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レバノンに住むシリア人の子どもたちに授業をしてきた

レバノンに住むシリア人の子どもたち

彼らに英語を2ヶ月教える機会がありました。この2ヶ月は僕が世界を回る中でも最も苦しく、でも充実した2ヶ月でした。この記事では、レバノンの現状、働き始めた時の学校の様子から2ヶ月後の変化、そして僕が行った英語の授業について書いていきます。レバノンの状況を説明しないと、「レバノンに住むシリア人にとって学びとは何か」という話が薄っぺらいものになってしまいますので、少し長くなりますがお付き合いください。

「1. レバノンの現状」では、現在のレバノンにおける難民の状況を、「2. 学校が変わると子どもたちも変わる」では、実際に僕がボランティアとして2ヶ月働き始めてから起こった学校での子どもたちの言動の変化を書きました。「3. 難民の子の生徒への英語の授業」「4. 英語の成長を実感させる」「5. 子どもたち同士をつなげる」「6. 子どもたちを未知の世界とつなげる」では、僕が英語授業実践においてどんなことに気をつけて授業を作るかと、実際にレバノンの学校で僕が行った授業のレポートを書きました。最後の「7. まとめ」では、すべての内容を総括して、僕なりの教育論を語っています。

今回は、この2ヶ月の経験を長い期間をかけて書いたので、有料版にさせていただきました。1000円ですべて読むことができます。記事が1000円の価値があるかはさておき、「飯塚、よく頑張った」と思っていただける方は、僕への労い代だと思って記事を購入してください。2024年1月中に購入された記事の代金は全て、能登半島地震被災地支援金として寄付をいたします。


1. レバノンの現状

レバノンの人口の25%がシリア人

僕が今回訪問したのは、Greenhouse for allという学校。70名ほどの生徒たちが通い、ほとんどがシリア人です。彼らは本来公立学校に通うはずですが、様々な理由で学校に行けない子がいます。働かなければいけないため、勉強についていけないため、学校に毎日通えなくなってしまった子がいたり、僕が訪問した時には教員ストライキにより学校が閉鎖されており、学校に通えない子が多くいました。こうした現状を見かねた日本人の西野義人さんが、学校を立ち上げ、3年前からシリア人の子どもたちに教育支援をしています。ここで2ヶ月間ボランティアとして働くことにしました。

なぜレバノンにシリア人が住んでいるのでしょうか。彼らはシリアでの内戦、環境問題、貧困問題によって、レバノンに逃げてきた人々で、一般的には難民と呼ばれています。レバノンには100〜200万人ほどシリア難民がいると言われており、レバノンの人口の約20%です。僕が訪れたベカー高原地域は、シリアとの国境が非常に近く、街を歩けばレバノン人の方が少ないほど。レバノンにシリア人が多く逃げてきたのは約10年前で、多くは新たな土地で仕事をして、定住をしています。しかし、社会的なマイノリティーである彼らは苦しい思いをすることも多いようです。

"The world hates us."

シリア人に対しての差別は至る所にあります。シリア人だということがわかると、横柄な態度をされる。同じ仕事でもシリア人だと給料が安くなる。こうした現状に嫌気がさし、トルコやヨーロッパに働きに行こうとする人も多いようです。しかし、まだ壁があります。パスポート取得がとても大変なのです。

僕の知り合いはパスポートを取得するために3年間ベイルートに通い続けています。世界から貼られた悪いイメージのせいで、シリア人のパスポートは非常に限られた数しか発行されておらず、僕の知り合いはいつもパスポートセンターで門前払いをされてしまい、肩を落として家に帰ってきていました。たとえ彼らがパスポートを取得できても、その費用は3000ドル(日本円で45万円ほど)もかかる場合もあり、その上、期限は2年ほどです。彼らの給料は月100〜200ドルほどなので、その金額がいかに高いか想像できるはずです。それでも彼らは海外に行くことで今の生活よりも「マシな」生活になることを信じ、毎週のようにパスポートを取りにベイルートに向かうのです。

そんな現状を嘆き、友達のシリア人は "The world hates us.(俺らシリア人は世界に嫌われているんだ)" と言っていました。

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