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オルタナティブ・メディアに対するロシアの影響力 ドイツ語のケーススタディ


「Conduits of the Kremlin’s Informational Influence Abroad? How German- Language Alternative Media Outlets Are Connected to Russia’s Ruling Elites」(Arista Beseler、Florian Toepfl、https://doi.org/10.1177/19401612241230284)は、ドイツ語のオルタナティブ・メディアとロシアとの関わりについて研究した論文である。
*ドイツ語はオーストリアやスイスなどドイツ以外の国でも使われているため取り上げられたオルタナティブ・メディアにはオーストリアやスイスのものもある。


●概要

ロシアの情報戦についてはさまざまな研究が行われているが、実はメディアに関しての研究はRTやスプートニク、IRAなどロシア政府が直接関与する組織あるいはそのメディアの内容を転載しているメディアについてのほとんどであるが、実際にはロシアの影響圏はこれらの主体よりもはるかに多くのものを含んでいることが指摘されている。しかし、今のところ独立したオルタナティブ・メディアについての研究はほとんどない。
ドイツでは、右派の政治志向をもつオルタナティブ・メディアが盛んである。オルタナティブ・メディアは、コロナに関する偽情報や誤報のような問題のあるコンテンツの流布について多くの研究者の注目を集めている。コロナの規制が解除されると。オルタナティブ・メディアはウクライナ侵攻の話題を優先するようになり、親ロシア的な立場を取っているものが多い。
この研究ではまずドイツ語のオルタナティブ・メディアに関する包括的なリストを作成し、50のオルタナティブ・メディアを抽出した。その後、SNSなどで人気のある20に絞り、ロシアとのつながりを調査した。

「Conduits of the Kremlin’s Informational Influence Abroad? How German- Language Alternative Media Outlets Are Connected to Russia’s Ruling Elites」(Arista Beseler、Florian Toepfl、https://doi.org/10.1177/19401612241230284)


ロシアとのつながりを下記の3つのカテゴリーでチェックした。
・組織的むすびつき ロシア政府機関あるいはそことつながりのある組織と関係がある
・メディア的むすびつき コンテンツの共有、相互の取材など
・人的むすびつき ロシアのエリート個人とのつながり。

「Conduits of the Kremlin’s Informational Influence Abroad? How German- Language Alternative Media Outlets Are Connected to Russia’s Ruling Elites」(Arista Beseler、Florian Toepfl、https://doi.org/10.1177/19401612241230284)

ロシアとのつながりの大半はメディア的でありメディ ア提携やコンテンツ共有が行われている。
20のオルタナティブ・メディアのうち、10はロシア政府関連団体とのつながりがなく、なかにはロシアに強く反発しているオルタナティブ・メディアもあった。特に、Reitschuster、Junge Freiheit、Achse des Guten、Tichys Einblickは、ロシアのウクライナへ侵攻に対して支持していなかった。右派のPI NewsとJournalistenwatchは、親米の立場をとっていた。なお、Journalistenwatchはアメリカのシンクタンクから資金援助を受けていた。
残りの半数のオルタナティブ・メディアにはさまざまな形でロシアのエリートとつながりがあった。明示的で強力なものから明示されていないものまでさまざまあった。

今回の調査では、ドイツ語のオルタナティブ・メディアの多くはロシアとつながっていたことがわかった。この傾向はドイツ語だけのことではなく、西側諸国全体に広がっている可能性が高い。

今回の調査には3つの限界があった。これらをさらに調査することでより有用な結果を得られるだろう。

・ニッチなオルタナティブ・メディアまでは調査していない。
・つながりの強度や、ロシア側からのアプローチで始まったのか、メディア側からロシアに接近したのかは明らかにしていない。
・今回の調査ではコンテンツの内容分析は行っていない。

また、ロシアのオルタナティブ・メディアを使っての世論干渉アプローチと、主流メディアあるいはロシア政府系メディアのアプローチを比較することも有用だ。

●感想

確かに言われてみると、オルタナティブ・メディアの調査は見たことがないかもしれない。
コロナからウクライナ侵攻の親ロへの変化は他の反主流派の動きと一致している。他の誰も同意してくれないけど、明示的なつながりはなくても同調して同じ動きをする。明示的なつながりがないから、全貌をつかみにくし、動きを止めることもできない。

プロキシというくくりではアメリカの国務省GECなどが調査を公開している。あれも一応Newsと称している。このへんの区別は難しそう。

アメリカ国務省レポートを紹介した記事 https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-5_2.php

ウクライナ侵攻後のプロキシの動き
 ウクライナ情勢を受けてロシアのプロキシも増強
 
ウクライナ ロシアのプロキシの動き

日本でもオルタナティブ・メディアはいくつもあり、これらの資金源は大いに興味があるところだ。でも、政治知新、テラスプレスなど現政権とつながり(今回の論文の「つながり」の定義によれば)のあるオルタナティブ・メディアもあったりするので、調査はいろいろ難しそう。アメリカの調査機関みたいに自国の現政権がやっていることは無視して、中露だけに注目すればいいかな。

そういえばオルタナティブ・メディアのEPOCって大紀元?

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