ニコン【7731】苦戦の理由と今後もしばらくは利益面の低迷が続く話

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは株式会社ニコンです。

カメラでよく知られている企業ですね。

事業内容と業績のポイント

それでは早速事業内容から見ていきましょう。

ニコンの事業セグメントは以下の5つです。

①映像事業:ミラーレスカメラや、交換レンズなどカメラ関連の事業
②精機事業:露光装置を中心とする半導体関連の装置事業が中心
③ヘルスケア事業:生物顕微鏡や、網膜画像診断機器などの機器に加えて、細胞受託生産なども行う事業
④コンポーネント事業:EUV関連コンポーネント(部品)や光学部品、エンコーダなど、他社の精密機器などに使われる汎用部品
⑤デジタルマニュファクチャリング事業:金属3Dプリンター、光加工機、材料加工受託、測定器、X線検査装置など

カメラ事業を行う他にも、そのカメラ関連で培った光学関連の技術を活用し、多様な装置や、その部品を作ったりと事業領域を拡大し展開している企業となっています。

2023年3月期時点でのそれぞれの事業ごとの売上構成は以下の通りです。
(④コンポーネント事業と⑤デジタルマニュファクチャリング事業では、事業セグメントの変更がありましたので以前のものになっています)

①映像事業:36.2%
②精機事業:32.4%
③ヘルスケア事業:15.8%
④コンポーネント事業:8.6%
⑤産業機器・その他:7.0%

カメラ関連の映像事業や半導体関連装置の精機事業を中心に分散した構成になっています。

続いてセグメント別の営業利益の額を見ていくと以下の通りです。
①映像事業:422億円
②精機事業:243億円
③ヘルスケア事業:115億円
④コンポーネント事業:146億円
⑤産業機器・その他:36億円

利益面は映像事業が主力で、それに次いで精機事業となっており、売上規模の大きな2事業が利益面でも主力となっています。
ちなみに、2022年度時点では精機事業が最も大きな利益を稼ぐ事業でそれに次いで映像事業という状況でした。

年によって変化はあるものの、売上利益ともにカメラ関連の映像事業と半導体関連の精機事業が中心だという事です。

カメラ市場や半導体市場の影響を受けやすい企業だという事ですね。

続いて市場別の売上構成を見ていくと以下の通りです。
①日本:19.6%
②米国:25.4%
③欧州:17.0%
④中国:20.6%
⑤その他:17.4%
日本、米国、欧州、中国で分散した構成となっておりグローバルの動向に影響を受けやすくなっています。

そして海外比率は80.4%と高いですから為替の影響もあり、2025年3月期の1円の変動による営業利益への影響は想定ではドル円は4億円、ユーロ円では3億円となっています。
円安が続いていますから、その好影響が期待できる状況だという事ですね。

それでは、ざっくりとですが事業内容が分かったところで業績の推移を見ていってみましょう。

2012年3月期~2023年3月期までの営業利益の推移を見ていくと、2012年3月期~2017年3月期までは継続して減益が続いています。

2017年3月期は多額の、構造改革費用を計上した影響はありますが2012年3月期の800億円から7億円まで減少しています。

ですが、その後2019年3月期までは増益が続き2012年3月期の800億円を上回る826億円となりました。

そして、それ以降はコロナ禍もあり業績を落とし2021年3月期には526億円の赤字となっています。
2022年3月期以降は大きく業績は回復するものの500億円弱ほどの水準で推移しており、好調だった2012年3月期や2019年3月期の800億円規模の水準には及んでいないという状況です。

かなり増減がある業績の推移だったことが分かります。

では、どうしてこういった推移となっていたのか、主力の映像事業と精機事業のセグメント利益の推移を
2012年→2017年→2019年→2021年→2023年3月期の順で見てみましょう。

映像事業:540億円→277億円→220億円→▲357億円→422億円
精機事業:427億円→510億円→817億円→14億円→243億円

2012年3月期~2017年3月期までの業績低迷の要因は映像事業にある事が分かります。
この時期と言えばスマホが急速に普及した時期で、それに伴いカメラの需要も急速にスマホに代替されていました。
カメラ市場の縮小を受けて苦戦していたという事ですね。

その一方で2019年3月期まで拡大が続いていたのが、半導体関連の精機事業です。
それこそスマートフォンを筆頭に電子機器が大きく増加していましたから、そういった中で半導体需要の増加を受けて好調となっていました。

その後は2021年3月期はコロナ禍でカメラ需要の急減、半導体需要の減少を受けて両事業ともに業績は大きく悪化しています。

そして2023年3月期では、以前は苦戦していた映像事業が好調となったものの、以前は好調だった半導体関連の精機事業が低調に推移する事で業績は2019年3月期の水準には及んでいないという状況です。

つまり2017年3月期までは映像事業が苦戦し業績悪化、2019年3月期までは精機事業が好調で業績も好調、2023年3月期では映像事業が好調となるものの、精機事業が不調で伸び悩みという状況だった事が分かります。

ではどうして2023年3月期では以前は好調だった精機事業が、低調に推移しているのかというと、それには半導体市況の悪化もありますが、それに加えて半導体の小型化、高性能化が進んだ事が影響しています。

ニコンの精機事業が主力とする露光装置とはざっくり説明すると、光を使って半導体の素材であるシリコンウェーハ上に回路を転写する装置です。

なので半導体の小型化、高性能化のためには、より、複雑で微細な回路を描ける事が重要です、そしてそのための最先端技術としてEUV(極端紫外線)を用いた露光装置があります。

ですがこの最先端のEUVを用いた露光装置はオランダのASMLが100%のシェアを持つ圧倒的な企業となっています。

日本では露光装置に強みを持つ企業としてはニコンやキャノンがありますが、両企業ともこのEUVを用いた装置の開発は断念しています。

その結果、半導体の小型化、高性能化がより重要になる中で精機事業では、2019年3月期をピークに伸び悩み苦戦しています。

現在盛り上がりをみせている生成系AIなど、最先端技術にはより高性能な半導体が求められますから、今後もニコンの精機事業の成長は難しいという事です。

ちなみに、コンポーネント事業では当初に触れましたがEUV関連のコンポーネント製品を提供しています。
こちらでは最先端のEUV関連の市場拡大の影響を受けられると考えられます。

また、精機事業が苦戦する中で改めて好調となっていたのが映像事業でした。
カメラで写真をとるという機能自体は、スマホに代替されその販売台数は減少が続いていましたが、近年はそれも底打ちし、現在のカメラ市場は、プロや趣味向けの中高価格帯が中心となりました。

結果として、販売価格が上昇しましたし、製品ラインナップも絞って提供できるようになり収益性が向上しています。

ちなみにカメラ映像機器工業会(CIPA)によると、趣味層を中心に高級ミラーレスカメラが好調となり、2022年のデジタルカメラの世界出荷額が前年比39%増の6812億円だったとしています。

移動需要の回復による影響もありますが、より趣味の市場として高価格化が進んだことで市場環境自体も堅調なんですね。
今後も高収益化によって堅調な業績が期待できる状況です。

とはいえ、カメラがプロや趣味向けとなった事で業績改善は期待されるものの対象マーケット自体が小さくなりましたから、大きな成長は期待できなくなっています。
さらに、精機事業も成長が難しい状況にいます。
となると主力事業の成長は期待しにくいというのがニコンの現状だという事です。

そういった中で映像事業や精機事業は、安定収益の確保を目指し、今後はヘルスケア事業やコンポーネント事業、デジタルマニュファクチャリング事業を中心とした成長を描いています。

ヘルスケアでは細胞の受託生産の拡大や、主力の生物顕微鏡の高付加価値化による成長を目指しています。

コンポーネント事業では光学コンポーネントやEUV関連コンポーネント、エンコーダなどで拡大する先端需要に対応する事で成長していこうとしています。

デジタルマニュファクチャリング事業では、高速高精度の3Dプリンターの大型化など、光応用技術を活用しものづくりの分野で成長を目指しています。

既存の主力事業の成長が難しくなる中で、次の成長のためにはこういった事業の成長が重要ですから注目です。

また、そういった変革期だという事もあり、近年は研究開発費は拡大傾向となっており投資も拡大しています。

投資拡大による収益性の悪化が想定されますので、しばらくは利益面の成長は期待しにくい状況だと考えられます。
そういった中で次の主力となるような事業が育ってくるかに注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の通期の業績です。

売上高:7172億円(+14.2%)
営業利益:398億円(▲27.6%)
純利益:326億円(▲27.5%)
増収ながらも大幅な減益と利益面が苦戦しています。

もう少し詳しくセグメント別の利益の前期比を見ていくと以下の通りです。
①映像事業:+43億円
②精機事業:▲94億円
③ヘルスケア事業:▲62億円
④コンポーネント事業:▲52億円
⑥デジタルマニュファクチャリング事業:▲57億円

映像事業は堅調な業績が続くものの、それ以外の事業は全て減益となっています。

もう少し詳しく状況を見ていきましょう。

好調な映像事業は、行動制限が明けて移動需要が回復する中国市場を中心に販売は好調で、さらに円安の効果もありました。

好調の要因だった中国の経済状況は悪化していますから、2025年3月期以降は一定の悪影響は想定されます。

とはいえ、プロや趣味向けの中高価格帯の製品が中心になっていますから、低価格帯と比べ市況による影響は小さいです。
円安も続いている事を考えると、2025年3月期以降は成長するかは不透明感がありますが程度堅調な業績が続く事は期待できそうです。

続いて苦戦していた精機事業では、半導体市況の低迷による顧客の投資抑制の影響を受けています。

半導体市況は一定の改善が見え始めていますが、まだ低迷傾向にあります。
生成系AIなど需要が好調なものもありますが、それは高性能の市場となっていますので、ニコンの精機事業では好影響は受けにくいと考えられます。
そういった中で2025年3月期も一定の苦戦が想定されます。

また、成長事業のヘルスケア事業では細胞の受託生産の好調や円安を受けて売上は拡大していますが、投資の拡大が影響し利益面は減益となっています。
さらに、主力の生物顕微鏡では販売数量が計画を下回るなど想定通りの成長は見せられていないようです。
変革期で今後のための投資が拡大している事を考えても、利益面の大きな成長というのは難しい状況にいそうです。

とはいえ、2024年3月期は41億円の一時費用がありましたから、その影響が無くなる2025年3月期は一定の業績の回復は期待されます。

続いて、コンポーネント事業も半導体市況の悪化を受けて減収減益となっています。
この事業も精機事業同様、半導体市況の影響が大きく2025年3月期も一定の悪影響が続く事が想定されます。

最後にデジタルマニュファクチャリング事業は大幅増収となりましたが、まだまだ投資期で大きな赤字が続いています。

この事業でも一時費用がありましたから、2025年3月期は一定の改善が期待されますが、赤字が続いており利益面への貢献となるのはまだ先になりそうです。

とはいえ、大幅増収は続いていますし、2025年3月期でも3D金属プリンターが航空宇宙・防衛産業の需要増加による拡大を見込んでします。
次の柱となる事業が重要な状況ですから、このデジタルマニュファクチャリング事業の成長が続くかには注目ですね。

そんな中で2025年3月期の通期予想では、3.9%の増収を見込むものの営業利益では▲12.0%の減益が続く事を見込んでいます。

とはいえ事業の見通しでは一定の増益を見込んでいます。
映像事業や精機事業では若干の減益を見込むものの、一時費用の影響があったヘルスケア事業の改善や成長が続くデジタルマニュファクチャリング事業で赤字幅が縮小する事で改善を想定しています。

それでも全社では減益を想定しているのは、全社費用の増加に要因があります。

成長関連投資や管理部門の費用増加を想定している状況です。

賃上げの必要性が高まっていますし、インフレが進む中で各種のコストが増加しています、さらに変革期にあり研究開発費を中心に成長事業への投資が拡大している状況ですから、やはり今後しばらくは利益面の拡大は難しそうです。

ちなみにニコンの想定では、2026年3月期から半導体市況の回復によって精機事業やコンポーネント事業が回復する事を見込んでいます。
投資拡大もあり大きな利益面の成長は難しいと考えられますが、2026年3月期以降の収益性改善が進むかには注目です。

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