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郷に入っては郷に従え #5

大学生もこの街を去り
僕の家の食糧も底をついてきたので
久しぶりに一人歩いて街へ出てみることに。

この日は、以前ウェインと
ホームセンターで買った短パンにビーサン
オーストラリアと文字の入った
サーフブランドのパーカーを着て出かけた。

家から街までの道は、ただの一本道で
左手には数軒の牧場がずっと広がっている
ただ、あまりにも広すぎて何を飼っているのか
オーナーは誰なのかも良くわからない。

生まれ育った街を離れて
広い世界に飛び出したつもりが
この街で僕の知っている人は10人もいない。
この数ヶ月の間で、たった10人の人間としか
会話していないのかと思うと
なかなか狭い世界で生きてるな、、
と考える事もあった。

この街には特に何も無いのだが
やはり人が賑やかにしている風景は
とても貴重で、それだけで心が弾むもの。
街の端から端まで歩いたって
10分も掛からないのだろうけど
その先に広がる海を眺めるのは
やはり気持ちがいい。
いつも美味しいとは言えない
パステルカラーの炭酸飲料を買って
ベンチに座って海を眺めてから帰るのが
習慣になっていた。

この日もいつもと同じ様に
ベンチに座っていると
BMXに跨った同い年くらいの若者達が
チラチラとこっちを見ている。

ん??
またジャッキーチェンとでも言いたいのか?
相手にはしないぞ。
こっちは仕事で疲れてるんだ。
なんて思いながら海を眺めていると

その内の一人がカーリーヘアを靡かせ
僕の方へと近寄って来てた。

お互い目で挨拶を交わし
彼は僕の周りをBMXでグルグルと回っている。

え?
これって友好的な感じだよね?
違ったら逃げるんですけど。。

なんて思いながらも彼は僕と
コミュニケーションを取ろうとしている。

ナイスウェザー
グッドビュー
みたいな話をし始め
それと同時に皆が僕の周りにワーッと集まって来た。

名前は?とか
日本のどこから来た?とか
何所で何をしてるの?とか
そのパーカーかっこいいじゃん!
サーフィンはできる?とか
無免許で警察に捕まったの知ってるよ。
とか、、、
全ての会話にジェスチャー付けて。

彼らのラジカセから流れる
ガンズの音楽を聴いて
僕も Guns N' Roses 好きだよ。
なんて試しに言ったら
この日本人ガンズ知ってるんだって!!
日本人がガンズ??
予想以上のリアクションが返ってきたり。
どこの国でも若者は最初は音楽で
コミュニケーションを取るようです。

会話はそんなに弾まなかったのだけれど、
僕の中では友達ができたような、
入学式初日の帰り道の様な、少しフワッとした
気持ちになれたのでした。

今まで知らぬ間に自ら張っていた僕のバリア。
今日は、短パンにビーサン
オーストラリアと文字の入った
サーフブランドのパーカーのお陰で
そのバリアが消されていたのかもしれない。

でも、ようやくこの日から
僕は街でもYUTAと呼ばれるようになったのでした。


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