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不便じゃないと楽しくない?マーケティングに役立つ「不便益」という考え方

人類が便利な世の中を作る事に心血を注いできたおかげで、暮らしやすい世の中になってきているように思います。しかし「便利=豊かな社会」と断言するのは短絡的かもしれません。

今回ご紹介する本「ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想」(川上浩二著)では、「不便から生まれる益=不便益」という考え方を解説しています。

書籍の目次

序章 不便は手間だが役に立つ
第1章 そもそも、便利って何だ?
第2章 不便じゃないと楽しくならない!
第3章 これは不便益だ!(勝手に設定)
第4章 「便利」という害
第5章 安心も「仕掛け」も、不便から
第6章 「益をもたらす不便」の性質
第7章 不便益システムを作る
第8章 不便益を「形」にする

そもそも「便利」って何?

便利とは何かを理解するために、ひとまず「便利」を「手間がかからず、頭を使わなくてもいい」と定義します。例えば「甘栗むいちゃいました」という商品は、あらかじめ栗の皮が剥かれていて食べやすいので、とても便利な商品と言えます。

これは「労力が少ない」とも言い換えることもできます。そして労力が少ない事は「楽」だと言えます。では「労力が少ない=便利」と言えるでしょうか?

実は便利か不便かは「状況に依存する」ため、「労力が少ない=便利」とは必ずしも言えません。例えば車のATとMTは、一般的にはATが便利ではありますが、悪路を走ったりエコ運転したい時に細かな制御をするにはMTの方が便利です。つまり「楽」と「便利」は同一ではないという事が分かり、これが本書では重要なポイントになります。

不便じゃないと楽しくない?

富士山の頂上まで連れて行ってくれるエレベーターがあったとして、それは楽しいでしょうか?便利ではありますが、自分の足で登ったという実感は得られず、登山の楽しさを十分に味わう事ができません。

「ウォーリーをさがせ!」の絵本で簡単にウォーリーが見つかると楽しいでしょうか?なかなか見つける事ができないからこそ、楽しさを味わう事ができます。

遠足のおやつは上限金額が決まっているからこそ、選ぶ楽しさがあり思い出に残ります。このように不便であるがゆえに楽しくなるという事例が存在しています。

不便益の確信犯

遠足のおやつや富士山エレベーターは「そういった見方もできるよね」という事例でしたたが、本書では不便であることを積極的に活用している「不便益の確信犯」も紹介されています。

安藤忠雄氏の「住吉の長屋」

安藤忠雄氏の代表作として知られる「住吉の長屋」は、その不便さがゆえに物議をかもした事でも有名です。家の真ん中に屋根のない中庭があり、この中庭が一階の居間とダイニング、二階の寝室と子供部屋を分断しています。雨の日には傘が必要というなんとも不便な構造です。

安易な便利さに流されない、そこでしか出来ない生活を問う住まい。それを実現するための、簡素な素材と単純な幾何学による構成と、生活空間への大胆な自然の導入。この住宅が、今日まで続く私の建築の原点となった。

建築家 安藤忠雄 / 安藤忠雄

急で危険な階段があるグループホーム「むつみ庵」

バリアフリーではなく「バリアアリー」を実践している、認知症高齢者が対象のグループホームです。古民家を改修した施設であり、段差だらけで階段も急というバリアがあるにもかかわらず、むしろ怪我が起こりにくくなっているそうです。

利用者が階段を登り下りする際は、スタッフの配慮が必要となる。しかし、開所以来、一度もこの階段で怪我をした人はいない。むつみ庵の階段があぶないのは誰の目にも明らかなのである。(中略)だから、みんながゆっくりと一歩一歩確実に登り下りする。すると怪我が起こりにくくなる。むしろ、フラットな床面でつまづいて転倒するといったことが起こる。ここが、人間の不条理なところである。

強くなくていい「弱くない生き方」をすればいい / 藤原茂

行きづらいから行ってみたい「星のや京都」

観光地にあるのに陸路では辿り着けず、少し離れた桟橋から小舟で向かう必要がある星野リゾートの旅館です。旅行においては行きづらいから行ってみたいという気持ちも大事であり、それをうまく利用している例と言えます。また客室にはテレビがないという不便さがありますが、非日常感を味わえたり、自然を感じるために重要な要素となっています。

ちょっとした不便で園児が成長する「ふじようちえん」

楕円形の園舎でも有名な「ふじようちえん」では、園児の成長のために不便さを取り入れています。照明は紐をひっぱって点ける、水道はひねる必要がある、芝生の中庭はぼこぼこに、引き戸は少し力を入れないと閉まらない等、様々な部分で学習・成長する機会があります。

子どもにちょっとした不便を体験させることによって、工夫が生まれ、工夫することによって、育ちが出てくるものと信じています。手をかざせば、センサーで水が出て、リモコンで電灯がつくといったオートマチックで快適な生活もいいものですが、ここは子どもが育つところ。ものごとの道理を理解してもらいたいと思っています。(中略)便利さが豊かさだと仮定したら、豊かな時代は、子どもの育ちにとって、ものの本質や道理を理解することがむずかしい時代ともいえるのです。

ふじようちえんのひみつ / 加藤積一

益を得やすい不便12種

なんでも不便にすれば良いというものではなく、「益」が出るように考え・工夫する必要があります。そんな益の出る不便を生むためのアイデアが12種類紹介されています。

  • 大型にせよ

  • 操作数を多くせよ

  • 時間がかかるようにせよ

  • 限定せよ

  • アナログにせよ

  • 疲れさせよ

  • 操作量を多くせよ

  • 情報を減らせ

  • 刺激を与えよ

  • 危険にせよ

  • 無秩序にせよ

  • 劣化させよ

参照:不便益カード

不便をマーケティングに役立てよう

本書では紹介されていませんが、不便益をマーケティングにうまく活用しているなと個人的に感じている事例をご紹介します。

最短ルートを案内しないSUBARUのドライブアプリ「SUBAROAD」

目的地への「最短ルート」ではなく、「走りがいのある道」を案内するドライブアプリです。早く着きたい人にとっては不便極まりないですが、走る喜びを感じたい人にとってはなんとも魅力的なアプリですね。「益を得やすい不便12種」の中の「時間がかかるようにせよ」の事例とも言えます。

行き先を選べないPeachの「旅くじ」

行き先がくじで決まってしまうというなんとも不便な仕組みですが、その人気ぶりはマスメディアでも大きく取り上げられました。不便だからこそ味わえるドキドキ感は、旅と相性が良いですね。「益を得やすい不便12種」の中の「限定せよ」「情報を減らせ」の事例とも言えます。

ぜひ本書の内容を参考に、皆さんのマーケティング活動においても「不便益」を活用してみて下さい。

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