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【ほんとの話】同棲解消のピンチを救った娘の一言

2017年6月。

3人暮らしが始まって2か月。
実は、まだまだ娘とは距離があった。

ピン芸人を続け、日曜日もアルバイトをして、ライブやバイトが終わって家に帰れば5歳の娘は寝ていて、夜は彼女と晩酌。
ほぼそんな毎日。
自分から積極的に、こどもと関わりを持とうとしていなかった。
一言で言えば、”いつかなつくだろう”とたかをくくっていたからだ。

しかし、そんな僕を見て、彼女は
「私は自分のこどもを一番に考えています。もう娘を悲しい思いにさせないもしも、私の大切な人を大切に思えないのなら、一緒にいないほうがいいのかもしれません」
突然の同棲を解消を示唆する言葉。
返す言葉出てこない、黙って彼女の思いを聞いていた。
まだ、一緒に住み始めて2ヶ月。

その日の夜。
「・・大切に思えないのなら、か。別にそういうわけじゃないんだけどな」
そう呟いて、庭に置いてあるキャンプ用の椅子に座り、1人タバコに火をつけた。
タバコを吸いながら、こどもと仲良くなる作戦を考えてみた。
うーん。
出てこない。
というか、娘が好きなものも知らない。
情けない。
タバコを吸う本数だけ増えていく。

そんな日々が何日か続いたある夜の晩御飯の時間。
なかなか距離が縮まらない僕と娘を見て、彼女も少し表情が暗い。
お茶が入ったグラスをテーブルに置いた時、氷の音がカランと鳴った。

すると、彼女の娘はご飯を食べながら
「ママ、けんちゃんっていい人だよね」
突然のつぶやき。
僕は驚いて、娘の顔を見て、箸を置いた。
”けんちゃん”とは僕のことだ。健太だから、けんちゃん。

彼女は「なんでそう思うの?」
と何とも思っていないような顔で聞いた。
すると、娘は
「リラを投げないから」
と即答し、笑った。
”リラ”とは、娘が大切にしているリラックマのぬいぐるみのことだ。
「ママなんて、耳を持ってうちに投げるでしょ、でもけんちゃんはちゃんと手で渡してくれる、”はい”って」

それを聞いて、彼女が
「だからいい人なの?」と聞くと、
娘は自信たっぷりに「うん」と答えて、また笑った。

彼女は僕に「だって、よかったね」
と言った。
僕は5歳のこどもに救われたのだ。

こどもはふしぎだ、何かを察して、何かに気づいて、予想もできないことを言う。僕だって、子供のころがあったはずなのにいつだって想定外。

彼女の言葉に僕は安堵してうなづき、心から、どうにか娘と仲良くなりたいと思った。
その日のおかずは、豚バラ肉のミルフィーユとんかつ。
僕はこの日から、少しずつ娘と仲良くなる努力を
”ミルフィーユとんかつ”のように重ねようと思った。




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