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【雑談】人を貸し出す図書館がある?(ヒューマンライブラリー)

私は、人に借りられたことがあります。
あらすじに沿って、数人の方たちに「読んで」もらいました。
本来は受動的なものである「本」という枠を超えて、読者と対話しました。
その場所の名は、ヒューマンライブラリーです。


10人弱の人間が、輪になって座っています。
年齢も職業も、様々です。
彼らは、本を読む人、つまり「読者」です。


ここは、ちょっと変わった「図書館」なのです。


そのうち、ひとりが話し始めます。
「司書」によって探し出され、その日貸し出されることになった、
「本」です。



「わたしは…………」





2000年にデンマークのNGOが、北欧最大級の音楽祭であるロスキレ・フェスティバルで始めた「人を貸し出す図書館」ヒューマンライブラリー。

障害者、ホームレス、性的少数者、薬物依存症の人、外国人就労者など、
社会の中で偏見やスティグマを経験したことのある人々が「本」になり、一般「読者」と対話をするこの「図書館」は、世界中に広がり、現在では90ヵ国以上で開催されている。

ヒューマンライブラリー 多様性を育む「人を貸し出す図書館」の実践と研究, 坪井健ら (2018)



ちょっとした偶然で、ヒューマンライブラリーのことを知りました。

私はまだ、健常者でした。自分の内側にある問題について、気づくすべがなかった時期です。
そのときは、「読者」として参加したのです。


私が初めて借りたのは、その社会における大多数の人々とは、ルーツを異にする方でした。


ぼんやりとしか自分のことを知らなかった子ども時代、学校文化の中で差別された思春期、積極的にルーツによって発言するようになった青年期。

文字だけ、でも、音声だけ、でもない。

目の前に「生身」の人間が居て、その人という「書物」が語るあの空間は、日常からは隔離された、とんでもなく背筋の伸びる場所でした。



無意識にマイノリティ性を持つ人の人生を楽観視していたという事実が、
「本」が紡ぐ言葉によって、少しずつ、明るい場所へと引きずり出されました。


「自分が知らないことを知りました。」


小学生が社会科見学の感想で使うようなお決まりの言葉は、
実はあの瞬間のためにあったのだ、と思いました。


さて、そこから時計は5年ほど進みます。



双極性障害という診断を、本当の意味で受け入れ始めた時期、
パソコン上に、ヒューマンライブラリーのことを綴った備忘録のようなファイルがあることに気づきました。

良いなあ、また参加したいなあ、と思いました。
そして、あることに気づきました。


「あれ?そういえば私もマイノリティなんじゃなかったっけ?」


連絡をとり、お話をすることが決まりました。


私が話したことすべてを、ここでお披露目することはしません。

今後、文字にしようと思ったときには、ちょっとずつ段落にしていこうかなあ、と思っています。


でも、少しだけ、抜粋したいと思います。

私にとって首吊り用のロープは、お守りなんです。
いつでも死ねる、そう思いながら私は生きています。

私の中では、自ら死ぬという選択肢は、わりとすぐそこにあります。
朝になったら顔を洗う、家を出たらカギをかける、とかと同じように、
「夜がきたら、飛び降りる?」っていう選択が私の中にはあるんですね。

ただ、今までたまたま、その選択肢をえらんでこなかっただけ。
そういう感覚なんです。

YouTubeには、当事者向けの有益な情報が転がっている一方で、ロープの結び方をはじめ、自ら命を絶つ方法を解説する動画がいくつもあります。

もう一回大きな失敗をしたら、死んでしまおう。生き地獄なんだから、死んだほうが多分幸せで、来世に期待した方が良いだろう、と私自身に語りかける私は、常に頭のどこかでちらついています。


「本」になったちょうど1年後、
私はまた、社会的に大きな失敗をしました。

今度こそ、死のうと思いました。


でも、死ねなかった。
死にきれなかった。


勇気がないというよりかは、心のどこかで
「私はまだやれるはず」って、信じているんだと思います。


結局、自分大好きなのです。



実際、重い鬱のあとには、とても気持ちの良い躁がやってきました。
今も継続しています。


だからこんな自分語り、世界中に公開しているわけです。


同じ日、性的マイノリティの方の「読者」になった。
「普通」について熟考させられる、とても有意義な時間だった。


「死んでほしくないと思いました。」


私を「読んだ」うちのひとりの感想です。

「司書」の方からこれが送られてきたとき、なんとも言えない、少し奇妙な、でも温かい気持ちになりました。


調子が悪くなると、いつも周囲に「死にたい、死にたい」とまき散らす私に対して、こんなに直球で「死んでほしくない」なんて言ってくれる人は、今までいなかったのです。



初めて会った人。
私が話したのはたった30分。
その後、少しばかり質問を受けた。
それに短く答えた。
読者の方たちの顔は、ぼんやりとしか憶えていない。



ただ、それだけ。



死んでほしくない。
その短い言葉が持つ温度。


「本」になった経験は、今も色濃く私の人生に影響を与えています。
いつかまた、あの図書館を訪れられたらいいなあ。

「本」を傷つけてはならない。
この図書館のルールです。


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