META(旧フェイスブック)社の最新影響工作レポート2022年4月7日

昨日、METAから定例の影響工作レポート「Adversarial Threat Report」(https://about.fb.com/news/2022/04/metas-adversarial-threat-report-q1-2022/)が公開された。毎度のことながら充実している。

主たるポイントは下記。CIBはCoordinated Inauthentic Behaviorの略で、戦略的な目的のために、公共の議論を操作したり腐敗させたりする協調的な行動を指す。問題のあるコンテンツと問題のある行動を区別し、行動にフォーカスしている。


●3つのサイバースパイ活動の検知と排除

イランのハッカーグループUNC788、エネルギー、通信、IT、海運をターゲットとしたイランの未知のグループ、スパイ活動とCIBを組み合わせたアゼルバイジャンからのものがあった。使われていた手法はかなり共通しており、ソーシャル・エンジニアリング、フィッシング、マルウェア、外部の偽サイト(あるいは乗っ取ったサイト)への誘導などである。アゼルバイジャンのケースでは、ツイッター、LinkedIn、YouTube、VKなど他のSNSでも活動していた。この動きはGhostwriterに類似している。
注 アゼルバイジャンについては以前書いたことがあった。「ロシア、アゼルバイジャン、アルメニアが入り乱れるネット世論操作激戦地帯」(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/10/post-13.php)

●ウクライナに関連する不正な動き

ウクライナをターゲットとして、政府系アクター、既知の脅威アクター、政治的連携アクター、金銭目当てのアクターの活動を検知し、排除した。

・ロシアとベラルーシの政府系アクター

スパイ活動と影響工作を行っていた。ロシアの侵攻開始からポーランド語と英語で多数の投稿を開始している。3月14日にポーランドに軸足を移し、ポーランド政府への抗議を呼びかけ始めた。

・既知の脅威アクター

GhostwriterとIRAの活動が検知された。Ghostwriterは電子メールを使って、SNSアカウントを乗っ取る。今回、数十人のウクライナ軍関係者のフェイスブックアカウントへのハッキングを試み、乗っ取ったいくつかのアカウントで軍が降伏するよう呼びかけているビデオを投稿したものの、検知され、削除された。
IRAが過去に排除されたアカウントを復活させようとしたのを発見した。一昨年、昨年は新しいアカウントを作ろうとして失敗している。そのためIRAはフェイスブック外で西側諸国の市民の権利に焦点を当てたNGOを装ったウェブサイトを作成し、活動している。

・政治的連携アクター

ルハンスク地域から過去に排除されたアカウントを復活させようとする試みを検知した。コーカサスとウクライナにおける親ロシア派の論評を促進する2つのウェブサイトと、フェイスブック、Telegram、VK、OK上の少数のアカウントが中心となっており、3月上旬には、ウクライナに焦点を当てたサイトが乗っ取られ、ロシア人犠牲者の写真を見せるTelegramチャンネルに利用者を誘導していた。
また、大量報告(特定のアカウントに対しての規約違反などの報告を、一斉に大量のアカウントから行う行為)を行ったロシアのアカウントを排除した。

・金銭目当てのアクター

ネット上で話題にのって金を稼ぐ金銭目当てのアクターが、ウクライナを取り上げ出した。国家関与のアクターと誤認しやすいが、スパムやクリック稼ぎなど金銭目的である。他人の動画を使い回したり、広告ページに誘導したり、物品販売に誘導するなどしていた。また、長期間放置されていたアカウントが突然ロシアから運用されるようになったケースもあった。

●4つのCIBの排除

ブラジル、コスタリカとエルサルバドル、ウクライナとロシア、ロシアでの4つのCIBを検知し、排除している。時節柄、後の2つについて少しくわしくご紹介する。

・ウクライナとロシア

27のフェイスブックアカウント、2つのページ、3つのグループ、4つのインスタグラムアカウントからなる比較的小規模なネットワークが、ウクライナ市民をターゲットにしていた。フェイスブック内だけでなく、ツイッター、YouTube、Telegram、OK、VKなどのSNSと、インターネット上や自身のウェブサイトでも活動していた。使用されていた偽アカウントは、キーウを拠点とし、ニュース編集者、元航空技師などを装っていました。偽の独立系ニュースサイトをいくつか運営し、西側がウクライナを裏切り、ウクライナは破綻国家であるという主張を発表していた。これらは、NewsFrontとSouthFrontにつながっていることがわかった。(注 このふたつはロシアのプロキシですね https://note.com/ichi_twnovel/n/n8eda606cd4de、 https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-5_2.php

・ロシア

ロシアのサンクトペテルブルク(IRAの拠点)の3つのフェイスブックアカウントからなる小規模なネットワークが、協調的な不審な行動に対するポリシーに違反したとして、削除されました。主にナイジェリア、カメルーン、ガンビア、ジンバブエ、コンゴをターゲットにしていた。

・ロシアの大量報告を排除

約200のアカウントが数千の偽の報告を行って、主としてウクライナとロシアのアカウントをバンさせようとしていた。他にイスラエル、米国、ポーランドのアカウントもターゲットになっていた。

●フィリピンの協調的な規約違反活動を排除


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『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。


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Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計は他ではあまりないかも。Metaは四半期毎なので数も多いです。 どちらも元は無償公開されているのでそちらを読んだ方がよいのは確かです。

Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計、民主主義指数、V-Demなど定期的な資料の紹介記事。ご自分で記事を遡れば無料で…

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