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【レビュー】『歌舞伎座の怪紳士』

ほとんど本を読んでこなかった人間がポツポツ読書を始めました。
そんな人間によるレビューです。カナリ個人的で的外れな内容もあるかと思いますので、その点ははじめにお断りしておきたいと思います…。
(読書記録も兼ねている為、ネタバレを含みます。お気をつけ下さい)


『歌舞伎座の怪紳士』
近藤 史恵 著 徳間書店 2022/3/15


●この本について

だいぶ前、書店をぶらぶらしてタイトルが気になったので買った本。
病院の診察待ち専用の本としてカバンに入れていたので、よみおわるまでになかなかかかってしまった。

●あらすじ

訳あって仕事を退職した主人公の久澄は家で家事手伝いをしていた。
そんな久澄に祖母から観劇代行のアルバイトの話を持ちかけられる。
初めての観劇代行のアルバイトは歌舞伎だった。そこで久澄は不審な行動を目にし、歌舞伎に集中できないでいると、隣の席の老紳士に助けられ無事に解決する。
その次の観劇でもまたその老紳士と会い、そのまた次のオペラの観劇でも老紳士と出会う。

これは偶然か?

なんにせよ観劇を重ねるたびに歌舞伎に魅了されていく久澄。そこで出会い、幾度となく会った怪紳士の言葉に助けられながら、不安を覚えていた日頃の生活にも徐々に変化が現れ始める。

そして最後に明かされる怪紳士の正体は…。

●レビュー

★★★★★(星5つ)

久々に本で小説を読んだ。
時間はかかったが、自分のペースでページをめくったり戻ったりできるという本の良さも改めて感じた。

内容や展開としては、星4つと悩んだ。
それは歌舞伎の話が全くと言って良いほど頭に入ってこなかったから…。しかしここで声を大にして言っておきたいのは、作者は何も悪くないということ!
申し訳ないことに、私は歴史が大の苦手なのです…。日本史も世界史も赤点ギリギリだった私は、源氏や平家と言われただけで拒否反応が…笑
だから理解できなかっただけ。
でも、久澄を通してあらすじを聞くことでこの小説を読み進めるために必要な要点や流れくらいは理解したので、小説は楽しめた。
ただ、久澄はその方面に強いようなので、タイトルを聞くだけで内容が思い出せるようで、初めてとはいえ楽しめたんだろうし、のめりこめたんだと思う。
しかし、歴史が苦手な私でも、最後には歌舞伎って面白いのかも…と興味を抱ける内容となっていて、歌舞伎の魅力を伝えるのにも成功されているのだと思う。

主人公達については、今まで私が読んできたものとは大きく違うものだった。
一言でいうと、誰もが『人間』だった。

…は??
と言われそうだが笑、人間くさいというか人間らしいというか…完璧ではない人間達の集まりで、誰もが登場人物の誰かとは共感できる部分があるのではないかと思うほどだった。
私は主人公の久澄に共感する部分が多かった。
転職中の今の状況と心境、それが目を逸らしたくなるくらいに似ていた。
不満ではなく不安。
この言い回しにもとてもしっくりきた。
長らくこの本を持っていたのに今になってようやく読み切ったというこの事実には本に導かれたと思わざるを得ない。
運命や必然を感じずにはいられないほど今の私には刺さったので、星5つとさせてもらった。

ハッピーエンドなのかと言われると、即答できない部分もあるが、前向きな終わり方はしていた。
先に希望を持てるというと少し違う気もする…。
読み手がこの本に何かをヒントをもらい自分で考える為の一冊だと感じた。

所々で出てくる怪紳士や久澄の言葉は、言葉自体は難しい言葉ではないが、複雑で言い表しにくい心の奥に染み込むような不思議な感覚だった。
この部分でも、今、この本を読み切ったことには意味があったと思わざるを得ない状況に驚きを隠せない。

本の世界観を楽しみ、人の人生を追体験して『現実逃避』するための本ではなく、苦しくて目を背けたくなるような『現実と向き合う』ために久澄の人生を覗く本だったと感じた。

本当に心が病みきっている時は読めないかもしれない。
少し上向きになった時に読める本かもしれない。
しかし、最近の『推し』の威力も実感できる、多角的な見方のできる作品だったように思う。
自分の先の人生を想像することは、時には辛い場合もある。
しかし、それを前向きに捉えることならヒントをもらえる、手助けしてもらえる作品だったと思う。

●真似したい点

・主人公・登場人物の人間味あふれる姿
・久澄と堀口のセリフ
・気付きを与える内容
・難しい歌舞伎をここまで噛み砕いてかかれたところ
・いろいろな場面においてハッキリとは書ききらない点
→結末はしっかり分かる程度に書かれているが、キッパリと言い切らないことで、想像力が掻き立てられたし、対象の人物に対しての感情も深くなったように思う

●う〜んな点

・久澄の体験・経験が辛い…

●感想・気付き

今回はヒューマンドラマなのにミステリーな部分も若干あり、歌舞伎を教えてもらう話のようでもあり、不思議な感じだった。
私の読書経験は狭く浅いことも要因ではあるとは思うけれど…今までにこういう話は読んだことがなかった。
とにかく心に訴えかけられて、読み終わって少し疲れた感もあるが、前向きにこれからの先を考えるヒントももらった気がする。
私はこの本をオーディオブックではなく本で読んで良かったと感じた。
しかし、内容を知った上で、もう一度オーディオブックでも読みたいと思える一冊だった。

2回目は歌舞伎の内容に注目して、文字で読むのではなく、主人公達の会話に混じって話を聞く形で物語を読み進めたいと思う。

人間の嫌な部分も素直に描かれており、素敵な部分もまた描かれていた。
確実に私の人生に必要な一冊となった。

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