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漫画原作「囲碁の亡者が転生して幼児になった」第1話

※この小説は創作大賞2023に応募するため制作しました。

あらすじ
親不孝の罪で地獄におちた囲碁狂いの男が現代日本に転生する話です。
中国古典文学「聊斎志異」の碁鬼(ごき)をベースにしています。
本来なら転生ミッションに失敗してストーリーが終わりますが、クリアできちゃった!?
明の時代からやってきた囲碁の亡者が5歳児に生まれ変わって使命をあたえられます。
果たして遂行できるのでしょうか?

むかしむかし、中国が明と呼ばれていたときのこと。
罪によって閻魔大王に寿命を縮められて30代で亡くなった男がいた。
地獄におちて鬼になり、囲碁狂いだったことから碁鬼(ごき)と呼ばれた。
その男が餓鬼地獄にきてから7年がたったある日、大王に呼び出された。

「私に転生のチャンスをくれるのですか?」
やつれ顔の亡者がふしていた顔を上げる。大王はうなずいた。
「碁鬼や、お前がなぜ地獄に落ちたかわかっているな?」

ええ、もちろんですと碁鬼は食いぎみに答える。今ここで嘘偽りを言ったら転生取り消しかもしれない。
「囲碁で遊びまくり家財を使いはたしたのです。また母上が病に倒れても碁を打ち、怒った父上が書斎に私を閉じこめたので扉を壊し」
「もうよい、よい。ああ本当にお前はひどい親不孝者じゃ。だがその情熱がもったいないからチャンスを与えよう」

大王は巻物を渡した。
「東の役所まで届けよ。締めきりは3日後の日暮れまで。役目を果たせたら転生させてやろう」
巻物を受けとった彼は深く何度もお辞儀をしてから、人間の姿に変わり勇み立ってでかけた。
補佐官が閻魔大王にたずねた。
「より道をしたら間に合いませんね」
「あの男は碁への執着が強すぎるからな」

そんな二人の心配は的中し、さっそくパチパチという懐かしい音にひかれて小さな丘にすい寄せられていった。
揚州の知事である公とお供の人々がピクニックがてら盤を囲んでいる。
もう7年も碁を打っていない。我慢なんてできなかった。

すると、近づいてきた男に気がついたようで、公から声をかけてきた。
「あなたも将棋をおやりのようだ。見てないでご一緒にどうですか」
「や、私は囲碁のほうなので」
そう言うとUターンして走って消えた。

本来ならここで囲碁に明け暮れ、彼が転生することは二度となかった。
しかし、偶然にも中国将棋だったためおつかいを果たせた。
転生の儀式が行われ、目を開けると体が小さくなっていた。

白い壁にふかふかのベッド。ここはどこだろうか。
「目を覚ましたのね!金吾(きんご)くん。」
女性が何度もよかったと繰りかえした。
彼女は子供が車にひかれたので生きていたことに安心して泣きじゃくった。

そのとき、どこからか閻魔大王の声がした。
「お前をこの国の言葉がわかるようにしてやった。今世では囲碁の才能で人を喜ばせなさい。それが使命だ」
キョロキョロと見渡したが大王はいなかった。

才能といっても、囲碁への情熱を才能と認めたのだ。
碁鬼の実力は人並みだったため賭け碁で家財を失った。賭けごとが禁止の現代では、愛好家が囲碁で財産を失うことはまずない。

周りの話を聞くうちに、ここは日本の救急病院で金吾という5歳の男の子に転生したことがわかった。
その後、検査を受けて救急病棟から小児科に移りリハビリをすることになった。

はっと使命を思い出して、隣のベッドにいた小学生の男の子に声をかけた。
「私の名は金吾と申す。囲碁で楽しく遊ばぬか」
きっとこの国も祖国と同じく囲碁が人々の遊びに違いない、相手がいたら気分転換になるだろうと思ったのだ。

男の子が口を開く。
「いごって何?おれゲームのイベントで忙しいからバイバイ」
スマホを持ったままカーテンをピシャリと閉められた。
しゃべり方変なの、とクスクス笑う声が聞こえた。

後日、うってかわって隣の小学生が囲碁の相手になってほしいと声をかけてきた。
「院内スマホ禁止で怒られてさ。でも、機内モードでいろいろ条件つきなら見逃してもらえることになったんだ」
碁鬼は言葉の意味がまったくわからなかった。
囲碁とどう関係があるのか。

「囲碁ならネットに繋がらなくても遊べるってさ。だからこのアプリで覚えたから人と対戦したくて」
どうやら少年によると、すまほというお札でえいあいという神を呼べるらしい。
また碁盤や碁石も召喚できるとのこと。

「じゃあここをタッチして。3歳だからまだわかんないかな」
「5歳だ」
そんなやりとりをしながら二人は囲碁を打った。初心者向けの小さな盤で石取りゲームをして楽しんだ。
碁鬼が加減して打ったのでビギナー少年も楽しめたのだが、度がすぎた。

しかめ面の看護師の女性がやってきた。
「ゲームは1日1時間までって言ったよね!」
そして、スマホをとりあげられた小学生が泣きだすと、幼児の体に電流が走った。
その雷は閻魔大王からのペナルティだった。

消灯後、隣の少年が目を赤くしながら話しかける。
「金吾くん、遊びすぎは良くないけどさ。おれ楽しかったよ。ありがとう」
少年はまた明日な、と言って眠りにいった。
碁鬼は、初めて囲碁で人に感謝された。
ホクホクした気持ちでカーテンを閉めると、枕元で二対の碁石入れを見つけた。
フタを開けると、それぞれ白黒1粒ずつ碁石が入っていた。

大王からのご褒美だった。
現代では本格的な碁石の数は合計361粒だ。
良いおこないに応じてもらえる碁石の数が変わり、すべて集めるとあの世から誰かを1人だけ転生させられるらしい。
生前もっとも囲碁が強かった者を呼びよせたら面白そうだ。

囲碁狂い。地獄の亡者。
二重の意味で“囲碁の亡者”だった男が、幼児になった。
彼が囲碁で人々を幸せにすることはできるのか?

くまさんパジャマを着た5歳児は心のなかで誓った。
「閻魔様、どうやら私はまったく異なる時代と国に来てしまったようです。されども囲碁で人々を幸せにすることをここにお誓い申しあげます」

つづく

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