見出し画像

第3章 親同士の関係を強化し、子のアウトカムを向上させるのに有効な事

この記事は、イギリス労働年金省の委託を受け、EIF(早期介入財団)が実施したレビュー「WHAT WORKS TO ENHANCE INTER-PARENTAL RELATIONSHIPS AND IMPROVE OUTCOMES FOR CHILDREN」の第3章を翻訳したものです。

両親間葛藤が子どものアウトカムに及ぼす悪影響を改善するために設計された、エビデンスに基づいた国際的な介入プログラムのレビュー

背景

 第2章でレビューしたエビデンスは、両親間葛藤が子どもの長期的な心理的発達に悪影響を与える可能性があることを示しています。頻繁で激しく、解決が不十分な両親間葛藤に曝されている子どもは、不安の高まり、うつ病、攻撃性、行動問題、学業不振、自殺傾向、身体的健康の不全、低い雇用適性、将来の人間関係の破綻を含む、様々な望ましくないアウトカムを招くリスクが高くなります。
 夫間の葛藤を管理する介入と支援に焦点を当てたプログラムが子どものアウトカムに有益な効果をもたらすことを示す、一連の補完的なエビデンスが明らかになりつつあります。この文献をレビューすることは2つの重要な役割を果たします。まず第一に、どの介入が、どの条件下で、どのカップルや家族に効果があるかを学びます。第二に、子どものアウトカムに対する夫婦関係の因果関係の重要性を確立するのに役立てることで、前章に基づいてレビューを進めています。CowanとCowan(2002)が観察しているように、夫婦関係介入の有効性を検証するためにランダム化比較試験を実施し、介入に参加することで夫婦関係に望ましい変化をもたらし、同時に子どものアウトカムも改善することが判明した場合、それは子どものアウトカムに対する夫婦関係の因果関係の重要性を強力に支持することになるでしょう[6]。
 本章では、体系的な方法を使用してこの文献をレビューします。次に、レビュー著者によるエビデンスの調査に基づいた集計結果について説明します。EIFはまだ、個々の介入のエビデンスの強さを正式に評価していませんが、今後の研究で改めて評価を実施する可能性があります。とは言え、本章でレビューした研究は、夫婦関係の支援に基づいたプログラムが子どものアウトカムを改善できるという原理の強力な一応の証拠を示しています。

方法論

 このプロトコルは、以下の囲みで詳細に説明している、政府社会調査局の「スコーピングレビュー」が定義する基準を満たしていました。

スコーピングレビュー
完全な体系的レビューを実施しりには通常、約6か月から1年を要します。研究および評価の証拠のユーザーは、往々にして、既存のエビデンスが伝えていることに迅速にアクセスする必要があります。この目的を達成するために、公共政策の研究と評価に使用に向けた「迅速なエビデンス評価」と「スコープレビュー」が開発されました。どちらのアプローチも体系的レビューの原則に基づいています。スコーピングレビューは、特定のトピックに関して利用可能な研究の範囲を決定するために使用し、通常は1週間から2か月を要します。既存の文献のこのマップは、(完全な体系的レビューと比較して)検索用語の範囲、検索するデータベースの数、電子的に利用可能な検索のみを使用するなど、多くの要因によって制約を受けます。これは、完全な体系的レビューにより、より多くの介入が得られた可能性があることを意味します。査読文献に焦点を当てると出版バイアスが生じる可能性もあります。

母集団

 このレビューでは、次の2つの広範な集団のアウトカムを改善するために設計されたプログラムの評価エビデンスを調査しました。

  • 夫婦

  • 両親、または親の立場に移行しようとしているカップル、およびその子 ども(子どもおよび18歳までの若者)

介入の種類

 このレビューは、世界中で実施されている、次の条件を満足する介入に焦点を当てました:夫婦や親同士の関係に影響を与えるように設計されている;夫婦関係をターゲットにした介入の要素が存在する;夫婦間の力学の情報を集め、具体的に評価している。

注目すべきアウトカム

 注目すべき主なアウトカムは、夫婦のコミュニケーション、問題解決と相互作用のスタイルやパターン、子育ての実践(親同士の関係改善の下流効果として)を含め、夫婦関係や親同士の関係の特徴でした。子どものアウトカムを測定し報告している場合にも注目しました。

エビデンスの種類

 介入の合理的に堅牢な評価(ランダム化比較試験、準実験的デザイン、事前・事後デザイン)が利用可能な場合、その介入をレビューの対象にしました。

検索戦略

 このレビューに含まれるエビデンスを特定するために、次の系統的な検索を含む2つの主要な検索戦略を使用しました。
 ・ PubMed(パブメッド)
 ・ Google スカラー

検索方法

 検索の一部として使用する検索用語の詳細は、付録1に記載しています。

レビュー結果

 検索プロセスにより、3,534件の研究結果が得られました。重複、関連性のない介入、および包含基準を満たさない介入は削除しました。合計28件の介入がレビュープロセスを受けました。各介入の詳細については、付録2を参照してください。

介入の分類

 レビュープロセスを受ける研究を特定した後、それらの介入を介入の目標に従って次の全体的なカテゴリーに分類しました。

  • 両親が揃った世帯における親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 主要な移行点(例えば、夫婦から両親になることへの移行、子どもの就学)における、両親が揃った家庭の親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 両親の別離や離婚を背景とした親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 子育ての熟練度(またはその逆)に更に焦点を当てた、夫婦(親同士)の関係をターゲットにしたプログラム

  • ドメスティックアビューズやドメスティックバイオレンスが子どもに及ぼす影響に対処する際の、親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 予防ベースのプログラム

表1は、介入のグループ分けと各サブカテゴリー内の介入の数を示しています。

表1 夫婦間や親同士の関係に対する介入カテゴリー

³ 定義については、用語集を参照。

介入のエビデンスに関する概要説明

 表2は、介入を裏付けるエビデンスの概要を説明したものです。28の介入のうち、96.4%には国際的なエビデンス証拠がありました。これらの介入を評価する研究の大部分は過去5年間に実施されました(42.9%)。介入を評価する研究の大部分では、ランダム化比較試験デザインが使用されました。介入の大部分(92.0%)は、短期介入でした(即ち、6か月未満で実施されました)。

表2 介入のエビデンスに関する概要説明

介入のカテゴリー別の結果

 このセクションでは、夫婦や親同士の関係に影響を与えために設計した国際的な文脈で実施された介入のレビューから得られた重要な発見の概要を紹介します。「主な調査結果」の囲みには、介入のカテゴリーごとに介入のエビデンスをまとめています。これに続いて、各カテゴリー内の介入例の詳細な事例研究が1つ以上続きます。各事例研究には、介入デザイン、対象集団、評価研究デザイン、および主な調査結果の詳細が含まれています。効果量は、元の研究が提供している場合に報告しています。

両親が揃った世帯における親同士の関係に焦点を当てたプログラム
 予防に基づいた介入が最近開発され、変わらず一緒にいる(分かれていない)夫婦を考慮しています。これらのプログラムは、特に両親間葛藤と子どものアウトカムを調査した実証研究に基づいて構築されています。

主な調査結果

  • 両親の揃った家庭における夫婦関係を対象とした8つの介入プログラムを特定しました。

  • 全て介入は国際的なもので、6件はアメリカ発、2件はヨーロッパ発からでした。

  • 1つの介入は認知行動療法的なアプローチ(統合的行動カップル療法)を採用し、1つはアフリカ系アメリカ人の家族向けに開発されたスキルトレーニングと心理教育プログラム(「強いアフリカ系アメリカ人家族の促進」)、そして1つは葛藤の認知的再評価を育成するために設計された短い書面によるタスク(認知的再評価の書面タスク)を使用しています。

  • 5つのプログラムは心理教育的介入で、その詳細は以下の通り:1つは父親に焦点を当てたもの(父親の子どもへの関与の促進)、2つは夫婦関係に関する知識を対象としたもの(夫婦関係教育、EPL:Ein Partnerschaftliches Lernprogramm für Paare)、1つは夫婦間の葛藤に焦点を当てたもの(「幸せな夫婦、幸せな子どもたち」)、そしてもう1つは子育てに伴うストレスに関するもの(「夫婦対処強化トレーニング」)。

  • エビデンスの質:8つのプログラムは全て、ランダム化比較試験を使用したエビデンスによって裏付けられています。

  • 国際的な調査結果は、これらの介入が夫婦関係の特徴(夫婦関係の満足度、コミュニケーション、葛藤や意見の相違を含む)と子どものアウトカムに対して顕著な望ましい効果をもたらすことを示しています。例えば、子どもの問題行動の改善は、「父親の子どもとの関与を促進」が報告し、両親間葛藤の変化と思春期のうつ症状の変化との関連性は「強いアフリカ系アメリカ人の家族の促進」が報告しています。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 「幸せな夫婦、幸せな子どもたち」(HCHK)は、地域社会のサンプルから選ばれた夫婦が両親間葛藤をより適切に管理できるよう支援する、4セッションの短い心理教育プログラムです[164]。この介入には、ファシリテーター主導のプレゼンテーションが含まれます。各セッションで議論された行動の定義は、親が家に持ち帰ることができるように書面で提供されます。親は、日常の葛藤行動のテーマを示すビデオクリップを視聴します。各シナリオで、親は子どもが居るときと居ないときでこれらの葛藤行動を観察します。次に、グループディスカッションは、夫婦が葛藤行動の影響を理解し、その状況で当事者が別の行動をとれた可能性があることを理解するのにも役立ちます。90組の夫婦を対象としたランダム化比較試験の評価から得られたエビデンスは、親がこの介入を受けた場合、対照群と比較してより建設的で、より破壊的ではない両親間葛藤を示したことを示唆しています。一方の親はもう一方の親に対してより協力的で、より積極的で、観察された交流中に解決に向かう可能性が高くなりました(テスト後の解決において、6か月および1年の追跡調査の効果量がd =0.72から1.72の範囲でした)。これらの変化は、人間関係の満足度、子育て、子どもの適応の改善にも関連していました(親の報告によると、子どもの年齢は4〜8歳でした)。更に、これらの夫婦のうち39組の2年間の追跡調査では、治療群が問題解決行動(d = 0.78)を含む建設的な葛藤(d = 1.06)の改善を示したことが示唆され[165]、このプログラムの長期的な有効性が強調されています。
 「夫婦対処強化トレーニング」(CCET [166]) は、夫婦や親同士の関係のストレスを軽減し、ストレスへの対処と夫婦関係の満足度を向上させることを目的とした心理教育プログラムです。合計18時間にわたる6つのモジュールで構成されます。6つのモジュールのうち3つは、個人レベルおよび夫婦レベルでのストレスとストレス管理のトピックを検討し、夫婦間の支援的な対処は勿論のこと、効果的な対処、コミュニケーション、問題解決を強化します。このプログラムはグループ形式で提供され、夫婦はファシリテーター主導の指示、他の夫婦のビデオ例、および幾つかの監督付き演習でのスキル開発から学びます。2歳から12歳までの子どもを持つ100人の親を対象としたランダム比較試験(RCT)から得られたエビデンスは、CCETがコミュニケーションとストレスへの対処を改善することによって夫婦関係の機能を強化するための効果的なプログラムであることを示唆しています[167]。このエビデンスは、心理教育介入が、特に葛藤行動、コミュニケーション、問題解決スキルに焦点を当てた場合、両親間葛藤に関連する問題の予防に役立つ可能性があることを示唆しています。

主要な移行点における、両親が揃った家庭の親同士の子関係に焦点を当てたプログラム
 夫婦から両親になることへの移行は、特に困難な家族の移行であると特定されており[146]、多くの親は夫婦関係満足度の低下[65, 147]と望ましい夫婦コミュニケーションの悪化[168, 169]を示しており、この期間中に夫婦の葛藤が増加しています[43]。このことは、新たに親になった人を対象とした介入には、葛藤管理の側面を含めるべきであることを示唆しています。このようなプログラムには、重複するコンテンツが含まれています。このようなプログラムの多くは、夫婦が親になることに伴う困難に備えることで、夫婦関係を改善し強化することを目的としています。夫婦の多くが、コミュニケーションの促進、葛藤を管理する戦略、現実的な期待、(子育て)責任の共有、繊細な子育ての推進を検討しています。しかし、このようなプログラムは、学習プロセスは勿論のこと、各プログラムの長さと強度が異なります[170]。多くの夫婦はプログラムを受けた後に関係満足度の向上を示しており、これらのプログラムの一部にスキルトレーニングが含まれている場合、夫婦のコミュニケーションにおける追加の利点も観察されています[171, 172]。全体として、新たに親となった夫婦や親になる予定の夫婦への介入は、心理的ウェルビーイングの改善は勿論のこと、夫婦のコミュニケーションと適応に対し、小さいながらも重大な効果をもたらすことがわかっています[169]。

主な調査結果

  • 両親が揃った家庭および移行期における夫婦関係を対象とした5つの介入を特定しました。

  • 全ての介入は国際的なもので、4件はアメリカ発、1件はオーストラリア発でした。

  • 5つのプログラムは全て、子育てへの移行期にある夫婦を対象としており、心理教育(「2つのオンラインの力」、「赤ちゃんを家に連れ帰る」)、スキルトレーニング(「家族になる」、「親になる夫婦のケア」)、またはその組み合わせ(「家庭の基盤」)のいずれかでした。

  • エビデンスの質::5つのプログラムは全て、ランダム化比較試験を使用したエビデンスによって裏付けられています。

  • 調査結果は、夫婦関係の質と満足度の維持に長期的な影響を与えるのは勿論のこと、夫婦関係の特徴(コミュニケーションや夫婦間葛藤を含む)に望ましい影響を与えることを示しています。うつ病の軽減(「家庭の基盤」、「赤ちゃんを家に連れ帰る」)、育児ストレスの軽減、不安の軽減(「家庭の基盤」)を含む、親のウェルビーイングに対する望ましい効果も報告されています。

  • 「家庭の基盤」は、子どもに対する長期的な望ましい影響(社会的能力の向上、学校への適応、内在化問題の減少を含む)を実証しています。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 「家庭の基盤」は、共同子育てに焦点を当てたコンテンツを備えた心理教育介入です[173]。介入は、対話型の心理教育的でスキルベースのグループで、8セッション(産前4回、産後4回)にわたって続きます。カリキュラムの側面には、以下の内容が含まれます:葛藤の管理、コミュニケーション、両親になることへの移行時の負担の最小化、および共同子育ての相互支援のための戦略。このプログラムの有効性は、RCT[183]を使用してテストされています。第1子を妊娠している169組の夫婦のサンプルが、介入(n = 89)または対照条件(n = 80)のいずれかに無作為に割り付けられました。介入に割り付けられた家族は、出生前と出生後に実施される8つのクラスからなる「家庭の基盤」に参加しました。この研究では、共同子育て、親の精神的健康、親子の機能不全相互作用、乳児の調整(例えば、宥め易さ)に関する介入の有効性をテストしました。
 治療企図解析では、共同子育ての支援(ES: 母親 = 0.35; ES: 父親 = 0.54)、母親のうつ病(ES = 0.56)および不安症(ES = 0.38)、親子関係における苦痛(ES: 母親 = 0.34; ES: 父親 = 0.70)、父親が報告した子育てに基づく親密さ(ES = 0.44)、父親が報告した乳児の宥め易さ(ES = 0.35)、母親が報告したオリエンテーション期間(ES = 0.34)に対するプログラムの有意な効果が示されました。介入効果は収入によっては緩和されませんでしたが、低学歴の親や、親密な関係においてより高いレベルの不安定なアタッチメントを報告した父親を持つ家庭では、プログラムのより大きな望ましい効果が見出されました。
 6か月の追跡調査(1歳の子ども)[184]では、テスト前とテスト後の親と子どもの間のやり取りをコード化されたビデオテープに記録されました。介入効果は、共同子育て(ES = 0.10~0.51)、子育て(ES = 0.34~0.60)、夫婦関係(ES = 0.48~1.01)、および母親が報告した子どもの宥め易さ(ES = 0.30)において維持されることが判明しました。3年間の追跡調査では、介入群の子どもはより良い適応を示しました(例えば、社会的能力、内在化問題の減少、学校への適応)。
 「赤ちゃんを家に連れて帰る」は次の内容を目的とした2日間の心理教育ワークショップです:⑴夫婦の関係を強化し、新たに親になることに伴う夫婦関係上の困難に備えるための準備をする、⑵父親と母親の関与を促進する、⑶子どもの心理的発達に関する情報を提供する。このワークショップの実施には、コミュニケーション演習は勿論のこと、講義、デモンストレーション、ロールプレイ、ビデオが含まれており、葛藤の管理、望ましいコミュニケーション、および子育て関連の困難への移行への対処に焦点を当てています[171, 174]。この介入の有効性は、少なくとも 2つのRCTによってテストされています。1つ目の研究では、婚姻生活の質、産後うつ病、および敵意の表現に対する介入効果を測定しました[185]。38人の参加者のサンプルが治療群(n = 18)または対照群(n = 20)に無作為に割り付けられました。対照群と比較して治療群に対する介入の影響を評価するため、家族を3年間追跡調査しました(参考研究は1年間の追跡調査の結果を報告しています)。調査結果は、この介入が介入群の男性の婚姻生活の質を大幅に改善し、女性の婚姻生活の質を維持するのに効果的でしたが、対象群では男性と女性の婚姻生活の質が低下することを示していました。産後うつ病と夫婦間の葛藤も、介入群の男性と女性の両方で時間の経過とともに改善されました。2つ目のRCT[186]では、181人の妊娠中の親のサンプルが対照群、ワークショップ群、またはワークショップ支援群に無作為に割り当てられました。

両親の別離や離婚を背景とした親同士の関係に焦点を当てたプログラム
 エビデンスは、子どもの適応は、子どもがそれぞれの親と持つ関係の質は勿論のこと、親の離婚前後に経験する両親間葛藤のレベルと種類に強く関連していることを示唆しています[80]。子どもが親同士の葛藤の「真っ只中にいる」と感じるようになると、特に自分を責めたり、親同士の意見の相違に責任を感じたりする場合、子どもは不調になります[17]。親と子どもの両方のアウトカムを改善するために、別離または離婚した親向けに幾つかの介入が開発されています。

主な調査結果

  • 夫婦関係内の葛藤の特定の側面を対象とした8つの介入が特定されました。

  • これらの介入は全てアメリカ発でした。

  • 4つはスキルトレーニングのアプローチ(「真っ只中の子どもたち」、「生涯パパ」、「移行期を通じた子どもの支援」、「協力的離婚プロジェクト」)を採用し、4つは心理教育的アプローチ(「子どもに焦点を当てる」、「離婚と別離の中の子どもたち」、「子どもの要求」、「一緒に働くプログラム)を採用しています。

  • 介入のうち4つは裁判所が命じたプログラムです(「真っ只中の子どもたち」、「移行期を通じた子どもの支援」、「子どもに焦点を当てる」、「一緒に働くプログラム」)。

  • エビデンスの質:3つの介入は、ランダム化比較試験(「生涯パパ」「協力的離婚プロジェクト」、「離婚と別離の中の子どもたち」)からのエビデンスによって裏付けられています。4つの介入は、事前・事後デザイン(「子どもに焦点を当てる」、「子どもの要求」、「一緒に働くプログラム」)を使用した研究のエビデンスによって裏付けられており、そのうちの1つは対照群の比較(「真っ只中の子どもたち」)を含んでいます。1つの介入は、介入後のデータのみを使用したエビデンスによって裏付けられています(「移行期を通じた子どもの支援」)。

  • 国際的な調査結果は、コミュニケーションのスキルを向上させ、両親間葛藤を軽減する、これらの介入プログラムの望ましい効果を示しています。「真っ只中の子どもたち」と「一緒に働くプログラム」はいずれも、子どもが親同士の葛藤に曝さらされる機会が減少したことを証明しました。

  • 内在化症状や内在化行動の軽減(「生涯パパ」、「子どもの要求」)や感情的問題の軽減(「離婚と別離の中の子どもたち」)を含む、子どもに対する望ましい効果も報告されています。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 「真っ只中の子どもたち」[175]は、裁判所によって義務付けられた親への介入です。この介入は、行動モデリング技術に重点を置いた3時間のスキルトレーニングプログラムです。このプログラムは、子どもが破壊的な葛藤に曝されることを減らし、子どもが親同士の意見の相違の真っ只中に巻き込まれるのを防ぐことに焦点を当てています。元配偶者とのコミュニケーションや交流を改善するためのスキルを開発します。314人の親を対象とした、対照群の事前・事後デザインを用いた評価研究の結果は、介入を受けている親は、より効果的なコミュニケーションを学び、葛藤を回避するスキルを学ぶことを示唆しています。更に、これらのスキルは介入後3か月間維持され、葛藤解決の改善に関連しています[175]。
 「協力的離婚プロジェクト」もスキルトレーニングベースのプログラムで、6歳以下の子どもの親を対象に設計されています[176]。この介入は葛藤解決に重点を置いた自主的な法廷ベースのプログラムです。161家族を対象としたランダム化比較試験からのエビデンスは、介入を受けた家族は、待機リストの対照群と比較して、葛藤が少なく、父親の関与が大きく、子どもの認知機能と行動機能が改善したと報告していることを示しています。親が監護権評価やその他のサービスを要求することも期待できませんでした。
 全体として、エビデンスは、子どもが曝される破壊的な葛藤のレベルを下げ、子どもが両親間葛藤の真っ只中に巻き込まれないようにすることが、両親の離婚後の子どもの適応を促進するのに効果的であり[169]、プログラム間には幾つかの重複があることを示唆しています。両親が揃った状態から別離状態に移行する際の、親を対象とした介入プログラムの効果的な要素は次のとおりです:⑴子育ての影響と両親間葛藤の少なさについて親を教育する、⑵子育ての質を高め、もう一方の親を貶めることのないようにモチベーションを高める、⑶モデリング、ロールプレイ、フィードバックを含むスキルを構築する[80]。

子育ての熟練度(またはその逆)に更に焦点を当てた、夫婦(親同士)の関係をターゲットにしたプログラム
 子育ての熟練度に関する要素を含む、夫婦に焦点を当てたプログラムは、有益であると思われます。

主な調査結果

  • 子育てスキルの向上に更に焦点を当て、夫婦関係を強化することを目的とした3つの介入が特定されました。

  • 1つの介入はアメリカ発とイギリス発で、2つの介入は国際的なもので、1つはアメリカ発、もう1つはオーストラリア発と中国発です。

  • 全ての介入では、心理教育、またはスキルトレーニングを伴う心理教育のアプローチが採用されています。

  • 子育ての改善に加えて、これらのプログラムは、夫婦関係の困難や問題解決(「信じ難い年月」)、または親同士の葛藤(「エンハンスド・トリプルP」)を含む家族関係(「学童とその家族」)における満足できない、または機能不全に陥った行動パターンの修正に対し、更に焦点を当てています。

  • エビデンスの質:2つの介入プログラム(「学童とその家族」、「エンハンスド・トリプルP」)は、ランダム化比較試験を使用したエビデンスによって裏付けられており、1つの介入プログラムは事前・事後デザイン(「信じ難い年月」)を使用したエビデンスによって裏付けられています。

  • 国際的な調査結果は、うつ病や子育ての自己効力感の改善などの親のアウトカムは勿論のこと、子育てや子どもの行動の改善にも望ましい効果があることを示しています。

  • 「学童とその家族」は、夫婦間の相互作用、婚姻生活の満足度、および子どもの適応(多動性と攻撃性)に長期的な望ましい影響を与えるエビデンスを実証しています。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 夫婦関係のスキルに重点を置き、子どもの人生の重要な転換点(新学期や小学校への進学)に実施されるプログラムの1つが、「学童とその家族」プロジェクトです。この心理教育プログラムを評価する研究では、192家族が低用量の比較条件または2つの介入条件のうちの1つに無作為に割り当てられました[182]。夫婦議論群は、夫婦関係の問題または子育ての問題について議論するため、16週間にわたって集合しました。どちらの介入群も、親子関係と幼稚園および小学校1年生の子どもへの適応に対して、望ましい効果を示しました。夫婦関係の問題に焦点を当てた群は、夫婦関係の質において更なる利益を示し、両親間葛藤が減少したことも示されました[182]。更に、追跡評価は、最初の介入から6年後と10年後には、夫婦関係の満足度の向上や高校での子どもの適応の向上を含め、望ましい効果が実証されており[183]、夫婦に基礎を置いた介入が親と子どもに長期的な望ましい効果をもたらし得ることを示唆しています⁴。
 「信じ難い年月」プログラムは、十分に検証された12週間の子育てプログラムであり、この子育てに焦点を当てたプログラムの最近のモデルは、夫婦や大人のスキル機能も強調しています。各セッションは2.5時間続き、ファシリテーター主導のグループディスカッション、ビデオテープのモデリング、ロールプレイ、群内のリハーサル宿題を通じてスキルを教わります。親は次のようなスキルを教わります;⑴遊びや子ども中心の活動を通じて、子どもと望ましい関係を築く方法、⑵子どもの適切な行動に対する賞賛、報酬、インセンティブの奨励、⑶効果的な制限設定の使用に関する指導と明確な指示、⑷規則違反を監督する戦略。「信じ難い年月」子育てプログラムの発展版には、コミュニケーションスキル、問題解決、個人の自制心に関する追加セッションが含まれています。このプログラムは、早期に行動問題を抱えた幼い子どもを持つ家庭対象としています。発展版「信じ難い年月」プログラムの評価には、早発性の行動問題を抱える97人の子ども(4~8歳)の家庭が含まれていました。これらの家庭は4つの条件(子どものトレーニング群、子育てのトレーニング群、子どもと親のトレーニング群、対照群)のいずれかに無作為に割り当てられました。この発展版プログラムを受けた親は、基礎版の子育てプログラムを受けた親と比較して、人間関係のコミュニケーションと子どもの問題解決スキルの向上を実証しました。更に、問題解決スキルを学んでいる間に、子どもはより大きな向社会的行動を示しました[177, 178]。子どもの行動問題に対する臨床的に有意な効果も証明されました。治療直後、親のトレーニング群の80.8%、子どもと親のトレーニング群の70.0%が、子どもの行動が正常範囲へと臨床的に有意に変化したと報告しました。これと比較すると、子どものトレーニング群の37.0%、対照群の27.3%でした。1年間の追跡調査では、子どものトレーニング群の73.7%、親のトレーニング群の60.0%、子どもと親のトレーニング群の95.0%で、逸脱行動が治療前のレベルから少なくとも30%減少しました[179]。このことは、親が苦痛や対人関係に対処できるように支援することが、親と子の両方に望ましいアウトカムをもたらす可能性があることを示唆しています[180, 181]。

⁴ この研究では、アウトカムの改善が単に群内の他の親たちと16週間打合せをした結果であるという考え得る説明も除外されています。夫婦関係に関する具体的な内容がアウトカムの改善につながりました。

ドメスティックアビューズやドメスティックバイオレンスが子どもに及ぼす影響に対処する際の、親同士の関係に焦点を当てたプログラム
 
親同士の暴力を目撃した子どもは、感情的、行動的、認知的問題を含む重度の望ましくないアウトカムを経験する可能性があります[184, 185]。更に、このような子どもは大人になると、アルコール、薬物使用、うつ病の問題を報告する可能性が2~4倍高くなります[186]。子どもに対するこのようなリスクにも拘らず、慎重に設計された介入は殆ど存在せず、その中でも厳密にテストされ評価されたものは殆ど存在しません[187]。

主な調査結果

  • ドメスティックバイオレンスに曝された子どもを対象とした介入が1つ特定されました。

  • 「En nu ik..!」(「今度は私の番です!」)はオランダ発です。これは、子ども向けの9つのグループ・セッションと、監護親向けの9つの並行グループ・セッションで構成される心理教育的アプローチです。

  • エビデンスの質:この介入は、ランダム化比較試験のエビデンスによって裏付けられています。

  • 調査結果は、うつ病のレベルの低下、内在化症状と外在化症状を含め、子どものアウトカムに望ましい効果があることを示しました。しかし、介入群と代替治療対照群の両方で、時間の経過とともにこれらの症状の改善が見られました。結果として、平均への回帰効果や成熟効果を最終的に排除することはできません。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 RCTデザインを使用してテストされた最近のプログラムの1つが、「En nu ik!」(今度は私の番です!)です。これは、オランダで、親同士の暴力を経験している6歳から12歳の子どもが居る家族を対象に実施する心理教育プログラムです[188–190]。家族は、青少年(精神的健康)ケアは勿論のこと、警察、ソーシャルワーカー、女性保護施設から介入プログラムを紹介されます。このプログラムに参加するための基準は、子どもが親同士の暴力を経験していなければならないことですが、更に家族がプログラムに参加している時点で暴力が停止していなければなりません。家族は無作為に介入プログラムまたは対照プログラムに割り当てられました。
 このプログラムは、感情の認識と表現に重点を置き、情緒安定の感情高め、効果的な対処戦略を教え、親子の交流を改善します。親向けのこのプログラムの目的は、困難な経験や感情に対処する子どもを親がサポートする際に、より高感度でいられるようにすること、また、親同士の暴力を目撃した子どもの視点に立つことができるようにすることです。このプログラムには、以下の子ども向け並行グループ・セッションは勿論のこと、親向けの9つのグループ・セッションが含まれています;⑴子どもが親同士の暴力の経験を処理できるよう支援する、⑵感情を区別し、表現する方法を学ぶ、⑶非暴力的な方法で感情や問題に対処する方法を学ぶ[188]。155人の子どもとその親を対象としたRCT研究では、「今度は私の番です!」を受けた子どもと、(親同士の暴力に特有の要因を含まない)代替介入を行った子どもとを比較し、両グループとも子どもの心的外傷後ストレス症状は勿論のこと、内在化問題と外在化問題が減少したことを示唆しています[189]。

予防ベースのプログラム
 
予防ベースのプログラムの最近の開発では、人間関係の問題を経験していない、あるいは介入の必要性を感じていない夫婦や個人と連携することが検討されています。このプログラムは、将来の婚姻生活の苦悩や離婚のレベルを軽減するために、夫婦が葛藤に対処するスキルを向上させることを目的としています。アメリカからの3つのプログラムが特定されました。2つのプログラムは、結婚を計画しているカップルを対象としたもの(「予防と関係強化(PREP)」、「問題を効果的に処理する(HOPE)」)で、もう1つのプログラムは、カップル関係のステータスに関係なく、個人を対象とした予防的なアプローチでした(「手の届く範囲で(WMR)」)。

主な調査結果

  • 予防的アプローチを備えた3つのプログラムが特定されました。

  • これらは全て米国発です。

  • 2つのプログラムには心理教育アプローチ(「問題を効果的に処理する」「手の届く範囲で」)があり、1つはスキルトレーニングアプローチ(「予防と関係強化」)があります。

  • これらの介入プログラムは、コミュニケーション、意思決定、葛藤の解決を含む、健全な関係の構築と維持に関するトピックの教育に焦点を当てています。

  • エビデンスの質:1つのプログラムはランダム化比較試験を使用したエビデンスによって裏付けられ(「問題を効果的に処理する」)、2つのプログラムは事前・事後デザインを使用したエビデンスによって裏付けられており(「手の届く範囲で」)、そのうちの1つは対照群の比較(「予防と関係強化」)を含みます。

  • 長期的な望ましい効果は、「予防と関係強化」によって実証されており、そこでは、望ましくないコミュニケーションが少なく、望ましいコミュニケーションが多く、婚姻生活の満足度が高く、葛藤が少ないことが報告されています。

このカテゴリーに含まれる例示的プログラムの詳細
 よく検証されているプログラムの1つは、アメリカで開発された普遍的なスキルベースの予防プログラムである「予防と関係強化(PREP)」プログラムです[191]。このプログラムは、献身と友情は勿論のこと、葛藤の解決とコミュニケーション、親密さの発展と維持、に重点を置き、カップルに効果的なコミュニケーションと葛藤管理を教えることを目的としています。予防プログラムとしての主な目的は、現在の機能を改善することより、寧ろ既に高いレベルの機能を維持し、問題の発生を防ぐことです。
 プログラムは、それぞれ約3時間の5つのセッションで構成されていました。PREPの各セッションには3~5組のカップルが参加し、各カップルはプログラム全体を通じて訓練を受けたコンサルタント(心理学の学生または臨床心理学の大学院生)と連携します。各セッションは1つまたは2つの分野に焦点を当てており、カップルはセッション間に宿題を完了して、学んだスキルを練習することもできました。介入研究の一環として、婚姻生活の苦痛を評価する前後(5年間の追跡調査)アセスメントが実施されました。参加者は、関係発展に関する大規模な研究から選ばれた、初めて結婚を計画している114組のカップルでした。カップルは地域社会全体の宣伝を通じて募集され、PREPまたは対照群に参加するために無作為に選ばれました。参加者の大多数は婚約しており(60%)、39%は同棲していました。参加者の40%は将来結婚を計画していましたが、正式に婚約はしていませんでした。25組のカップルが介入を完了し、42組のカップルが介入への参加を辞退し、対照カップルには47組が存在しました。エビデンスは、5年間の追跡調査では、介入カップルは対照カップルと比較して、望ましいコミュニケーションスキルのレベルが高く、望ましくないコミュニケーションスキルと夫婦間暴力のレベルが低いことを示唆しています。予防プログラムは、婚姻に対する満足度やコミットメントのレベルの向上、葛藤のレベルの低下、離婚の確率の低下にも関連していました[192-195]。これらの効果は人種、収入、教育レベルを問わず強いことがわかっており[196]、PREPは臨床環境と地域社会環境の両方で有効であることが示されています[192-194]。最近では、オンライン版(ePREP)も成人のうつ病、不安症、人間関係の悩みを軽減することが示されています[197]。
 もう1つの予防プログラムは、結婚後6か月以内のカップルを対象としたアメリカにベースを置く、最近証明された(2015)心理教育プログラム[198]、「問題を効果的に処理する(HOPE)」です。これは、深刻な問題が発生する前の婚姻初期のコミュニケーションと葛藤解決スキルに焦点を当てた9時間の介入です。評価の一環として、これを許しと和解に焦点を当てた9時間の介入「共感を経験することによる許しと和解(FREE)」と比較されました。参加者は新聞やラジオの広告を通じて募集しました。参加者は婚姻後6~9か月であること、心理的治療を受けていないこと、交際中の暴力を報告していないことを要件とされました。評価の一環として、その後に個人(n = 145)が介入群(HOPEまたはFREE)、あるいは対照群のいずれかに無作為に割り当てられ、介入前と介入後に評価されました。参加者は白人(78%)、アフリカ系アメリカ人(16%)、その他の民族(6%)でした。19%が以前に離婚していました。1か月の追跡調査では、HOPEとFREEの両方で望ましい変化が生じました。自己報告による人間関係の質は介入群で改善し、HOPEの方が若干高くなりました(FREE ではd = 0.18、HOPEでは d = 0.31)。カップルのコミュニケーションスコアは、HOPEでは増加しましたが(HOPEでは効果量 d = 0.30)、対照群とFREEでは減少しました(FREE では d = 0.06)。望ましくない相互作用に関しては、対照群は時間の経過とともに増加しましたが、HOPEとFREE は時間の経過とともに安定していました(FREEでは d = 0.69、HOPEでは d = 0.51)。望ましい相互作用に関しては、対照群は急激に減少しましたが、介入群に関しては安定していました(FREE の場合は d = 0.83、HOPE の場合は d = 0.83)。

議論と結論

 本章では、夫婦や両親の間の関係を改善することを目的としたプログラムの有効性に関するエビデンスの概要を説明し、測定および報告された場合には、子どもに対するアウトカムも示しました。世界中のプログラムを対照にしました。体系的な方法を使用した主要な学術データベースの検索に基づいて、本セクションでは、レビューの長所と限界を考慮して、重要な結論を検討します。

レビューの長所と限界
 この迅速なレビューの強みは、カップルの関係の質を高め、かつ/または、カップルの葛藤に対処するべく設計された介入の有効性に関する、現在のエビデンスの時宜に適った概要を提供することです。使用された検索用語は前章の文献レビューから派生したものであるため、研究の2つの側面の間には密接な整合性があります。同様に、これらの検索用語は2つの重要な学術データベースを体系的に検索するために使用されました。このことは、利用可能なエビデンスを検索するために客観的で透明性のある方法が使用されたことを意味します。更に、それぞれの評価研究は少なくとも1人の研究者が詳細に読みました。
 多くの限界があることを認識する必要があります。第一に、時間が限られていたため、完全な体系的レビューは不可能でした。より包括的な検索用語とデータベースのセットが使用できていれば、より多くの介入セットが特定できた可能性があります。第二に、レビューが査読済みの文献に焦点を当てていることから、出版バイアスの可能性があります。つまり、肯定的な結果が得られず、結果として出版されなかった評価が存在する可能性があります。第三に、各評価の方法論は付録で詳細に説明していますが、評価エビデンスはまだEIFのエビデンス基準に照らして正式に評価されていません。この評価は、より多くのリソースを必要とするプロセスであり、プログラム・プロバイダーとのエビデンス要求とパネルレビュープロセスを含みます。使用されたアプローチは、レビューの所要期間を考慮すると目的に適していますが、詳細な基準一式に照らした詳細な評価ではなく、評価エビデンスの初期評価を行ったことを認識することが重要です。最後に、レビューのプロセスを受けた介入を、理解と統合を助けるためにテーマ別のカテゴリーにグループ化しましたが、実際には個別のカテゴリーは存在しない可能性があり、一部の介入は複数のカテゴリーに属すると主張される可能性があることが認識されています。
 これらの限界を認識した上で、本レビューは、夫婦および親同士の関係を改善し、(場合によっては)子どものアウトカムを改善するように設計されたプログラムの評価の代表的なサンプルからのエビデンスを時宜に適って統合し、多くの重要な発見を明らかにしました。

プログラムは次のカテゴリーに分類できます。

  • 両親が揃った世帯における親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 主要な移行点(例えば、夫婦から両親になることへの移行、子どもの就学)における、両親が揃った家庭の親同士の関係に焦点を当てたプログラム

  • 両親の別離や離婚を背景とした親同士の関係に焦点を当てたプログラム。

  • 子育ての熟練度(またはその逆)に更に焦点を当てた夫婦(親同士)の関係をターゲットにしたプログラム

  • ドメスティックアビューズやドメスティックバイオレンスが子どもに及ぼす影響に対処する際の、親同士の関係に焦点を当てたプログラム。

  • 予防ベースのプログラム

 このレビューの長所と限界という文脈の中で、次の重要な洞察が得られました。

  • 夫婦における葛藤の管理とコミュニケーションを対象としたプログラムは、子どものアウトカムの改善を示唆します。

  • 主要な移行点(例えば、夫婦から両親になる、子どもの就学)における夫婦関係のコミュニケーションと葛藤管理スキルを対象としたプログラムは、子どもの長期的なアウトカムを改善することを証明しています。

  • 夫婦関係のコミュニケーションと葛藤管理スキルを対象としたプログラムは、(子育てのスキルが直接の対象ではない場合でも)同時に子育てと子どもにとって望ましいアウトカムの改善を示唆しています。

  • リスクの高い状況(例えば、離婚やドメスティックバイオレンス)における親同士の関係を対象としたプログラムは、子どものアウトカムの改善を示唆しています(望ましくない家族の葛藤プロセスの世代間伝達や、将来における人間関係上の暴力行使を減らす意味合いを伴います)。

  • 子どもの人生の早い段階で夫婦関係をサポートすることは、子どもの精神的健康、将来の人生の可能性、世代を超えた前向きな人間関係の行動パターンに長期的な影響を与える可能性があります。

 更なる観察として、レビューされた介入の中には、子どものアウトカムへの影響として親同士の関係の重要性が認識しているものもありますが、子どもへの直接的な影響源として夫婦関係を考慮に入れている介入は現在殆ど存在せず、親同士の葛藤により子どもは望ましくないアウトカムを招くリスクが高まる、特定のメカニズムを対象とした介入は依然として少ないままです。このことは、レビューした評価の一部だけが子どものアウトカムを測定したという事実に反映されています。しかし、レビューした既存の介入エビデンスでは、多くの親同士の関係のプログラムが子どものアウトカムを改善することがわかっています。これらの評価の多くは、治療および対照条件への無作為な割り当てが含まれていたため、このことは、子どものアウトカムに対する親同士の関係の因果関係を強力に裏付けるものとなります(Cowan & Cowan, 2002)。これは、第2章でレビューした長期的エビデンスの発見を裏付け、補完するものです。この総合的なエビデンス・ベースの強さを考慮すると、家族の不和や葛藤が子どもに及ぼす影響を対象とした既存の介入は、親同士の葛藤が特徴的な場合、子どもの行動や子育てに焦点を当てた介入を含め、より体系的かつ直接的に夫婦関係に焦点を当て、夫婦関係スキルを高めるように修正する必要があるかもしれません。

(了)

[訳者註]統合的行動カップル療法 Integrative Behavioural Couple Therapy, IBCT
統合的行動カップル療法は、1990年代にアンドリュー・クリステンセンとニール・S・ジェイコブソンが考案した、相手を受け入れ、感情を開放し、変化を促すセラピー方法である。第3世代のセラピーに属するもので、エビデンスに基づいて考案された。「統合的」なカップル療法と名付けられているのは、問題行動ではなく、問題の背景を考慮し、自己変化を促進するものだからである。さらに、治療の効果・効能を向上させるために、エビデンスが考慮されている。

[訳者註]強いアフリカ系アメリカ人家族の促進 Promoting Strong African American Families, ProSAAF
農村地域に住むアフリカ系アメリカ人の親と思春期初期の子どもを対象とした対話型教育プログラムで、家族関係を強化し、若者が前向きな行動を身につけ、薬物使用、非行、性的関与のリスクに効果的に対応できるよう支援することを目的としている。

[訳者註]認知的再評価 reappraisal
リアプレイザル(「re=再度」「appraisal=評価」)とも言う。文字通り、物事の見方を変え、同じ身体反応を認知的に再評価する方法。簡単に例えると、緊張を抱える本番前という状況をネガティブに捉えるのではなく、「心拍数を上昇させ、身体は本番に向けて準備している」といった具合で、認知的に状況をポジティブに変化させていく。

[訳者註]治療企図解析 intention to treat analysis
ITT解析とも言う。ランダム割り付けを行う介入研究において,研究を始める前に決定した対照群と介入群の割り付けを実験終了時にも変えずに解析する方法。例えば,対照群(被検者A,B,C)と治療群(被検者D,E,F)として研究を行い,研究を進めるうちに対照群の被検者Bが治療を受けたくなって治療群に変わったとか,治療群の被検者Dが治療を止めたというときでも,研究終了時の解析は当初の予定通り,対照群(被検者A,B,C)と治療群(被検者D,E,F)として解析する手法。

[訳者註]トリプルP Triple P
オーストラリアのクイーンズランド大学心理学科教授のサンダース博士らによって開発され、長年にわたり実践されてきた家族支援プログラム。実証研究が蓄積され、その有用性が確認されたエビデンスベースドのプログラムであり、現在15ヶ国以上の国に導入されている。
トリプルPは、5段階の介入・支援レベルを持つ。レベル1は、ユニバーサル・トリプルPと呼ばれ、新聞やテレビ、印刷物などの媒体を用いて、子育てや子どもの発達に関する情報提供や啓発を行う。レベル2は、セレクテッド・トリプルPと呼ばれ、12歳以下の子どもの発達や行動問題に悩む親に対し、短時間の面談やセミナー形式で相談・助言を行う。レベル3は、プライマリーケア・トリプルPと呼ばれ、子どもの発達や行動問題に悩む親に対し、短期間(4回のセッション)の相談やスキルトレーニングを行う。レベル4は、スタンダード・トリプルPと呼ばれ、子どもの問題行動に悩む親の養育スキルを高めるため、集中してトレーニング(8~10回のセッション)を行う。レベル5は、エンハンスド・トリプルPと呼ばれ、それまでのレベルの介入・支援では解決できなかった、あるいは継続の必要性があるケースへの集中プログラムである。夫婦関係の悪化や抑うつ、ストレス、虐待など家族機能が不全であり、かつ子どもの問題行動も抱えている家族に介入(11回以内のセッション)を行う。

[訳者註]出版バイアス publication bias
否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいというバイアスである。公表バイアスとも言う。単純には、否定的な結果に関する情報が公にならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?