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中国のプロパガンダシステムの全体像をインタラクティブなモデルに整理した画期的な「Truth and reality with Chinese characteristics」

Australian Strategic Policy Institute(ASPI)は2024年5月2日に中国のプロパガンダシステムの全体像を整理したレポート「Truth and reality with Chinese characteristics」https://www.aspi.org.au/report/truth-and-reality-chinese-characteristics )を公開した。
網羅的で貴重な調査研究であり、莫大な情報はレポートに収まりきっていない。さらにすごいのは、それを3Dのインタラクティブモデルにしたことだ。クリックひとつでどの組織がどこに関係しているかが一発でわかる。無償で利用できるのもありがたい。とにかく一見の価値はある


●概要

中国共産党は情報戦(information campaigns)のターゲットを分析するため、民間企業などさまざまな情報源からデータを収集しようとしている。情報戦とは、IT関連の機能(ツール、技術、活動)を他の作戦と組み合わせ、情報とそれに基づく意志決定をコントロールし、混乱させ、改ざんし、操作し、意図的に大規模に広める、統合されたもので、ターゲットを絞った組織的な計画である。
また、中国共産党は、人が現実を認識し、情報と関わる方法を規定するAIやメタバースなどの技術にも投資している。その目的は、世界の情報エコシステムに対する支配とまではいかなくても、より大きな影響力を獲得しようとしている。
そのプロセスの要因、ツール、結果を理解するには、このレポートとWebサイト( https://chinainfoblocks.aspi.org.au )を合わせて確認する必要がある。
具体的には、この研究では中国共産党の宣伝システムを包括的にマッピングし、中央宣伝部、国有または国が管理する宣伝組織とデータ収集活動、そして現在多くが世界的に活動している中国企業への技術投資との間のつながりを可視化している。

中国は、データをプロパガンダの影響力の中心であるとみなしている。他国とは異なり、中国の2021年データセキュリティ法はデータ交換の国家戦略における重要度を示している。たとえば、中国のPeople’s Public Opinion Cloudは、182か国、42言語にわたる約50万の情報源を統合し、中国政府と中国企業の国際的なコミュニケーションをサポートしている。このプラットフォームには政府向けと企業向けのアプリがある。公安は情報環境と世論を監視するために利用している。

「Truth and reality with Chinese characteristics」( https://www.aspi.org.au/report/truth-and-reality-chinese-characteristics )

中国共産党は、電子商取引、仮想現実、ゲームなどの新興テクノロジーを、真実と現実についての中国共産党向けのナラティブを広める手段とみている。

中国共産党の国家重点文化輸出企業とプロジェクトのリスト(2021~22年版と2022~2023年版の両方)には、国家支援を受けている数十のモバイルゲーム会社とモバイルゲームの名前が記載されている。それらには中国政府からの資金的支援が与えられ、ビジネスを成功させ、中国の文化的力を高めるという役割を果たしている。
電子商取引では、Temu(2023年アメリカでもっともダウンロードされたアプリ)などの企業が収集しているデータは、中国のプロパガンダシステムに利用される可能性が高い。
ゲームの場合、日本でも人気な原神などのゲームは、その開発者がプロパガンダシステムに関連した中国政府の支援を受けているため、収集する利用者のデータが中国当局に渡っている可能性がある。

中国共産党はメディア融合の国家戦略を改めて重視し、コンテンツ、チャネル、プラットフォーム、運用、管理など、さまざまな側面にわたってメディアを統合し、プロパガンダ活動のリアルタイム性を高めている。

「Truth and reality with Chinese characteristics」( https://www.aspi.org.au/report/truth-and-reality-chinese-characteristics )

●感想

日本でも人気の「原神(Genshin Impact)」を検索したら、ばっちり出て来た。確かにこれは便利だ。

「Truth and reality with Chinese characteristics」( https://www.aspi.org.au/report/truth-and-reality-chinese-characteristics )

ただ、分子構造みたいな3Dでなくてただの表の方が見やすい気がしなくもないけど、関係を表示するためには2次元の表では限界があったのだろう。
新華社(新华网、Xinhua)やCGTNを検索しても見つからなかったけど、使い方間違えたかな?

このレポートに書かれている情報を元に相手の行動をコントロールするというのは、ロシアの反射統制理論を彷彿させる、というか基本的な考え方はそのものと言っていい。ロシアに比べるとデータに基づく分析やAIを重視している点が違いそうだ。

ここで網羅された全ての要素を考えるとそのデータ量とコストに圧倒されるし、なによりも統合的である点が脅威だ。中国のことなので想定通りにうまく連携していないとは思うが、ある程度でもこれが実装され、動いているのがすごい。民主主義国はここまで連携できない。ハイブリッド戦や全領域での戦いではやはり民主主義国は圧倒的に不利なことがまざまざとわかる。
さらに言えば縦割り行政の日本は特に不利だ。

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