『総員玉砕せよ! 新装完全版』(水木しげる)を読んで平坦な戦場を思う

水木しげるを妖怪マンガで知っている人は多いと思うが、戦記ものや寓話の短編の名手でもあった。『総員玉砕せよ! 新装完全版』(講談社、2022年7月15日、水木しげる)は戦記もののひとつであり、本人の体験がもとになっている。
そのためリアルでどうしようもなくふつうの人間ばかりが登場する。人工的な感動やご立派な人物は登場しない。

徴兵され、戦地に送り込まれ、生きて帰れると思うなと言われ、玉砕を命令される。わけもなく殴られ、日常的に人が死ぬ。生きてどうにかなる希望はないが、かといって死ぬのも嫌だというあいまいな毎日。

考えようによっては人は必ず死ぬし、ほとんどの人は自殺しないので、理不尽に死を強制されるのは当たり前のことと言える。それが人によってもたらされるか、他の原因によってもたらされるの違いはあるが、間接的なものも含めると人によってもたらされる死は現代の日本でも多いかもしれない。

理不尽な死につきあわされる日常と、得られることのないつかの間の永遠。どこまでも続く平坦な戦場に置き去りにされた無数の戦うすべを持たない兵士たち。
今回、Kindleでセール中だったので即買いして再読したが、救いようのない絶望的な状況にもかかわらず、ユーモアもあって、読みやすかった。やっぱりおもしろい。
「考えさせられた」というのは便利な言葉だけど、おそらくなにも考えてない時の常套句でもある。
おもしろいからみんなにも読んでほしいと単純に思った




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