色の秩序がカードをつくる(前編)
「カラーパイ」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
サクサクなパイ生地のスイーツ…ではない。
TCGの起源「マジック・ザ・ギャザリング(MtG)」で提唱された概念で、ざっくり言うと『(原則)その色に合った機能性&世界観を守ってカードをつくりましょう』というゲームデザインの考え方を指す。
(原則)と付けたのには意味があるのだが、それについては後編で触れる。
このカラーパイという思想は、後のあらゆるTCG/DCGに形を変え引き継がれている、世紀の大発明である。
▼MTG wiki「カラーパイ」
http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%82%A4
おっとそうだ。ここで言葉の定義を決めておこう。
MtGとその系譜を継ぐ「アナログ」なカードゲームをTCG、
TCGを「デジタル」化したものをDCGと呼ぶこととする。
只カードゲームと指してしまうと『《ポーカー》や《ドミニオン》は?』と趣旨がズレるし、『トレーディング(交換)要素があるか?』という言葉遊びも…私は好きだが、今はお呼びでない。
ちなみに英語圏ではTCGではなくCCG(コレクタブルカードゲーム)と呼び、こちらは齟齬がなさそうだ。厳密に言えばCCGのデジタル版は「DCCG」かもしれない。《ハースストーン》や《シャドウバース》もDCCGならば、中身に合っている。
話を戻そう。
今回はこのカラーパイという考えが、TCG/DCGにとってどう大事なのか?どう変化し受け継がれているのか?変わらず残っている素晴らしい側面は何なのか?について、私の知る範囲で触れていきたい。
前後編に分けて、今回は前編。後編を書くかどうかはスキorいいね次第だ。
■素晴らしきかなメタゲーム
《メタゲーム》はカードゲームの醍醐味だ。
デッキという完成された彫刻を、生き物に変える命である。
うん、大げさに例えてしまった。私は例え話が大好きなのだ。
どうか、寛容な気持ちで読んでほしい。
メタゲームとは、ゲームデザイン上の制約・環境の範囲を超え、外部要因によって起こり得る結果の分析から導かれる意思決定のこと…ざっくり言おう、「ゲーム開始前から行われる駆け引き」である。
分かりやすく「じゃんけん」で話そう。
じゃんけんの説明は要らないね。例え話は大好きだ。
とある小学校での出来事。ホームルームで突然こう言われるんだ。
『今日から一週間、グーはパーに40%で勝てるものとします!』
これはマズイことになったぞ。じゃんけんは掃除当番の押しt…分担にも、給食のプリン争奪戦にも使われている伝統的な決闘手段。この変更には大混乱だ。(私はプリンが大好物だから本気でやるからな?)
この状況では圧倒的にグー有利だ。
グーは33.3%の確率でチョキに勝ち、33.3%の確率でパーに負け…るはずが、
そこから40%で結果が裏返ってしまう。
グーは46.7%で勝ち、33.3%であいこ、負けはわずか20%である。
パーは20.0%しか勝たない。
チョキの勝率は33.3%のままだが、誰もパーなど出さない。
勝手にグーに激突し自滅する「賢者」の選択である。
(言うまでもないが、カードゲーマーが使う賢者は褒め言葉ではない)
この小学校は今、グーのTier1環境になった
皆が最初はグー最強と考えるだろうが、すぐに気づく。
皆がグーしか出さないのであれば優位性は何もない。決着がつかないのである。であれば、『逆にパーを出したほうがいいんじゃないか?』という思考に至る。
初日のプリン争奪戦は見ものだろう。
『あいつらは、このじゃんけんをどこまで掘っただろうか?』
君はきっと、メガネをクイクイしてチョキを出し、素直なグーに負けるのだろう。バカめ!
もし相手がテストで毎回100点を取るような秀才だったらどうする?
『奴は聡明だ、そして俺を舐めている。確率にしたがいまずは探りのグーで来るはずだ。』
『だからこそ、ここは初手からパーか?』
『いやそれを読んで相手がチョキ…いやいやリスクがでかい。考えすぎだ…!』
この小学校では今、全員がじゃんけんというルールの外側に思考を張り巡らせている。メタゲームとはまさにこの状況、「ゲーム開始前から行われる駆け引き」だ。
環境の大多数はグーを出すであろうという数学的な拠り所。
だからこそ裏をかくという心理戦。
更に踏み込み、相手の性格から何を出してくるかという、人読み。
素晴らしきかなメタゲーム!この思考は無限だ。
今日のプリン争奪戦をクラスの皆はみているぞ、また明日も変わるだろう。
金曜日はどうだろう?逆にパーとチョキの応酬になっているかな?面白いぞ!
じゃんけんという完成された彫刻を、生き物に変えてしまった。
これがメタゲームだ。
■俺のグーはパーにも勝る!
カラーパイが持つ大きな発明が2つある。(と私は思っている)
1つ目は、じゃんけんにカスタマイズ性を与えた功績だ。
同じ例えは、話が早くて好きだ。
先程の話では、あくまでグーはグーであった。だがTCGは色を混ぜることができる。仮に40枚のデッキなら、24枚の赤と16枚の青で、赤青デッキがつくれるのだ。
こどもの頃、下図のような手をつくり『これチョキパー!俺の勝ち~』などとやったことはないかな?
微笑ましい。私はやられた側で、内心イラッとしていたが、TCGはそれが許される。先程の「グーが40%でパーに勝てる」というのは、まさにこの発想だ。
仮に「赤は青に強く・青は緑に強く・緑は赤に強い」TCGがあるなら、
このままでは勝率33.3%のじゃんけんとなってしまう。しかし赤青デッキであれば、負けるはずの緑に勝ち目が生まれる。メインは赤を軸にしているから、緑への勝率は40%くらいかな?となるわけだ。
先程の例でいえば、ホームルームで知らされていない暗器だ。
君だけが赤青を隠し持つ。『バカめ!俺のグーはパーにも勝る!』
―― プリンは頂いたぞ。
◆余談
ちなみに赤青には青い要素が入ってしまっているので、ドローが偏ると、
赤単に対して少し不利になるし、青単に負けてしまう可能性だって僅かにある。さらに踏み込むと、同じグーでもその中身は違うし、混色の安定性(再現性)とか、考慮するべき要素は色々ある。
私は一晩中でも話せるが…アルコールが足りないようだ。
今回はカラーパイの話だったね、この辺にしておこう。
■混沌を手中に
このように、カラーパイは素晴らしい「遊びの仕掛け」である。単なる分類に収まらない。MtGをリスペクトしたTCGの歴史は、長らくカラーパイ&混色という手法を取ってきた。
だが、DCGは違っていて面白い。色を「クラス」として置き換えてきた。あえて名付けるなら「クラスパイ」だ。
クラスは混ぜたがらないのが特徴だ。
戦士は戦士クラスの専用カードと全クラス共通カードでデッキを構築する。魔法使いは魔法使い。グーはグー、パーはパーであり、魔法戦士は許されない。
自然を守らねばならぬ!
DCGがそうというよりも、先駆者であるハースストーンに倣ったというのが正しいだろう。DCG乱立期に生まれた多くのゲームは、ハースストーンフォロワーだ。
これには利点があり、なんといってもゲームバランスをコントロールできる。
じゃんけんは完成されている。あのゲームにバランス調整は不要だが、TCG/DCGはそうはいかない。
デッキ構築の自由度が高いということは、それだけ混沌とする。ある日誰かが開いてしまうわけだ。グー・チョキ・パー全てに勝てる第4の手、パンドラの箱を。じゃんけんはそこで滅びる。
この滅びはTCG歴史上何度も起きてきたことだ。これを未然に防ぐことはできないだろうか?クラスパイならできる。クラス内に組み合わせを制限すれば、強すぎるコンボやデッキは生まれにくい。メタゲームをある程度、デザイナーのコントロール下に収められるというわけだ。
(独創性を楽しみとするデッキビルダーにとってはやや不服だろうが…)
■正々堂々!
TCGの多くはマリガン(手札交換)の時点で、相手のデッキがわからない。
『赤か?青か?もしかして赤青なのか?好きそうな顔しやがって…』
この状況で、特定のデッキを対策した手札を持つことは難しい。
相手に依存しない、自分の初動の滑り出しを優先するのがセオリーだ。
手の内は戦いながらわかってくる。つまり、騙し討ちや偽装も可能だ。
しかし「クラス」はそれが起きにくい。最初から相手が弓使いとわかっていれば、距離を取り様子見する必要はない。むしろ逆効果だ。手札交換で狙うは、接近戦に持ち込む剣か盾だ。
マリガン時点で、戦略が立てられる。
ここが大きく違っていて、面白い。
(『こいつ、弓兵のくせに双剣を使うのか!?』ということも稀にあるけど)
■一枚岩とは言ってない
実は「クラスパイ」も表現を変えて混色的な遊びが実現されている。
私がかじっているゲームで、最近のシャドウバースを例に挙げよう。
1つ目は、1クラスに複数デッキタイプがあるという状況。
シャドウバースには、ネメシスというクラスがあり、現在Tier1だ。
しかし、現環境のネメシスは(大会に持ち込む可能性のある)デッキが3種類もある。
今回はそのうち2つ《連携ネメシス》と《AFネメシス》に絞って話す。
ここにもう1つ、ロイヤルというTier1のクラスを登場させよう。
このクラスは現状シンプルで《進化ロイヤル》という1つのデッキタイプが最強である。
この進化ロイヤルに対して、連携ネメシスは不利で、AFネメシスは有利だ。異論があるシャドバプレイヤーはここにはいない。いいね?
そして、同じネメシスの中で有利不利が明確にあり、連携ネメシスはAFネメシスに有利である。
連携ネメシス → AFネメシス → 進化ロイヤル → 連携ネメシス…
じゃんけんだ。そしてここに混色の概念が活きてくる。
連携ネメシスとAFネメシスは混ぜようと思えば混ぜられるのだ。
どちらにも採用されるカードが10枚前後あり、親和性も悪くない。
いわば赤と赤の混色。シャドバではしばしば、ハイブリッドと呼ばれる。
事実、連携ネメシスが環境を席巻するまでは《連携AFネメシス》というデッキがいた。
このように1つのクラスの中に複数のデッキタイプがある場合、混色に近い概念は成立し得る。
なんだ、結局混沌としているじゃないか。
デッキビルダーの諸君には朗報だ。独創性を発揮できるぞ。
■ルールが多様性をつくる
2つ目は、競技シーンにおけるBO3ルールの採用。
シャドウバースのゲーム内ランクマッチは1デッキを使っての1発勝負。
じゃんけんに近く、マッチング時点で大勢が傾くので、カジュアルに遊べる。だが、公式大会などの競技シーンでは、2デッキ制コンクエスト形式のBO3ルールが採用されている。
コンクエストというのは、1度勝ったデッキがそのマッチで使えなくなるルール。これの2デッキ制なので、先に両方のデッキで1勝ずつしたほうが勝ちというわけだ。
このルールになると途端に、デッキの組み合わせが拡がる。メタゲームが動き出す。
これが面白い。ランクマッチであれば、連携ネメシス vs AFネメシスの相性は完全に決まってしまうのに、互いの相方に進化ロイヤルがいるだけで、全体勝率は変わってくる。どちらが大会環境に適応しているかも考えて、持ち込みに頭をひねることになる。
(存在するデッキは、勿論この3つだけではないからだ)
これもある意味では、混色のよう概念。
BO3は2つの単色デッキを組み合わせた混色デッキ戦なのだ。
■温故知新
混色が可能なDCGもある。例えば《レジェンド・オブ・ルーンテラ》。
このゲームにもクラスの概念が存在し《チャンピオン》と呼称される。
独特なのは、チャンピオンを2人まで選んでデッキを組めること。
いわば、クラスの2on2タッグマッチというわけだ。熱いな!
「ゲームバランスを取りやすく、マリガン時点で戦略も立てられる」という、クラス性の利点は残しつつ、カラーと同じ混色(但し2色まで)を許しデッキの創造性と多様性をみとめる。
TCGとDCGのハイブリッドともいうべきデザイン。
詳細は省くが、バトルのルールも革新的なゲームとなっている。
勝手な解釈だが「温故知新」を体現したようなDCGと思っている。
■茨の道
もう一つの例が《ゼノンザード》
このゲームには、クラスの概念がない。
古き良きカラーパイのゲームだ。DCGでこれをやっているゲームは少ない。
それだけでも(調整が)大変なのに、さらに《フォース》という独自の構築概念がある。
――オイオイオイ、正気か?
フォースは、必ず2つ選ぶ装備品だ。
12から装備品のライフ(耐久値)を引いた値がプレイヤーのライフとなる。
MtGでいう《エンチャント》、シャドウバースなら《アミュレット》と思っていい。ゲーム開始時に必ずこれが2つ場に出た状態で始まる。
(つまり、クラスと同じく、マリガン時点で戦略を立てられる)
それぞれ固有の効果を持っており、放っておくと厄介だ。
先程説明したとおり、フォースもライフを持っている。
無視してプレイヤーのライフを0にしても勝ちだが、
邪魔と思うなら、装備品を先に攻撃し破壊してもいい。
というのがフォースの概要だ。
デッキ構築の創造性と多様性は、カラーパイ×フォースでさらに膨れ上がっている。プレイヤーにとっては嬉しいことだが、大丈夫なのか?
ちなみにカラーは6色(MtGは5色)で、フォースは10種類もある。(最近1つ増えた…)
だが、このゲームはAIをテーマにしており、超絶にAIが賢い。
(プロを倒す将棋AIをつくる会社と、タッグを組んでいる本気ぶりだ)
AIはテストプレイにも活かされているらしい。カラーパイ×フォースの膨大な組み合わせ、この混沌を、まさかコントロール出来ている…?
そう考えるとある意味では、これもDCGらしいデザインと言える。
丁度来週に、ゼノンザード初の混色テーマの追加パックがリリースされる。
カラーパイを選んだ時点で必然ではあったが、あえて茨の道を…。
次回はシャドウバースに代わり、このゼノンザードにも付き合ってもらうことになる。言いたいことがあるってことだ。『賞賛と苦言がある。どっちから聞きたい?』
■次回予告
前編はここまで。後編ではカラーパイが持つ大発明の2つ目、「色に思想を与えた功績」について語る予定だ。
次回の献立はこんな感じ。デザートは考え中。
■性格診断はお好き?
■カラー警察だ!逃げろ!
■SNSという、劇薬。
うーん、今にも語りたいものばかり。むしろ、こっちのほうが更に熱くなれるかも!とはいえ一旦スタミナ切れです、また次回。
長文にお付き合い頂き、ありがとうございました!
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