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中露のデジタル影響工作連携を検証したNATO STRATCOMのレポート

NATO STRATEGIC COMMUNICATIONS CENTRE OF EXCELLENCEは、2024年2月22日に「Are Russian Narratives Amplified by PRC Media?」https://stratcomcoe.org/publications/are-russian-narratives-amplified-by-prc-media-a-case-study-on-narratives-related-to-swedens-and-finlands-nato-applications/298 )を公開した。このレポートはスウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請について、ロシアのナラティブを中国が拡散していたかを検証したものだ。

●概要

中露イランの3カ国がデジタル影響工作で連携していることはある程度共有されており、コロナなどで連携されたことが報告されている。しかし、これまで連携に焦点を当てて掘り下げた調査研究はあまり見たことがない。
このレポートはスウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請について、ロシアと中国が拡散していたナラティブを検証している。
事前に整理として、ロシアと中国それぞれと、スウェーデンとフィンランドの歴史的関係、ロシアと中国それぞれのプロパガンダメディアについて解説している。

・スウェーデンに関して

スウェーデンとNATO加盟申請に関して、中露が発信した情報をそれぞれのプロパガンダメディアおよびロイターなどの一般メディアの報道の3種類から収集し、期間とキーワードで絞り込んだ後でLLMで記事を要約し、クラスターに分類し、LLMでクラスターを要約、分析を行った。

「Are Russian Narratives Amplified by PRC Media?」( https://stratcomcoe.org/publications/are-russian-narratives-amplified-by-prc-media-a-case-study-on-narratives-related-to-swedens-and-finlands-nato-applications/298 )
「Are Russian Narratives Amplified by PRC Media?」( https://stratcomcoe.org/publications/are-russian-narratives-amplified-by-prc-media-a-case-study-on-narratives-related-to-swedens-and-finlands-nato-applications/298 )

中露のプロパガンダメディアおよび一般メディアの3種類の情報源全てで事実に基づいたものが多数を占めた。中露では報道の多くがNATO関連だった。一般メディアではスポーツや経済などの報道もあり、中露よりもNATO関連の報道の割合は少なかった。
トルコ、ハンガリー、クロアチアの加盟反対は中露での報道が多かった。全体として中露は否定的なものをより多く報道していた。中国は、加盟申請に否定的な専門家の発言を引用する傾向があった。
スウェーデンのNATO加盟申請に関する報道は大きく5つのトピックス=「スウェーデンは中立放棄の圧力を受けている」、「ヨーロッパの安全保障への影響」、「NATO加盟のリスクともたらされるもの」、「スウェーデンのNATO加盟申請へのアメリカの関与」、「スウェーデン国内の核兵器と基地の留保」に分けられた。
これらのトピックスについて3つのメディアの発信内容を分析した結果、ニュアンスの違いはあるものの3つの間に大きな違いは認められなかった。とりあげる量では中露は明らかに一般メディアよりも多く、NATO加盟申請に焦点を当てていた

・フィンランドに関して

フィンランドの分析においてはメディアだけでなく、SNSでの発言も取り上げられている。

「Are Russian Narratives Amplified by PRC Media?」( https://stratcomcoe.org/publications/are-russian-narratives-amplified-by-prc-media-a-case-study-on-narratives-related-to-swedens-and-finlands-nato-applications/298 )


「Are Russian Narratives Amplified by PRC Media?」( https://stratcomcoe.org/publications/are-russian-narratives-amplified-by-prc-media-a-case-study-on-narratives-related-to-swedens-and-finlands-nato-applications/298 )

ロシアのナラティブは「アメリカにリードされたNATO拡大によってフィンランドの中立は法規される」だった。「中立の放棄」はメディア、SNSともに顕著に見られた傾向だった。

一方、中国は「アメリカの覇権拡大によって安全が脅かされる」というナラティブだった。中国はNATOを冷戦時代の遺物ととらえ、新しい世界共同体にはふさわしくないものと位置づけている。ナラティブはそれを反映したものとなっている。SNSにおいてもロシアの発言の中の「安全が脅かされる」ことに関するものを中心に拡散していた。

・結論

スウェーデンとフィンランドいずれのケースでも、中露それぞれの戦略的コミュニケーション目標に沿った活動をしており、重なる部分とそうでない部分があった。相手国との文脈、戦略的コミュニケーション目標によって、対応を変えているのがよくわかるケーススタディだった。
スウェーデンのケースでは重なる部分が多く、フィンランドのケースでは重なる部分はスウェーデンほど多くはなかった。特にロシアは加盟申請したフィンランドを批判していたが、中国はフィンランドを責めることはなかった。これは中国がフィンランドとの関係を重視しているためである。

●感想

レポートを読む前はSNSの解析によって、量的、質的に中露の連携が明らかにされていることを期待したが、そうではなかった
中露それぞれがそれぞれの戦略的コミュニケーション目標に沿った活動をしており、重なることもあればそうならないこともあるという結論はちょっと歯痒い。そもそもスウェーデンとフィンランドで分析方法が異なっていたのは違う担当者を割り当てたせいじゃないの?
ただ、中露連携のケーススタディはあまり見かけないので、こういう調査研究が増えることを期待したい。

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