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ロシアのラテンアメリカに対する情報戦 「In Latin America, Russia’s ambassadors and state media tailor anti-Ukraine content to the local context」 #DFRLab_U2nd1

これはDFRLabによるウクライナ侵攻2年目の総括のパート4です。
全体構成は
序章を参照。

●概要

DFRLabは、2023年1月1日から10月31日までのブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ベネズエラ、チリ、エクアドル、ボリビア、キューバ、ニカラグアのロシア大使館の広報活動を調査した。
ロシア大使は各国メディアのインタビューに積極的に応じ、各国のメディアは大使の主張を掲載することもあった。取り上げるトピックはそれぞれの国に最も関連性のあるものに焦点を当て、その国に合わせた内容になっていた。

ブラジルではウクライナ戦争が主要なトピックで、ロシア大使は176の発言でウクライナの非ナチ化について言及したが、他の問題についての発言は70以下だっや。

スペイン語圏9カ国のロシア外交官は何度もウクライナ戦争に言及した。中でも最もよく取り上げたのはチリとアルゼンチンだった。
チリのロシア外交官による発言38件のうち19件がウクライナ戦争に言及しており、ウクライナは侵略者であり、戦争犯罪の責任があるとした内容がほとんどだった。チリでは、ウクライナがもともと侵略者であり、ロシアは自国を防衛し、ナチズムの復活と戦っているというのが、ロシアのシナリオだった。
アルゼンチンでは、66の発言のうち17が、ウクライナをナチス国家、戦争を非ナチ化作戦としている。
それ以外の地域では、ロシアの外交官は、アメリカの帝国主義、制裁、多極化する世界、経済問題など、現地の問題と共鳴する他のトピックに焦点を当てることが多かった。

Summary of the most common narratives and topics present in the communications from Russian ambassadors in nine selected Spanish-speaking Latin America countries. The numbers in parentheses represent the number of mentions during the period of analysis, January 1 to October 31, 2023. (Source: Iria Puyosa/DFRLab)

数百万人の読者とソーシャルメディア上のフォロワーを持つ RT en EspañolとSputnik Mundoは、スペイン語圏で戦争に関するロシアの物語を広める上で重要な役割を果たしてきた。
DFRLabは2022年1月から2023年8月までにRT en Español と Sputnik Mundoに掲載されたコンテンツで紛争がどのように報道されたかを検証した。
2022年の最初の8ヶ月間にウクライナに関する記事を6,100 本以上掲載し、ニュースサイクル全体と連動して最も大きなピークとなった。この期間、RT en Español と Sputnik Mundo のウクライナに関するニュース記事は、進行中の紛争が中心で、侵攻を "特別軍事作戦 "と呼ぶことが多かった。フェイスブックでエンゲージメントが多かった記事を分析すると、ウクライナの侵略疑惑、NATOの拡張主義、ウクライナの非ナチ化など、ロシアの軍事行動を正当化するナラティブが支配的だった。多くの記事は、制裁、エネルギー・インフラ、武器の流れ、政治問題など他のトピックを取り上げていた。

Line graph showing the number of news articles on Ukraine published by RT en Español and Sputnik Mundo between January 1 and August 31, 2022. Highlighted topics near peaks indicate the subjects of articles from these outlets that garnered the most Facebook interactions. (Source: @estebanpdl)


2023年1月1日から2023年8月31日の間に、RT en EspañolとSputnik Mundoはウクライナ戦争に関連する記事を6,300本以上掲載し、2022年の前回期間より200本増加した。

Line graph showing the number of news articles on Ukraine published by RT en Español and Sputnik Mundo between January 1 and August 31, 2023. The graph features less dramatic spikes in coverage, indicating a more consistent approach to reporting on the conflict (and thus a more consistent approach in trying to shape the narratives in Latin America about the war). (Source: @estebanpdl)


ウクライナを通じてNATOがロシアに対して戦争を仕掛けているという代理戦争のナラティブを強化する偽情報を拡散していることがわかった。ウクライナへの武器供給の話題は、依然としてメディアの安定した焦点であった。また、ウクライナに米国が支援するバイオ研究所があるとされ、ウランや生物兵器の存在が疑われていることについても、さまざまな疑惑が取り上げられていた。さらに、反NATOのレトリックを執拗に宣伝し、NATOによるウクライナへの軍事支援を批判した。

スプートニク・ブラジルは、2023 年にブラジルで活動したロシアの主要メディアであり、その運用はこの1年で変化した。
スプートニク・ブラジルが分析対象期間中に最も頻繁に取り上げたトピックは、ロシアの軍事力を宣伝する記事だった。127本の記事がロシア軍の能力の高さを伝えており、31本の記事がウクライナ軍を非効率的で戦闘準備が整っていないとしていた。西側諸国から提供された軍備の質、それを運用するウクライナ軍の技術不足、戦略や軍事兵器におけるロシアの優位性を批判する記事もあった。
分析対象期間中にスプートニク・ブラジルが頻繁に流したもう1つのシナリオは、ウクライナが特にアメリカとEUからの財政的、軍事的支援を失う可能性であった。この話題に触れた記事は78本であり、よく読まれていた。
ブラジルの地元メディアは2023年を通してロシアの報道を増幅した。DFRLab は、2023年1月1日から2023 年10月30日の間に、ブラジルのニュースウェブサイトとSNSの両方で5,610の再投稿された記事を発見した。

RT en Español の元副部長Inna Afinogenovaは戦争反対を訴え、戦争の責任をウクライナ、アメリカ、EUになすりつけ、スペイン語圏諸国への経済的・社会的影響についても非難した。
Afinogenovaはストリーミング・チャンネル Canal RedやサイトDiario Redの番組のプレゼンターを務めている。中には再生回数が 200 万回に達するものもあった。
これらのメディアは、スペイン中央政府の元副大統領で左翼政党ポデモスの元党首であるパブロ・イグレシアスが2022年に始めたメディア・コングロマリットの一部である。イグレシアスは、クラウドファンディング・キャンペーンを通じて、スペインの右派メディアの力に代わるものとして、これらのメディアを宣伝してきた。これらのメディアは、スペインの左翼やキューバの共産主義政権を公然と支援してきたテレビ界の大物、ジャウマ・ルレスの関連企業と関係がある。

●DFRLabによるウクライナ侵攻2年目の総括

序章 https://note.com/ichi_twnovel/n/n276580f76ffc
パート1 ウクライナ国内に対するロシアの情報戦 「In Ukraine, Russia tries to discredit leaders and amplify internal divisions」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n689b35630899
パート2 ロシア国内監視状況 プリゴジン後のネット監視 「After Prigozhin, Russia clamps down online」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n0578afbf9637
パート3 ロシアのヨーロッパとアゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアに対する情報戦 「In Europe and the South Caucasus, the Kremlin leans on energy blackmail and scare tactics」
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5fc96fed79a
パート4 ロシアのラテンアメリカに対する情報戦 「In Latin America, Russia’s ambassadors and state media tailor anti-Ukraine content to the local context」https://note.com/ichi_twnovel/n/nad62ce2dfc8a
パート5 ロシアのアフリカに対する情報戦 「Two-pronged approach to Africa pays dividends for Russia」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n9e812531321a
パート6 ロシアの中東に対する情報戦 「Complicated history helps Russian narratives about Ukraine find a foothold in the Middle East」
https://note.com/ichi_twnovel/n/ne3f0507fa308
DFRLabウクライナ侵攻2年目の総括の感想
https://note.com/ichi_twnovel/n/n4605b841d507


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