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−焦香− 帰るべき場所がない

ぼくは、自分の故郷がとても好きだ。

でも、実家は嫌いだ。

ぼくがずっと抱えてきた生きづらさの原因を突き詰めたら、実家の問題に行き着くんではないかと思う。
そのことにぼくは気づいていたけど、誰にも言えなかった。
何年も心の奥底に隠していた「しにたい」は、ようやく信頼できる人に打ち明けることができたけど、実家が嫌いなことは最後まで言えなかった。

誰かに聞いてほしかったけど、勇気がなくて話せなくて、でもずっと苦しくて、
文章でなら吐き出せるから、ここに吐き出しておく。

ぼくを苦しめてきた問題は、世間ではそれなりにありふれた問題なのかもしれない。

でも、ぼくは非常に繊細なので、それにずっと苦しんできた。
いや、ずっと苦しんできたから非常に繊細になってしまったのかもしれない。
鶏と卵。

実家にいる時は、常にその問題に苛まれた。
ぼくはどうしようもなくて、ただ自分の部屋で布団に潜ってたくさん泣いた。


ぼくが生まれていなければ、こんな問題は生じなかったんだろうか。
ぼく自身は一見愛されているけれど、それは憎しみの裏返しなんだろうか。
ずっと考えてきた。
ぼくがいなくなっちゃえばいいんだ、ってたくさん思った。


問題が拗れて大変なことになる夢を何度も見た。
一方で、問題が解決して幸せになる夢も何度も見た。
どちらもまだ正夢にはなっていない。

そんなに嫌なら実家に帰らなければいいんだけど、実家に帰らなければ、ぼくの大好きな故郷にも帰れないことになる。
ぼくは、故郷に帰るために、やむなく実家に帰っていた。

そう思えば、ぼくの故郷への愛の絶対値は、実家における苦しみの絶対値よりも大きいのかもしれない。


ぼくがこころの調子を崩した時、ひとりでいるのは危ないからと、実家に帰るようにお医者さんに勧められた。
実家には巨大な苦しみが待っているからぼくは帰りたくなかった。
「実家に帰ったら余計しにたくなるから」ってぼくは言った。
なんで、って聞かれたから、「地元なら安心してしねるじゃないですか」と答えた。(それも嘘ではないけれど)
ちょっと不思議そうな顔で「うーんよくわかんないなぁ」と言われた。
それはそうだよね、とちょっと可笑しかった。

あのとき本当のことを話していたら、今のぼくはもう少し幸せだったんだろうか。


ぼくはなんで生まれたんでしょうか。
ぼくが消えてしまえば、ぼくはこの苦しみから逃れられるんでしょうか。

ぼくは、自分の行動が、自分の存在が、ほかの誰かを苦しめてしまう前に、早く消えてしまいたいと思う。



たぶん、この問題に対する模範解答は、実家から距離を置くことなんだろう。


高校生までの18年住んだ実家には、ぼくの思い出が詰まっている。
そして苦しみも詰まっている。
もう戻ることはないのかもしれない。
思い出を、苦しみと一緒に葬り去る。

そうだ、これでいいんだ。

自由には、多少の犠牲はつきものだ。
これでいいんだ。

ぼくの帰るべき場所は、居場所は、どこにあるんでしょうか。

ぼくが生まれたのが悪かったですか。
ぼくにできることは何かありましたか。
ぼくはどうすればよかったですか。
こんなことで苦しんでいるのがおかしいですか。

本当にこれでいいんでしょうか。

ぼくにはもう、何も分からない。



【焦香】こがれこう
焦げた香色。
自分の居場所や他人からの愛に焦がれています。



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