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雨の粥の掌篇小説

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小説│人形・岬の古城・海に沈んだ透明な小舟

小説│人形・岬の古城・海に沈んだ透明な小舟


 人形

 大時計の文字盤は、両手を広げたぐらいの幅があった。そのわりには軽く、少しの力で横にずらすことができた。十二の数字の真上あたりを支点に、振り子のようにスライドし、カチリと音を立てて止まった。
 文字盤の後ろには、ちょうど人が通れるほどの長方形の穴が開いていた。そこを通り抜けると、大きな歯車が並んでいた。時計を動かす機構にしては、歯車の数が多いように思えた。他の用途があるのだろうか。
 

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小説|眠り・水甕・洞窟・プール葬の夕暮れ

小説|眠り・水甕・洞窟・プール葬の夕暮れ


 眠り

 その夏、もっとも激しい雨が降った日。
 ある土曜日の午後。
 夏穂さんがプールで泳いでいる間、雨が降っていた。雨のなか、街では人もクルマもみんな立ち止まって眠っていた。ほんとうに皆、動くのを止めて眠っていたのだ。
 そのことを夏穂さんとわたしだけが知っている。
 夏穂さんとわたしだけは目を覚ましていた。
 空調の効いた屋内プールの水の中で(もしくはプールサイドで)、泳いだり、歩いたり

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