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「太陽にきこえるように」〜井戸の中の冒険記17〜

【これは瞑想中に体験する物語の冒険記録です】

ルーティンとして、いつも井戸を降りていくところからはじめているので『井戸の中の冒険記』としています。
(『防護膜』については追々書いていきます。)
 

今回は、井戸の中の世界に17回目に訪れた時のお話です。

その前の16回目からは少し間が空いて、
その日は久しぶりに井戸の中の世界へ行ったのでした。


【2024.2.6.の井戸の中の冒険記録】
「太陽にきこえるように」


久しぶりに井戸へ入る。

わずかに緊張とプレッシャーを感じながら、球体の防護膜を身体の周りに纏わせてリラックスを心がけながら目を開けると、

見慣れたかわいた赤土の地面に、レンガでできた丸い穴があった。

左側の遠くには、かわいた木が風に揺れているようだった。
少しこの風景が懐かしく感じた。

井戸の中には既に太い縄が垂らされていて、あとは降りていくだけだった。

迷わず縄をつかんで、井戸の中へ入る。
壁をリズミカルに蹴りながらどんどん降りていく。

いつもよりペースが軽快で、見上げると入り口がまん丸な月のように見えるのが早かった。



間も無くして、縄が終わってしまった。
ここからは飛び降りて底までいかなければならない。

「仕方ないか」と縄から手をはなすと、風の抵抗を受けながら落ちていく。



地面にすちゃっと着地した。

真っ暗な中で佇んでいると、靴音が近づいてくる。
その音だけをきいていると、足音はひとつではなくなり、2人……いや4人?

そんな気配を読みながら、靴音の方は私を取り囲むように近づいてきているようだった。

そして、近づいてくるほどに視界は明るくなっていく。

しかし、もう靴音は間近まで近づいておそらく私の目の前で止まったというのに、世界は真っ白になっていた。

そこではじめて、
視界が明るくなっていったのではなく、真っ暗の『黒』が、『白』に変わったというだけだったことがわかった。

そんなことを理解した気分になっていたら、何やら「ジャキン」という刃物の効果音のようなものがきこえはじめ、不穏な空気を感じた。

とりあえずここから脱出せねばと思い、
「そうだ、井戸の中の世界は『扉』が次のシーンへの合図になっているんだった」と思い出した。

真っ白な世界を見渡して扉を探す。
すると奥に青く塗られた可愛らしい木の扉が私を待っていた。
走ってその扉へ向かう。

扉は、やはり待ち構えていたようにタイミングよく開き、駆け込んできた私を招き入れた。



 

扉の向こうの世界は、渦を巻く乱風、灰色の雲の中、
まさに嵐のような場所だった。

私はその渦に巻き込まれて大きく回転せざるを得ない状態になった。

なんとか下を覗き込むと、そこは荒れ狂う海だった。

そしてその海に翻弄されている一隻の船が見えた。

私はなんだかあの船を助けてやりたい気がするのだけれど、
今の自分は、まるで一枚の木の葉のように無力で、嵐の中を揉まれながら運ばれるままの状態である。

「助けるだなんて、そんなことはとても無理だな」と思い直していた。

すると、突然朝日が差したかのように強烈に光った。

大きな太陽が前方に出現した。

嵐の中のこの景色ごと、私はその太陽の中へと包まれるようにして入っていった。




中は温かく、静かで、真っ白……よりは少々暖色がかったような色の世界だった。

私は目の前にいる大きな太陽に何かきいてみようかと思った……
と、同時に「何かききたいことがあるな」と先に言われた。

『私が思うことも考えることもすべてお見通し』というか、この存在には『筒抜け』状態であることがわかった。

私は「そんなことだろうな」とどこかでわかっていたような気持ちで、
あきらめてそこにあぐらをかいて座った。

ききたいことを考える前に、ちょっと休憩したかったのだ。
この温かい空間で休ませてもらうことにした。

目を閉じて、手を上に向けてあぐらをかいた両膝の上に乗せた。

すると太陽は私の身体に管のような何かを何本もつけて、お湯のような温かいものを流し入れてくれた。

なんて深く癒されるのだろうとそれを味わっていると、あることを質問する気が芽生えてきた。

「私は何をすればいいの?」

おそらく、こんなことをきこうとした気がする。
しかし、それよりも先に太陽は答えてしまう。

「お前がいるところがお前の世界だ」

と太陽は言った。

以前会った月は、何も言ってはくれなかったのだが、あなたはちがうみたいだなと思った。

しかし質問に対する答えにしては不十分に感じたため、さらに詳しくきこうとしたら、
「行け」と言われ、間髪入れずにザバッとまた嵐の中へ落とされた。

 


私は今度は人間になって、嵐の海に翻弄されていた。

「やっぱり月と同じだな!」と太陽をうらめしく思いながらも、見上げると先ほどの船も同じように嵐の海を彷徨っていた。

私は、この船を助けたかったことを思い出すと、
ハッとした。

太陽は、
「お前がいるところがお前の世界だ」
と言った。

私がいるところが私の世界なら、
私が今いるこの嵐の中は『私の世界』なんだ。

つまり、
『どんな世界になればあの船が助かるのか?』を私がここで思えば、
私の世界なのだから、この景色が私の思いに従うのではないだろうか?
 
私はさっそく思うままに想像してみた。


「突然空が晴れ渡って、都合よくいい風が吹いてきて、その風に運ばれて、オアシスみたいな島に船が辿り着く……」





目を開けると、目の前でパーティーが開かれていた。

よく晴れた日の白い砂浜、
料理や飾りで華やかなテーブル、

地中海風の外国人がみんな片手にグラスを持ってわいわい賑やかに話している。

ウエイターのような人がやってきて、突っ立っていた私にもグラスを渡してきた。

「何かのパーティーなんですか?
私も参加しちゃっていいんですか?」

ついでにそうきいてみると、

「もちろん!あの嵐を掻い潜って奇跡に奇跡を重ねた旅を成し遂げたお祝いなんですから!全員英雄ですよ!ああ〜もう!」

ウエイターは興奮した様子で、身振り手振りを交えながらそう語ってくれた。

私は「あはははは!」と大きな声で、
太陽にきこえるように笑い返した。


挿し絵「太陽にきこえるように」



(おわり:井戸の中の冒険記17「太陽にきこえるように」)






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