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浮遊感とメタ認知 ~『盗まれた神話 記・紀の秘密』を読んで~

例えば宝探しをするとき、私たちはあらかじめ場所を絞り込んで、そこに集中して探索をします。しかし、最初の絞り込みが間違っていたら、永遠に宝にたどり着くことはできません。

会社などでもそうでしょう。事象をカテゴライズして、目星をつけたら誰もそこにしか注力しない。思い込みからよく吟味もせず、最初に宝を捨てているといったことは、頻繁に起こっているのではないでしょうか。

その点、著者の古田武彦の研究方法は際立っています。支点となるような固定的な前提条件に頼ろうとはしません。純粋無垢なままです。支点がないので、円を描く際のコンパスの支点が常に移動するかのように問いが移動していきます。読んでいると、ふわふわとした浮遊感を覚えるのはそのためです。

戦前、歴史学者の津田左右吉は、『古事記』、『日本書紀』に歴史的信憑性はないと言ったために、不敬罪になり、禁固刑にあいました。それが戦後になると価値観はひっくり返り、それらの書物は虚構であるという認識が国民に行き渡り、定着しました。例えば、『古事記』から史料を紐解いた研究者などは、頭のおかしい人という烙印が押されました。しかし、「それって、調べる意味ないでしょ。もう結論が出てるじゃん」という態度では、紀元前10世紀以上前と言われるトロイアの遺跡は永遠に発見されることはなかったでしょう。遺跡が発見された19世紀当時、古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』の信憑性を疑わなかったのは、発見者のドイツ人実業家ハインリッヒ・シュリーマンとその幼い甥や姪たちだけだったと言います。

古田の思考法は支点が動いているとも言えますが、見ている位置はもっと上方にあります。つまり、メタなところから全体を見下ろしているのです。メタ認知については、興味深い情報があります。お正月番組、「芸能人格付けチェック!お正月スペシャル」で出演者のGACKTは、76まで個人の連勝を伸ばしました(2024年現在)。高級品を見分けるということで、芸能人を格付けする番組ですが、なぜGACKTは間違えないのか、GACKTはメタ認知を積極的に使っていたからだという記事です。記事の中で、かつて、GACKTとペアを組んだことのある堀江貴文がGACKTの思考法について言及しています。

100万円のワインを選択する項目で見事的中させた場面について「格付けで飲んだ経験者から言わせてもらうと、それっぽい安いワインとそれっぽくない高いワインの違いを判別するゲームであって、必ずしも安いのが『美味しい』と言うわけでもないんだよね」と指摘した上で「GACKTさんはそれをメタ推理してる」と解説した。

堀江貴文氏 “格付けチェック”でのGACKTのすごさの秘密つづる「メタ推理してる」(東スポweb)
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/288297

つまり、GACKTはワインの味そのものではなく、より経年変化を感じられた方を選んでいたという意味です。状況証拠など、ミクロの情報をできるだけ集め、総合定期に判断を下しているということです。「印象」という先入観から入ったら、そこまで連勝を伸ばすことはできなかったでしょう。

メタ視点の下にある小さな視点のことを私は支点と呼びましたが、物事に白黒をつけたがる人、フレームワークなどのある一定の枠組みに従ってものを考えるのが得意な人は、この本は読みづらいのではないかと思いました。歴史研究の本ではあるのですが、私にとっては思考法の勉強の本となりました。


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