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駄作だ、自己撞着だ、って人がね

 そう、馬鹿にする人が多いわけですよ、この『同時代ゲーム』って作品。『政治少年死す』と同じくらい馬鹿にされている作品。
 福田和也なんか、人前で読むと恥ずかしいから秘密にしておいた方がいいとかまで書いてますからね。

 ぼくの知っている大江好きもだいたいこの作品を馬鹿にできないと批評力がないとかミーハーだとか見下しがちですね。

 あのとき大江健三郎の作品は短編をいくつか読んでいたのですが、長編は『万延元年のフットボール』しか読んでなくて、『同時代ゲーム』はやめとけと先輩からも忠告されていました。

 これ、ぼく、旅行先で読みました……
 読んだら……
 これが……面白い……
 何がわるいのかわからないし……
 馬鹿にしたくてもできなかったし……

 売れない作家だし、最高級の賞もらっても海外ではもっと売れないらしいし、文や発想は気違いみたいだし、この『同時代ゲーム』という作品は、けれどもわるくない(ついでにいうとこの作品をぼくの嫌いなゴロツキ老人SF作家がベタ褒めしていた)。

 文庫の解説で四方田も時代が経たないとわからないとか曖昧だけど擁護的なこと書いてましたが、駄作だ、自己撞着だ、って人がね、読めてないとはいわない。それでもぼくはこんなの書けたらいいなあと思った。ひそかに。

  ひそかにこれを読んだのは二〇代前半のときでした。アフリカの夕焼けに染まりながらメキシコの描写のところを読めばぐっときたものでした。と、いまなら素直にいえる。

 実は、そのときのぼく、ポットヘッドでした。アフリカ大陸をポットヘッドでギター持って遊び廻って、住処に帰っては読書三昧イタズラ書き三昧。そんな四箇月半でした。だからよく思えたのではないかって? まさか! 

 またあの場所に行きたいな。あのときはずっと若かった。素直になるのは怖いことだったけれど自分に嘘をつけなかったぼくにとっての問題作『同時代ゲーム』この歳になってまた読もうかしら。


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