META(フェイスブック)の脅威レポート

以前(https://note.com/ichi_twnovel/n/nc1e0c22aa003)もご紹介したが、METAの脅威レポートはネット世論操作、影響工作の最先端の現場からの報告であり、とても参考になる。今回はつい先日公開された新しい脅威レポートをご紹介したい。

Meta's Adversarial Threat Report
https://about.fb.com/news/2021/12/metas-adversarial-threat-report/

ご存じのように世界最大のSNSプラットフォーム企業であるMETAはさまざまな攻撃にさらされており、それに対処するためにアカウントの停止などの措置を行っている。今回のレポートで紹介された事例で、停止対象になったのは協調的違反行動=CIB(Coordinated Inauthentic Behavior)、Brigading、Mass Reportingであった。

このレポートに先立って公開された11月のCIBレポート(https://about.fb.com/wp-content/uploads/2021/12/November-2021-CIB-Report.pdf)では、中国、パレスチナ、ポーランド、ベラルーシ4カ国の活動の排除と、中国を拠点としたネットワークに関する調査評価と、コロナに関連した活動に関するさらなる調査のための具体的な脅威指標を提示している。

今回のレポートで取り上げられたCIB、Brigading、Mass Reportingの内容と事例、およびMETAが進めている対策をご説明する。

●CIB
(この節はご存じの方は飛ばしてOK)CIBは長らくMETAを悩ませているもので、その定義や詳細は前回ご紹介した(https://note.com/ichi_twnovel/n/nc1e0c22aa003)。簡単に説明しておくと、CIBとは「CIBとは戦略的な目的のために、公共の議論を操作したり腐敗させたりする協調的な行動」であり、問題のあるコンテンツと問題のある行動を区別して行動にフォーカスすることが重要な点である。CIBを取り締まる際に行動に注目するのには2つの理由がある。あるアカウントやページが影響工作の一環であるかどうかを判断するのに、コンテンツそれ自体は信頼できる基準ではない。第2に、行動に基づいて判断することで、世界で一貫性を保ち、市民の重要な瞬間にあってもCIBポリシーの適用の中立性を確保できる。従来のようにフェイクニュースやデマを排除することだけではSNSの正常化につながらない。行動に注目することで悪意のない利用者や投稿を排除することも予防できることにつながる(これまでの内容を元に判断する場合は、悪のない利用者や投稿も排除の対象となり得たわけだ)。

今回のレポートでは、中国、パレスチナ、ポーランド、ベラルーシのCIB排除の内容を紹介している。

・パレスチナ
ガザ地区ではパレスチナ人を主なターゲットとする141のフェイスブックアカウントと79 のページ、13のグループと21のインスタグラムを削除した。この活動の背後にはハマスがいると考えられる。
・ポーランド
ベラルーシとイラクをターゲットにしたポーランド発の31のフェイスブックアカウントと4つのグループと2つのイベントおよび、4つのインスタグラムアカウントを削除した。
・ベラルーシ
フェイスブックアカウント41とグループ5およびインスタグラムアカウント4を削除した。
・ポーランドとベラルーシのCIBはEUとベラルーシの国境で緊張が高まっていることに関連している。ベラルーシに関してはベラルーシのKGBに関連していた。GAN(generative adversarial networks)などのAIを使ったプロフィール画像の利用も確認された。
・中国
フェイスブックの524アカウント、20ページ、4つのグループおよび、インスタグラムの86アカウントを削除した。
主に中国から発信されており、米国や英国の英語圏のほか、台湾、香港、チベットの中国語圏の人々をターゲットにしていた。調査の結果、情報セキュリティ企業Sichuan Silence Information Technology Co, Ltd.の従業員や、世界各地の中国企業の個人との関連が発見された。
中国のCIBにはウィルソン・エドワーズというスイスの生物学者による陰謀論も含まれている。コロナはアメリカ由来のものであり、コロナの起源を調査しているWHOや研究者にアメリカが圧力かけていると主張した。ウィルソン・エドワーズがフェイスブックやツイッターに投稿すると、48 時間以内に世界中の数百のSNSアカウントがこの記事を紹介した。1週間後には、中国の国営メディア「環球時報」や「人民日報」はこの主張を見出しにして報じた。四川省のSichuan Silence Information Technology Co.および世界各地でこの主張を拡散する試みが行われた。もちろん、この主張は陰謀論であり、ウィルソン・エドワーズは実在しない。

●Brigadingとは
組織的に標的に対して嫌がらせなどの攻撃を行う活動を指す。詳細はMETAのページに説明がある(日本語、https://transparency.fb.com/ja-jp/policies/community-standards/bullying-harassment/)。
反対意見を封じ込めるための高度な脅迫活動から反対意見をかき消すための粗野な嫌がらせまで、さまざまな活動がある。METAはイタリアとフランスから発信され、医療従事者やジャーナリスト、政治家などを対象に大規模な嫌がらせを行ったアカウントネットワークを削除した。調査の結果この活動は、オンライン、オフラインで暴力的な行為を行っているV_Vと呼ばれる反ワクチン接種の陰謀運動に関連していることがわかった。
フェイスブック、YouTube、ツイッター、VKontakte などのSNSで嫌がらせを行う一方、テレグラムを介して連携していた。さらに、ビデオ、オーディオ、ライブ・インタビューなどを使って、発見を回避する方法や、仲間を集める方法をメンバーに教えていた。

●Mass Reportingとは
METAのページに説明がある(日本語、https://transparency.fb.com/ja-jp/policies/community-standards/inauthentic-behavior/)が、CIBとして排除されたのは標的にしたアカウントやコンテンツを大量にMETAに通報して削除させようとした試みである。
ベトナム政府を公然と批判した活動家やその他の人々を標的にして、違反行為行っているという虚偽の報告を行いMETAのプラットフォームから排除しようとした。犯人グループは偽装アカウントを使って、数百件、場合によっては数千件もの苦情を送っていた。

METAが進めている2つの対策。

●多層防御方式(LAYERED DEFENSE APPROACH)
このレポートでは多層的、多角的な防御方法を推奨している。攻撃者は、複数の違反行為を一度に行うことがよくある。たとば攻撃対象の投稿に大量の嫌がらせコメントをつける一方で、ヘイトスピーチを繰り返し、そのアカウントが無効になった場合に備えて、休眠状態のアカウントや偽のアカウントをプラットフォーム上に待機させておくこともある。
METAは、敵対的なグループが停止することを想定せず、METAの対策に対応した新たな試みを行うことを前提に防御を構築している。METAは、攻撃行動をよりコストがかかり、隠すのが難しさせ、効果が失わせることを目標にしている。攻撃者の排除は現実的でも効果的でもないというのがMETAの結論らしい。

●SHARING ANALYSIS & DATA WITH RESEARCHERS
METAは数十年にわたって影響工作、スパイ活動、国家安全保障、その他の脅威に取り組んできた。2018年からは、CIBに関連して削除した150以上のネットワークに関する情報を外部の研究者と共有している。
このコラボレーションにより、インターネット全体のセキュリティリスクについての理解が大幅に深まり、約100件の調査・評価レポートが発表できた。
この1年半の間、METAはCrowd Tangle チームと密接に協力して、外部の研究者がネットワークに関する公開データにアクセスできるプラットフォームを構築した。脅威となるアクターの戦術をグローバルかつ長期的に比較することで、洞察力を高めることができる。この仕組みを通じて、2020年末に100件のCIBアーカイブを共有した。また、このベータ版プラットフォームはデジタル・フォレンジック・リサーチ・ラボ、オーストラリア戦略政策研究所、グラフィカ、カーディフ大学など、さまざまな研究チームからのフィードバックを受けて改良を進めている。

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『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。


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Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計は他ではあまりないかも。Metaは四半期毎なので数も多いです。 どちらも元は無償公開されているのでそちらを読んだ方がよいのは確かです。

Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計、民主主義指数、V-Demなど定期的な資料の紹介記事。ご自分で記事を遡れば無料で…

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