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【二次創作小説】 あの子との距離⑥ 〜学祭準備(後編)

こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。

原作ストーリーを神城目線で書いております。
ネタバレ&妄想たっぷりですのでご注意ください。

過去のお話はこちら。
①研修旅行→
②英フェス→
③牽制→
④学祭準備(前編)→
⑤学祭準備(中編)→



ぎゃははは!
どこかで大きな笑い声がして、はっと我に返った。

ゴミ袋を持っていたことを思い出す。
捨ててこなくちゃ。

校舎裏のゴミ捨て場の帰り、中庭に昴ちゃんがいた。
何かを拾ってる。

…明るく声をかける気分じゃない。
俺は黙ってしゃがんで、拾うのを手伝った。

昴ちゃんは俺に気づいて「ありがと!」と明るく言う。
顔が真っ青だ。

「大丈夫?なんか顔色悪いよ?」

「色白だから」

昴ちゃんは体調が悪い時にはことさら明るくふるまう。
俺には弱みを見せたくないんだろう。

「今日はさえちゃんいないの?」
「仲いいよねーつきあっちゃえばいいのに」

あかるい昴ちゃんの声が突き刺さる。
…タイムリーすぎてえぐられるやつ。

「……岩田、好きな奴いるから」

「それって光輝じゃなくて?」

「俺じゃないよ」
そう、俺じゃない。

「正直、光輝好きみたいに見えたよ?」

「岩田は誰にでもそうだから」

あの笑顔は俺だけに向けられたものじゃない。
岩田は鮎川にも、優心にだって微笑みかける。
俺だけじゃないんだ。

「誰なの?」
昴ちゃんは結構つっこんでくる。

「そこまでは聞けねーよ」

聞いたら…その瞬間、俺の10年間が終わっちゃうんだよ。

すると、昴ちゃんは突然立ち上がって叫んだ。

「光輝さあ!小さい時のほうがかっこよかったんじゃない!?」

「…なに?なんで怒んの?」

昴ちゃんが本気で怒るのは珍しい。
いつも俺を小馬鹿にしてるから。

『3-A神城、3-A神城、美術室まで大至急』
校内アナウンスが流れる。

「あーもう!! 呼ばれてるし!!」

昴ちゃんがくるっと踵を返して歩き出そうとした、その時。

ぐらりと昴ちゃんの体が揺れ、そのまま倒れ込んだ。

「昴ちゃん!!」
俺は慌てて昴ちゃんを抱っこして保健室へ走った。
いつも憎らしい昴ちゃんは、驚くほど小さくて軽かった。


「ありがとう、もう平気!!」

保健室に連れて行った昴ちゃんが大声で言う。
わかりやすいカラ元気に、先生も俺も呆れてしまった。

「貧血だわ、やせすぎよ。ちゃんと食べてる?」

「食べてるよ!!太んないんだよ。食べないし偏食なのはこっち!」

「なんで俺にふるんだよ、食うし今は」

そんな話をしていたら、外で残ってる生徒を叱る声が聞こえてきた。
昴ちゃんと覗いてみたら、なんと岩田が差し入れを持って様子を見に来てくれていた。

「先輩が具合悪そうに見えたから、血糖値下がったのかもしれないから、何か食べたら元気になるかもって…」

岩田は昴ちゃんにまでめちゃくちゃ優しい。
ついこないだ、昴ちゃんに変にからかわれたりしたのに。

ああ。
やっぱり、やっぱり好きだ。
鮎川のことが好きなんだとしても、俺は岩田が好きだ。

昴ちゃんは「ありがとー、今食べるわ!!」と言うと、その場でムシャムシャと差し入れのプロテインバーを食べ始めたのでぎょっとした。

昴ちゃん、普段そんなに一気食いしないじゃん。
やっぱり無理して元気に見せてる。

まぁ、岩田を叱ったうるさい先生へのアピールも込みみたいだけど。
昴ちゃんはやたらと先生ウケがいい。
岩田をかばい、そのまま見事に追い返してしまった。

昴ちゃんはカラ元気のまま、岩田の手を握って言う。
「元気出たよ!ありがとう」

いやいやいや。
俺は思わず口をはさむ。
「まだ顔色悪いよ?休んだら?」

「休めないよ、私の代わりいないし」
「誰かに手伝ってもらうとか」
「だめだめ、みんな忙しいから」

もう仕方ないな。
「俺が手伝うよ」

「……ダメでしょ?1年が3年手伝ってたら何か言われるよ?」

「いいよ何言われても、従弟だって言うし」
「でも2日目の12時からは岩田と受付やるからダメ!」

1年はクラス展示だから、学祭当日は受付以外やることない。
手伝うにはちょうどいい。


昴ちゃんは車で迎えが来るということで、帰りは岩田とふたりで帰った。

もう外は暗くなっている。
川沿いをチャリで並んで走っていたら、1年前を思い出した。

「中学の頃一緒に帰ったの覚えてる?自転車で。あれも9月だっけ」
「覚えてる…」

9月だっけ、とわざと濁してしまったけど、俺はよく覚えてる。
だって岩田の志望校を聞き出して進路を決めた日だ。

その前から岩田に追いつくために毎日コツコツやってたけど、あの日から北高を目指して猛勉強を始めた。

担任には直前まで「頼むから考え直せ」と言われたけど、でも今、俺は岩田と同じクラスで、こうやって一緒に帰ってる。

1年前の俺を改めて褒めてやりたい。
あの時、よくぞ一緒に帰る口実を作った。

ついでに。あわよくば。
岩田があの時の会話を思い出して、俺が岩田の進路に合わせたこと、気づいてくれないかな。
そんなこともう忘れてるかな。

「神城、家こっちじゃな…」
「送るよ、暗いじゃん」

岩田は相変わらず遠慮しいだ。
俺は断られる前に急いで笑顔を作った。

「送らして?」

岩田にはただの友達との雑談なのかもしれないけど、この時間は頑張った昔の俺へのご褒美なんだ。


家に帰るとカレーのいい匂いがしていた。
台所の母さんに声をかける。

「ただいまー」
「あら光輝、遅かったね」
「ん、今日昴ちゃんが貧血で倒れて」
「え!?大丈夫なの?」

母さんが料理の手を止めてこちらへ顔を向けた。
昴ちゃんは昔からよくうちに遊びに来てたので、母さんも娘同然に可愛がってる。

「少し横になったら元気な声は出してたけど顔色悪くて。車で迎え頼んでた」
「あらー電話しとこうかしら」
「そんで俺、学祭で昴ちゃんの手伝いすることになった」
「そうね、体調悪いならそれがいいわ。あんた昔から可愛がってもらってるし」
「は、どこが?」

母さんはおたまを持ってにんまりする。
「実質お姉ちゃんでしょ」
「いや違うでしょ」
ひたすらイジられ、いじめられてるだけだった気がする。

「いやでもさ、目の前で倒れたから保健室まで運んだんだけど、昴ちゃんめっちゃ軽くてびびった」
「小さくて細いもんねぇ」
「怖いイメージしかなかったけど、体調悪い時くらいはサポートしないとなって」
「あらー、いい心がけね」

母さんの「すぐごはんできるわよー」の声を背中に受けながら、俺は先にシャワーを浴びることにした。

髪を洗いながら考える。
岩田が好きなのは、やっぱり鮎川なんだろうか。
もし岩田が鮎川と付き合うことになったら…。

あ、だめだ。
ちらっと考えただけで1トンの岩を乗せられたみたいにズドーンとくる。

いやでも、恥ずかしがりの岩田が告白するって想像つかないな。

どちらかと言うと鮎川の方が危険だ。
チャリ乗れないのにチャリで助けに行くって何だよ。
いつも無表情なのに岩田の前では笑ったりして、どこの王子様だよ。

あーでも、鮎川と話す岩田の笑顔が可愛すぎて何も考えられなくなってたけど、俺と帰る時の岩田だって可愛かったよね?

また送るの断られそうだったけど、本当に断られはしなかったよね?
まだ望みはある?

後夜祭は告白イベントらしいけど、鮎川はきっと知らないと思う。
だから俺は、2日目の受付の時にデートに誘う。
鮎川が岩田に告白する前に、岩田に俺のこと好きになってもらう。

デートの行き先。
…前から悩んでるけど決めきれない。
どこがいいかな。

「こら光輝!いつまで入ってんの、カレー冷めるよ!」

母さんの怒鳴り声が聞こえてきて、俺は慌ててシャワーを止めた。

明日はいよいよ学祭だ。

(続く)


⑤から4ヶ月も間が空いてしまいました。
申し訳ありません。

本編が目まぐるしく面白く、まさかの神城目線登場(!)とか、神城のこじらせ具合が私の想定とズレていそうだとか、その辺をどう処理しようかな…と悩んでおりました。

ですが、「悩まずに自分が妄想してた神城をそのまま書く」という結論に落ち着きました。

あの頃の私が考えていた神城の思考を、少しずつ肉付けしながら、ただ書き出していきます。

告白シーンまでは繋ぐつもりですので、よろしければどうぞお付き合いください。

ちー

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