新しい視聴者を獲得することができたのは、バーチャル国技館をつくって良かった点です。
しかし、例年会場には選手だけじゃなくて、学校の応援団や、先生、学生のみなさんの親御さんも来ていたんですよ。それに代わるみんなが集まれる場所が理想だったのですが、そもそもcluster はアプリを入れたりアカウントを作ったりしなくてはいけなかったので、デジタルビハインドがある方にとってはハードルが生まれてしまったかもしれません。
リアルに再現されたバーチャル国技館の様子
いろんな人がいろんな発想でロボットをつくるのが、理想の高専ロボコン
池澤: 実現できたこととできなかったことを教えてください。
新井さん: オンラインでイベントを開催するので精一杯で、例年だと、学生同士が待機しているときにお互いのロボットを見せあって交流していたのですが、今年はそういう交流の機会をもうけることができなかったことは反省点です。工夫次第でオンラインでも交流の場が設けられたかもしれません。
しかし、その点以外はほぼすべて実現できたと思っています。むしろ想像以上によくできました。高専生のみなさんはこの状況下にも関わらずよく頑張ってくれて、僕らが想像してた以上のクオリティのロボットが大集合しました。
あと、普段なら参加しないような学生が大会にたくさん参加してくれた点は、例年以上に良かったです。下級生だけのチームや、ロボコン部としてロボットをつくって来なかった学生たち、さらには他の部活動の学生たちも演奏やダンスでパフォーマンスに参加してくれたように、普段だったら関わらないような学生たちが、今回はたくさん関わってくれました。
2人ともロボコン初挑戦だった福島高専チーム(ロボコン公式YouTubeより)
新井さん: いろんな人がいろんな発想でロボットをつくって、みんなで見せ合う。そういうことが高専ロボコンの原点にあるので、そうした理想の高専ロボコンにちょっと近づけました。今年見えた良かったことは、来年以降も引き継いでいきたいですね。
新しい時代の高専ロボコンを模索する
池澤: 来年の計画は既にありますか?
岡田さん: 来年もまた1月からルールづくりがはじまります。去年もそうでしたけど、ルールを発表する春のタイミングで秋の状況が全く読めないので臨機応変に対応できるようにすることは念頭に置かないといけないなと考えています。まだ全然詰められていないですが、集まれた場合のAパターンと集まれなかった場合のBパターンを用意しなくちゃいけないのかなと。
新井さん: でも、今年と全く同じルールで「自宅からハッピーになるロボットをつくってね」というわけにはいかないので、また我々も「アイデア対決」しなくてはいけません。今年とは違うバリエーションを出さなくてはいけないぶん、来年のほうが大変です。「新しい時代のロボコン」をどうつくっていくかが試されると思いますね。
あとは、オンラインはオンラインの良さがありますけど、正直リアルな会場でやりたいです!集まって交流もしたいし、直接ロボットも見たいし、直接学生たちの声を聞きたい。早くそれができる状況になってほしいと思います。
■ お知らせ
12月26日(土)午後3時5分から、今年の高専ロボコン全国大会の模様が、NHK総合・全国放送にて放送されます。ぜひ御覧ください!
BSプレミアムでは、2021年2月26日(金)午後 11:15 ~ 午前 0:44 放送です。
■ 日経関連ニュース
本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。
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