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I still say YES to life.

コイノニアができる前に、市橋夫妻が始めたのがKyuna Kindergartenでの幼児教育でした。

Kyuna Kindergarten

幼稚園の遊び場には一年中黄色い花をつける大きな木があり、晴れた日に空を見上げると明るい気分になれます。園舎も子どもたちの作ったものが至る所に飾られていたり、壁には子どもたちによる絵が描かれています。一人ひとりの子どもたちを大切にしていることがよく伝わってくる風景がそこにはあります。


コイノニアはスラムの子を対象にしてますが、この幼稚園は30もの国籍の子どもたちが混ざるインターナショナルスクールで、いわゆる「富裕層」の子どもたちが通っています。一緒に遊んでいると、”Do you speak American English?” と聞かれたり、 “He is from India.” と教えてもらったり、 “こんにちは” と日本人の子に声かけられたりと、混乱してしまいます。


「自分で生きていく力」を育てる教育

一日の流れは日本の幼稚園とあまり変わりません(と思います)。朝9時に登園、10時におやつ、外遊びして、勉強。12時にランチを食べ、年少さんより年下の子は帰宅します。年少さん以上は、午後はバレエや水泳で身体を動かしたり、音楽を行います。このように、勉強だけではない、「自分で生きていく力」「人間力」を育てる教育をずっと行ってきました。
また言語教育と算数教育に力を入れており、Jolly phonicsで英語の正しい発音とスペルを学び、算数は外部の先生や保護者を講師にして特別に力を入れています。


先生たちにも浸透する哲学

コイノニアと同じように、Kyunaでも大切にしていることは、一人ひとりの違いを受け入れ、それを大切にする教育をしているということです。多国籍であれば、「当たり前」が子ども間で異なってきます。Kyunaでは、市橋さらさんが園長として方針を決め、職員への教育を徹底することで、市橋夫妻の哲学が先生たちにも流れているように思えます。
例えば、市橋夫妻は「時間を守る」ことを大切に考えており、普段から生徒にも先生たちにもその大切さを強調しています。
ある先生は勤務し始めてから20年で体調不良も含めた遅刻欠席が5回しかなく、毎日6時半には学校に到着して準備を進めているようです。これは誰かが強要したことではありません。
ケニア人の先生たちの振る舞いや子どもたちへの接し方からもわかる教育哲学、この哲学があるからこそ、地域社会から信頼をされ、多くの園児を集めているのかもしれません。


「家族とは何か」を伝えたい

コイノニアはスラムの子どもたちを対象にしているのに、なぜKyunaでは「富裕層」の子を対象にしているのでしょうか。

スラムに住む家庭は崩壊しています。親は子供の教育に全く興味がありません。「食べさせているからいいでしょ」「学校に行かせているんだからいいでしょ」と子どもとの関わりを拒否する無責任な親ばかり。夜の仕事も多いため、夕食も家族一緒に食べた事もない子どももいます。コイノニアでは、先生も生徒もお祈りの後、一緒のテーブルを囲んで、一緒のものを食べます。そのようにして家族の概念も知らない子どもたちに、優しさと喜びと共に実感を持って家族とは何かを教えるのです。

一方、ケニアの富裕層の中にもお金を稼ぐことに集中しすぎたり、自己中心的な人も多く、他者のために働くことを知らなかったり、子どもたちに向き合えない人もいるようです。スラムだけではないケニアの問題は、日本、そして世界にも当てはまるところがあるかもしれません。だからでしょうか。現在は大きな宣伝はしていないのに、Kyunaでの教育方針が口コミで広まり、現在は世界各国の子どもたちが通っています。その中にはKoinoniaの支援をしたり、自らスラムでの支援をしている保護者の方もいるようです。「Kyunaを始めた時は、こうなるとは思っていなかったけれど、今ではKyunaという存在が、ケニアの富裕層とスラムに通う子どもたちやKoinoniaとの架け橋になっています」と、さらさんは語ります。

様々な国籍、様々な境遇の人、それぞれの個性や特徴などを生かし共に生きる社会、それが市橋夫妻の理想の Community であり、Koinonia という学校名の由来でもあります。

「他者と共に生きること」

Koinonia と Kyunaのふたつがそれぞれの役割を担うことで、それが実現されようとしているのです。

We still say YES to life

Kyuna Kindergartenには、コイノニアを卒業し、4月から大学に通う女性がインターンとして働いていました。名前はGraceです。

彼女にコイノニアの印象を尋ねると「コイノニアは私にとって最高の学校だった」と語ってくれました。スラムで生まれた彼女は、周りの友達が暴力を受けたり、家族の問題を抱えているのを目の当たりにしてきました。彼女はコイノニアに来て、先生たちが親しみやすく、自分の才能を見つけれてくれる学校生活に喜びを感じるようになってきました。元々は人見知りで人と話すことが苦手だった彼女も、コイノニアでの歌唱発表、演劇発表などを通して、自分の音楽の才能に気がつき、自分に自信を持ち始めました。「他の学校では、先生たちは勉強を教えるだけでいいと思っているけれど、コイノニアの先生は一人ひとりの話を聞いてくれるので、本当によかった」と語る彼女は、現在幼稚園の先生を目指しています。

彼女に印象深かったコイノニアの授業を尋ねると、「授業というよりはモットーかな」と応えてくれました。 コイノニアのモットーである、“I still say YES to life.” どんな状況にあっても、それを受け入れ、前を向いて生きていく気概を持つことです。これは『夜と霧』を書いたヴィクトール・フランクルの本のタイトルにもなっている言葉です。
日本でも、アフリカのスラムでも、アウシュビッツでも、どんな状況でも、自分の人生にNOと言った時点で、その人は「死にます」。そんな人は、どんな幸せな状況でも、自分の人生に文句を言い、自分の人生を否定し続けて生きていくのではないでしょうか。

“I still say YES to life.”

この言葉が、スラムの生活に苦しんでいるコイノニアの子どもたちに勇気を与え、大きな影響を与えているのは間違いないでしょう。

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