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マーケターキャリアの終着点としての個人事業主という生き方

会社員を20年続けた後に個人事業主になり、1年が経過しました。

元々は独立するつもりは全くなく、「会社員生活に疲れてしまった」というネガティブな理由でなんとなく個人事業主になってしまったのですが、結果として非常に良かったと感じています。

この1年を振り返り、なぜ全く考えていなかった独立をすることになったのか、独立して何が良かったのか等をまとめました。皆が個人事業主になるべきだとは思いませんが、マーケターキャリアのひとつの選択肢として何かしらの参考になれば幸いです。


会社員時代のキャリア

会社員時代のキャリアは、大手SIerでのシステムエンジニアからスタートし、スタートアップでのデジタルマーケター・CRMベンダーでのマーケティングコンサルタント・アパレルブランドでのデジタルマーケター・コンサルティングファームでのITコンサルタントといった経験を6つの企業で積みました。

BtoBとBtoC、支援側(コンサル)と事業主側、大企業とスタートアップという対照的な企業を経験し、最上位の役職は部長でした。今後のキャリア構想としては、BtoCの事業主側で、管理職ではなくエキスパートとしてスキルを磨いていきたいと考えていました。

なぜ独立を考えていなかったのか?

1.会社員の方が大きな仕事ができる

会社という組織には、ヒト・モノ・カネといった経営資源が個人と比べると豊富にあります。そういった組織に属した上で経営資源を活用し、より社会的インパクトのある大きな仕事がしたいと考えていました。

2.会社の看板がカッコいい

誰もが知っているメーカーや、生活の中で良く目にするブランド等で働く事が、誇らしくもあり格好良いという感覚がありました。家族に自慢できますし、名刺交換をした時に「いつも使ってます!」「すごい企業にお勤めなんですね!」と言われるのは悪い気がしません。

3.仕事の手触りが欲しい

マーケターとして独立した場合、他社のマーケティングを支援するというのが主な仕事になります。「外部から支援をする」という立場は、私にとっては手触り(仕事を自分で成し遂げた感)があまりないと感じていました。

4.孤独が嫌だ

会社で一緒に働く仲間とは強固な絆が生まれ、それをかけがいのないものだと感じていました。独立してしまうと、そういった関係性を築くのが困難になってしまいます。

5.会計処理が面倒

事務作業(特に会計処理)は私にとって最もやりたくない業務であり、避けたいと考えていました。

6.案件獲得の活動が面倒

仕事を確保するために、常に営業活動や人脈構築をしなければならない生活には耐えられません。

会社員のデメリット

独立はしないと決めていたのに、なぜしたのか?一言で表現すると「会社員としてのデメリットを強く実感する出来事が重なったから」になります。

その出来事は、私の独立に対する考えをすっかり変えるほどのインパクトがあったのです。会社員としてのデメリットで、私がストレスに感じるのは以下の3つです。

1.キャリア構築のコントロールが困難

転職した直後は双方合意の上で部署や役割が決められるかと思います。しかし会社の状況が変わると異動や役割の変更等が行われ、基本的には従わざるを得ません。若手の頃だととりあえずチャレンジしてみるかという気も起こりますが、明確に歩みたいキャリアが決まった後に、そこから外れるような命令があると大きなストレスになります。

2.人間関係のコントロールが困難

会社員は基本的に上司・部下・同僚は選べません。どのような相手がいようが成果を出すのがプロフェッショナルであるとは思いますが、根本的に合わない人と一緒に仕事を進める状況は辛いものがあります。

3.管理職以外での出世が困難

管理職を何年かやってみましたが、自分には合っていないためエキスパートとしてのキャリアを歩みたいと考えていました。しかし、そうしたキャリアを受け入れ、評価してもらえる企業は多くはありません。

独立してからの過ごし方

精神的に疲れていたので、次の仕事が決まらないまま会社を辞めてしまったのですが、そこからの過ごし方をご紹介します。仕事がない間は収入が途絶えることになりますが、数ヶ月無収入になったところで生活が困窮する訳ではありませんし、休息を取りながら焦らずに仕事を探そうという気持ちで活動を始めました。

・長期案件探し

収入のベースとなる長期案件はエージェントや知り合いからの紹介、案件紹介プラットフォームやカジュアル面談サービスでの応募等の方法で探しました。便利な世の中になったもので、非常に多くの案件獲得プラットフォームが存在しています。フリーランス・副業人材サービスカオスマップを参考に、10個ほど登録しました。経験を活かして、コンサル系とWebマーケ系、あとは昔から興味があった地方創生系のサービスに登録しています。

・単発コンサル

長期案件探しの合間に、1時間程度のスポットコンサルをいくつか実施しました。主に利用したのは「ビザスク」というサービスです。多少なりとも収入になりますし、仕事の感覚を鈍らせないという効果もありました。

・開業届の提出

freee開業を使って開業届を提出しました。フォームに入力して電子申請するだけなので非常に簡単、時間がかかったのは屋号を決める事くらいでした。これで晴れて個人事業主となった訳です。社会という大海に、自分の旗を立てたような感情が湧いたのを覚えています。

・会計や税金の勉強

日々の会計処理や確定申告、納税等をスムーズに行うため勉強を始めました。ありがたいことにYouTubeには税理士の方が解説の動画をアップして下さっていますし、分かりやすい初心者向けの本も出版されているので、基本はすぐに習得することができました。

・稼働開始

会社を辞めてから2ヶ月を経て本格稼働を開始しました。メインの長期案件は週4日常駐する形でマーケティング支援をする事になったので、個人事業主とはいえ会社員に近い働き方です。外部の専門家として支援を行う立場のため、管理職ではありません。また、常駐しない日については別の2つの案件をリモートワークで対応しています。

独立したくなかった理由を改めて考える

当初思っていた「独立しなかった理由」について、今改めて考えてみようと思います。

1.会社員の方が大きな仕事ができる

確かに個人として使える経営資源は少ないのですが、クライアントの経営資源を活用して成果を出す支援をしているので、会社員時代と大きくは変わらないという感覚です。

2.会社の看板がカッコいい

大企業から独立して起業した方や、フリーランスとして頑張っている方と接するうちに、そちらの方がカッコ良いなと感じるようになりました。今は会社の看板に対する憧れはかなり薄まってきています。

3.仕事の手触りが欲しい

外部から支援する立場ではあるのですが、かなり入り込んで一緒に汗を流して仕事をしているので、手触りも感じられるようになりました。ようは自分の働く姿勢次第で、外部からだろうが手触りを感じられるという事です。

4.孤独が嫌だ

独立してから、前職でお世話になった方々から多くお声がけを頂きました。「いつか独立すると確信してた」「今度仕事お願いするよ」といったポジティブなお話を頂き、「個人で活動しているが、孤独ではない。多くの方との繋がりがあり、仕事をしている」という感覚を持つに至りました。

5.会計処理が面倒

freee会計を使っているのですが、これが便利過ぎて面倒さを感じていません。むしろ会計処理が楽しくなっているくらいです。自分で納税や確定申告をする事で、より社会人としての自覚が芽生えた事も良かったです。

6.案件獲得の活動が面倒

案件獲得のプラットフォームに登録しているので、待っているだけで色々な案件を紹介してもらえます。前職でお世話になった方から紹介頂ける事もあるので、案件獲得は全く面倒ではありませんでした。

個人事業主のメリット

独立によって、これで私を悩ましていた「キャリア構築」「人間関係」「管理職」の3つのストレスは解消されることになりました。

1.キャリア構築しやすい

目指しているキャリアプランに合わせて、自分で仕事を選べるのがメリットです。案件の途中で別の仕事を依頼された場合は、別の案件に乗り換えるという選択肢もあります。

2.一緒に働く人を選べる

「この人と一緒に仕事がしたい!」と心から思えた方とだけ、仕事をするようにしています。面談の際には案件の中身だけを聞くのではなく、クライアントの性格が垣間見えるような質問をしたりもします。気の合う人とだけ仕事をする事により、人間関係のストレスは最小化できます。

3.管理職にならなくて良い

一人で活動しており、上司も部下もいないので、当然管理職である必要はありません。管理職でなくとも、自分の努力次第で収入を伸ばす事が可能になりました。

また、活動を通じて発見したメリットがあります。

4.評価が分散する

1つの会社で働いていると、「会社での評価=自分の社会人としての評価」と感じてしまうかと思います。しかし、ある会社で評価されなかった人が転職した途端に評価されるといったような事が起こり得ます。つまり、環境で評価が変わる事もあるので、その会社で評価されなかったからといって極端に落ち込む必要はありません。私が経験した6社の中でも、転職した途端に評価が下がったり上がったりという事はありました。

個人事業主として複数の企業の支援をしていると、自分の評価が分散します。A社からは低評価だが、B社からは高評価といったような事が起こり得るのです。そうなると、極度に落ち込んだり、逆に天狗になったりすることがありません。

この分散している状況が大事だと思っていまして、例えば全ての企業から高評価であった場合、自分にとって得意な事ばかり・難易度の低い事ばかりやっている可能性があります。こういった環境は自己成長にとっては良くありません。逆に低評価のみであった場合、自分の強みを活かせる仕事ができていない可能性があるので、案件の選択基準を見直す必要があります。

私は得意分野のマーケティングとDXの領域で複数の企業の支援を行っているのですが、これまで支援実績がない業界にもチャレンジしています。業界が違えば他業界の常識が通じずに失敗することもあり、さらなる成長の機会になっています。

5.働くペースをコントロールしやすい

独立1年目は仕事を詰め込みすぎないように案件を3つにおさえましたが、その気になれば朝晩や土日を使ってさらに仕事を増やすことができます。収入を増やしたいのか家族との時間を増やしたいのか、その時々の生活の状況によって、仕事量をコントロールできるのが個人事業主のメリットです。

個人事業主が生きやすい世の中

ITツールの進化、リモートワークの浸透、フリーランス向けサービスの充実等により、昔と比べて個人事業主が生きやすい世の中になってきていると感じています。

面倒な会計処理はクラウド会計ソフトに任せられ、資料作成やアイデア出しは生成AIの活用で効率化でき、案件はプラットフォームを活用して獲得、リモートワークの浸透により全国各地の案件対応が可能です。確定申告のやり方や、インボイス制度等の法改正に伴う対応は、親切な税理士YouTuberの動画に助けてもらえます。

この記事が、会社員が合わないと感じている方に対して、個人事業主という生き方を考えるきっかけとなれば幸いです。仮にもし個人事業主になってみて合わなければ、また会社員に戻れば良いだけです。短い期間であったとしても個人の力でビジネスをしていた経験は、転職にプラスになるのではないでしょうか。

私も今はこの生活に満足していますが、いずれまた会社員に戻るかもしれません。想定外の独立を経てキャリアは本当に予測不能だと実感しましたが、時代や環境の変化に合わせて、変幻自在にキャリアを形成していこうと思います。


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