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「BtoBマーケティングの定石」が痛快すぎて笑いと感動が込み上げてきた

書籍「BtoBマーケティングの定石」について、ご紹介させて頂きます。

冒頭から驚いたのですが、BtoBマーケティングのコンサルタントである垣内勇威氏は以下のように語っています。

数年おきに同じ失敗を繰り返し、私のようなコンサルタントに高額の報酬を支払うのは不経済です。私自身も同じような提案を繰り返すことにうんざりしています。

同じ悩みを抱え続けているクライアントが多数存在し続けた方が、コンサルタントとしては仕事に困らないはずです。

ただ、著者にとっては目先の売上よりも、日本のBtoBマーケティングのレベルを上げ、企業が独力で成果を出せるようになる事を重視しているからこその言葉なのでしょう。(もちろん中長期的な信頼を獲得するという狙いもあるでしょうが)

失敗の原因は、「組織の抵抗にあうから」しかないのですが、その本質はBtoBマーケティングを真面目に進めることが「世直し革命」並みに面倒くさいことに起因します。

このような痛快な言葉が続き、「そこまで言っちゃう?」「それ分かるわ〜」と笑ってしまいながらも、極めて本質的かつ具体的な解決策にまで触れられており、書籍としての完成度の高さに感動しました。

BtoBマーケターが悩み続ける課題とは?

皆が口を揃えて言う悩みとは、どうすれば良いかを提示するだけでは人は動かない、つまり戦略・戦術が実行に移されないというものです。

私も事業会社のマーケターとして活動していく中で痛感しましたが、BtoB、BtoC問わず、マーケティング部は非常に多くの部門の協力が必要であり、それなしには大きな成果を残す事ができません。

消費者や企業担当者の態度変容を起こし、世の中を変化させていく事が、マーケターとしての腕の見せ所ではあるかと思いますが、その前に社内メンバーの態度変容を起こさなければ何も始まらないという事につきます。

ところが、マーケティング部と営業部・商品部・開発部等は視点やKGIが異なるということもあり、すんなりと連携できないという事も多々あります。

どうすれば成果が出るかという「正解」だけ示しても、関係する複数部署の担当者が納得していなければ、その企業は一切動きません。
地道に泥臭く社内調整をして、初めて「定石」が実行に移されるのです。

本書では、戦略・戦術を実行に移すための組織の動かし方までをカバーしており、多くの悩めるマーケターの助けになるのではないかと思います。

「BtoBマーケティングの定石」の構成

書籍の構成と要約をざっとまとめると以下のようになっています。

  1. なぜBtoBマーケティングの大半は失敗に終わるのか?
    失敗の原因は「組織の抵抗にあうから」しかない。今は誰もやっていない業務を新たに作り出すため、通常は誰一人としてやりたがらない。

  2. 組織の定石「短期売上」から「顧客視点」への革命を起こす
    小さくてもいいので成功事例を作り、徐々に顧客視点の重要性を浸透させていくという、気が遠くなるくらい地道な努力が必要。

  3. 戦略の定石 貴社に本当に必要なマーケティングとは?
    戦略の定石を4つのパターンで紹介。デジタルマーケティングが不要なケースも存在する。

  4. 戦術の定石 トップ営業の生み出す「顧客体験」を再現する
    リードを獲得して営業に渡すだけという考え方を全否定する。スキルの低い営業担当でも売れるような戦術が必要。

  5. 日常生活フェーズ 「信頼」と「純粋想起」を獲得する
    約50%は営業と会う前に購入を決めている。信頼と純粋想起の獲得は非常に重要な論点となる。

  6. 初回購入フェーズ 「商談」と「商品」の障壁を下げる
    新規受注は継続受注よりもずっと難しいため、いかにハードルの低い商品を設計するかが重要な論点となる。

  7. 継続購入フェーズ LTVトリガーを定性調査で見極める
    選ばれ続けるためには商品そのものを磨くしかない。顧客体験改善のため、定性ユーザ行動観察調査が必要。

組織を動かす成功のポイント

マーケティング部と営業部の連携、そして組織を動かす上でポイントだと思った部分を要約します。

・営業を全力でサポートする事から取りかかる

マーケティングが営業の邪魔をしてはいけない。「足を使った営業担当」を活かしつつ、彼ら彼女らを全力でサポートする事から取りかかる。

  1. 営業人材の格差を埋めるサポート
    トップ営業の活動を紐解き、どの営業担当でも再現性高く、売上を伸ばせるようにする。

  2. 営業担当の業務効率化サポート
    人間がやらなくても良い作業をデジタル等の手段に置換する。

  3. 人間では不可能な年中無休の顧客対応サポート
    デジタルを活用した顧客サポートで、顧客満足を高めつつ、商談機会を逃さないようにする。

・営業も知らない「忖度なき顧客の悲鳴」を共有する

短期売上視点から「顧客視点」に価値観をシフトさせるため、リアルな顧客の「行動観察ショー」(一般的に言うとデプスインタビュー)を開催する。
自社との取引の歴史を、最初から最近にいたるまで順を追って聞いていく。事実に絞ってヒアリングし、忖度なき事実を集める。これまでよかれと思っていた施策がことごとく的外れである事に気づき、顧客視点の重要さが社内へ浸透していく。

・分業神話に囚われず革命を起こすワンチームを組成する

分業の目的は、組織が大きくなったタイミングで、KPIを明確化することにある。マーケティング改革を起こす初期フェーズでは、全くそぐわない体制である事は自明。
特定の商品群に絞る等、領域を選んで少人数で「商談前」「商談中」「購入後」を一貫して設計・管理するチームを結成する。人望が必要となるため、メンバーには次期経営候補のエースの若手、社内調整が得意なシニア等をアサイン。チームでいち早く実績(売上)を創出し、社内の信頼を獲得していく。社内広報にも力を入れ、ミッションや実績、社内メンバーが受けられるサポート等を、キーマンに営業して回る。社内勉強会や講演、メディア露出等も有効。

マーケティングに定石はあるのか

「定石」といった言葉にどこか不信感を覚えたり、「マーケティングには定石などない」という意見を持つ方もいらっしゃるかとは思います。

ただ、定石を「これをやったら必ず成功する」というものと捉えるのではなく、「成功の再現性を高めるためのコツ」という意味で捉え、まず業務に活用してみようという姿勢を取ると、大いに学びになるのではないでしょうか。

この本を読むとマーケティングがとんでもなく面倒なものに見えてくる方もいるかもしれませんが、「だからこそやりがいもあるし、チャレンジしてみよう!」という人が一人でも増えるといいなと思います。


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