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失敗しても成功? ヨーロッパの亀裂につけ込む中露

EU議会選挙を控えてヨーロッパ全域で中露の工作への警戒が強まっている。多くの国は深刻な国内問題を抱えており、その問題を煽っているのが中露という構図になっている。そのため各国が戦っているのは中露と国内のグループの両方だ。そして、多くの国では対中露を優先し、かならずしも国内グループには対処しきれていない。実態としては国内問題の方が大きく、中露はそれを悪化させている。実態と対策の優先度のギャップは国内問題の悪化を進める可能性が高い。


●概要

・増加する中露からの総合的な干渉の暴露

昨年からオンラインとオフラインの中露の影響工作が暴露されることが続いている。ロシアの活動が活発になっていることに加えて、EUの対ロシア活動が功を奏しているという面もある。
2024年5月10日のBloomberg「Russian Sabotage, Spying and Intimidation Is Spreading in Europe」https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-05-09/russia-backed-agents-believed-to-be-behind-attacks-in-uk-germany-poland )と、2024年5月7日のAlliance for Securing Democracy (ASD)の「A Spate of Scandals: Europe’s Response to Foreign Interference」https://securingdemocracy.gmfus.org/a-spate-of-scandals-europes-response-to-foreign-interference/ )は、これまでに暴露されたロシアのGRUやFSBによるヨーロッパ全域での作戦を紹介している。
ロンドンにあるウクライナ関連の倉庫への放火を行ったイギリス人が逮捕され、関連したロシアの外交官が追放された。ポーランドではロシアのゼレンスキー暗殺計画に協力した人物が逮捕された。エストニアでは影響工作に関与した12人が昨年逮捕され、リトアニアの諜報機関はロシアが工作活動のためのバルト三国の住民を雇おうととしていると警告を発した。ルーマニアの最高防衛評議会はウクライナ難民の中にロシアのスパイが紛れ込む可能性や、ウクライナへの軍事輸送が妨害される可能性を警告している。ルーマニアはウクライナと最も長い国境を接するEU加盟国であり、主要機関や政治家に対するサイバー攻撃が増加している。これらはGRUの関与が疑われている。
FSBが雇っていたセルビア人がロシアのEUへの工作を暴露したり、ベルギーの極右政党「Vlaams Belang」と中国との関係の疑惑、ラトビアのEU議員がロシアの諜報員だった疑惑、チェコのネットワーク( https://note.com/ichi_twnovel/n/n674547fe89b2 )、ドイツへの中国の影響工作( https://note.com/ichi_twnovel/n/n4428315cd4c1 )などの事件もあった。

・実際には効果のなかった暴露

ASDは中露が工作を強化したというより、ヨーロッパが警戒と取り締まりを強めた結果と指摘している。しかし、こうした成果の反面、充分な対応ができていないという。ベルギーにはスパイ行為や外国からの干渉は犯罪行為とされていない。摘発はするものの、その後が続かないのだ。
報道された作戦の多くは、数カ月、数年、場合によっては数十年前から行われており、作戦の目的は、おおむねすでに達成されていた。また、暴露された作戦は全体のごく一部にすぎない。ヨーロッパの有権者の多くはこうした暴露にもかかわらず、問題ある政治家や政党への支持をやめるわけではない。

●感想

効果を伴わない暴露は政治とメディアへの不信を増大させる。
多くのヨーロッパの国々は本来の民主主義が正しく機能することを目指している。そのために中露の工作を止めようとしているわけだが、記事にあるように実際には暴露と逮捕はできても効果はあがっていない。効果を伴わない暴露は政治とメディアへの不信を増大させる。暴露や逮捕が不当だった可能性に疑問を持たせ、反論の余地を生むし、効果のない対策を優先するという判断と、それを大げさに報道するメディアに懐疑的になる。

ほとんどの暴露と逮捕は各国国内の個人やグループが対象になっている。つまりは国内問題であり、優先すべきはそちらである。誤・偽情報のフレームワークにあてはめると3次対策に焦点を当てた対策になっており、効果的な基礎的対策と1次対策がない以上、より事態を悪化させる可能性が高い。

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