[短編小説]初恋

 青々と健康的に健全に育ってきた、朝露の粒も弾く青紫蘇。その双葉はもっともっと輝こうと光に背を伸ばし、そのちいさな二つの葉で太陽まで吸い取ろうと夢みている。青くちいさく輝きながら飛躍を夢みるその存在は、きみの青さに似ていた。
 目に入れたら痛眩しいその青を、私は目を逸らしながらも凝視し続けた。健やかに青いままに居て欲しくて、守ってあげたくて。誰かの靴底に潰される屈辱をどうしても知って欲しくなくて。でも、私のような安易な者には守らせたくない気もして、少しだけ葛藤していた。

 曖昧なこと、人間の感情、この世の仕組みと事実。答えがないことの答えを探そうとすることはただエネルギーを消費し自身を浪費するだけで、その疲れた手のひらを後になって恐る恐る開いてみても、石ころさえ掴めていない。無駄なことだ。

 でもいつだって、答えが1つ決まった事柄よりも答えのない事柄を探すことのほうが人は好きで、重視している。だから音楽は、芸術は際限なく生まれる。もし後者の態度の方が人間味があるとされるならば、今の私は以前より人間らしい人間に成れているのだろうか。

 どうでもいいから知らないままで生きてきた事実。どうして空は蒼くて、信号は蒼くて、あの葉は蒼くて、きみも蒼いのか。その答えは、きみの口からしか出ない音である気がしてきて、絶対にそうでしかない気がしてきた。圧倒的に初めての正解を、きみのリズムで知りたい。きみのリズムに乗った正解を、直接に聴きたいと強く思った。


 もっと責めて立てて欲しい。もっと圧倒的に責め潰されたい。青空じゃなくきみの蒼さで、視界のすべてを、生活のすべてを圧倒されたい。

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