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【二次創作小説】オレが泣かせた女の子

こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
神城の親友、渡辺目線のお話です。


今日はオレの親友の話をしようと思う。
思い返せば光輝は、いつもその子を見ていた。

***

「渡辺、帰ろーぜ!」
「おう、ちょっと待って」

同じサッカー部の光輝に声をかけられて帰り支度を急ぐ。

泥だらけのスパイクをシューズバッグに入れ、忘れ物がないか部室のロッカーを見返す。

「よし、お待たせ」

「お先に失礼します!」
「失礼します!」

まだ1年なので、先輩たちに挨拶をしてから部室を出る。
基本フランクで優しい先輩ばかりだが、上下関係はキープしておいた方が何かとラクだ。

「今日もハードだったなー!」
「シャトルラン鬼畜」

話しながら一緒に自転車置き場へと向かう。
そろそろ初夏だ。
部活のあとは汗だくになる。

「腹へったー!セコマ寄らね?」
「いーよ」
「やった!」

キラキラの笑顔で光輝が笑う。
後ろにいる女子が、光輝の笑顔に反応して振り返っているのが目に入る。

本人は気づかず、オレを見てにこにこしている。
いや、気づいてて無視してるのかもしれない。
相変わらずモテてんなぁ。

***

昔の光輝はわかりやすい奴だった。
喜怒哀楽がすぐ顔に出てた。

光輝とは小1で同じクラスになって、少年サッカー団でも一緒になった。

ちょっと捻くれてるところもあるオレと、素直で褒め上手の光輝は気が合った。

光輝はちょっとしたことでも「すげー!」と感心してくれたので一緒にいて楽しかった。

光輝はチビで、勉強も運動も得意とは言えず、オレはいつも鼻高々だったのだ。

高学年になったら光輝もサッカーはずいぶん上達したけど。

そのあとは中学高校と同じで、ふたりともサッカー部。腐れ縁が続いている。

  ***

天真爛漫な光輝がちょっとした裏表を身につけたのは中学の頃だった。

オレは小6から身長がぐんと伸びはじめたが、光輝は中1からだった。

背が高くなった光輝は急に女子にモテるようになった。

「オレのほうがまだ数センチ大きいのに?」とか、「コイツ、まだサンタ信じてるんだけど!?」とか、納得いかなくてモヤモヤしたけど、どうやら光輝の顔は女子に刺さるらしいのだ。

知らない女子にキャーキャー言われると表情を殺すようになったのはこの頃からだ。

イケメンだと噂になったり、知らない女子に隠し撮りされると、「怖いんだけど」と嫌がった。
 
正直、オレはめちゃくちゃ羨ましかったけどね。

***

「光輝、部活行こうぜ」
「おう」

1−Aの教室に寄って光輝に声をかける。
高校では別のクラスだ。

扉付近の席に座っている女子と目が合った。
ぺこりと頭を下げられて、こちらも下げ返す。
岩田朔英だ。

岩田も小中高と同じ学校だ。

「岩田、ばいばい!」
「神城、ばいばい」

光輝と岩田が挨拶している。
そっか、また話すようになったんだよな。

***

小学生の頃の岩田は、勉強も運動もできて、低学年までは女子なのにクラスでいちばん背が高かった。
オレは光輝には勝てても、岩田にはまったく勝てなかった。

岩田は口ベタであまりしゃべらず、普段は地味なタイプなのに、困ってる子を見ると躊躇わずに手助けしていて、まるでヒーローみたいだった。

小学校では、とくに光輝は岩田と仲が良かった。
なにせ6年間ずっと隣の席だったのだ。

放課後はオレと遊ぶことが多いのに、教室では光輝は岩田にばかり話しかけていた。
それは正直、ちょっと面白くなかった。

なんだよ光輝。
親友はオレだろ?

中学では、オレも光輝も岩田とは別のクラスになった。

小学校ではみんな「さえ」と呼んでたけど、中学では男女の呼び捨てはカップルくらいだったので、オレも光輝も「岩田」と呼ぶようになった。

もともと口数が少ない岩田とは、それだけで嘘みたいに距離ができた。
この時はじめて、「岩田は女子なんだな」と実感したような気がする。

***

背が伸びてからの光輝はとにかくモテた。
中1のバレンタインのことは、今でも覚えている。

光輝は部活前、ゴール裏に呼び出された。
オレは近くで練習するフリをして様子を見ていた。

チョコをくれようとした女子は学年でも可愛いと評判の子。
でも光輝は「もらう理由がないから要らない」と冷たく言った。

女子はその場で泣き出したようだ。

「あの…どうしても?」
「いやだからもらう理由がないし…泣かれても困るんだけど」

ブレない塩対応。
おまえは何様だ。

「ううう…」
女子は華奢な体を折って大粒の涙をポロポロこぼしている。

子供の頃に、女子同士の喧嘩で泣き出す子は見たことがある。
でも、涙や嗚咽をこらえてるのに勝手に出てきてしまうような、こんなに苦しそうな泣き方をオレは知らない。

思わず駆け寄って「あのさ、こいつサッカーバカだからさ。ほんとごめん!」と言いながら光輝を回収した。

「バカおまえ、あれ本命だろ。もらっとけよ!」
「やだよ」
「何でだよ!可愛かったじゃん」
「知らない子だし」
「これから知ればいいだろ」
「別に…」

何だか歯切れの悪い光輝を見て、ハッとした。

「えっもしかして、好きな子いる?」
「……うん」

光輝の耳が赤くなっているのをオレは見逃さなかった。

「え!?ウソだろ?初耳だけど」
「言ったことねぇもん」
「なんだよー!言えよ!」
「いや、だって…」

顔も赤くなってきて、光輝が腕で顔を隠す。

「手が届かないかんじの人だから…まだ口には出せない」

そのあとも光輝は口を割らなかった。
さっきの子でもだめって、いったいどんな高嶺の花を狙ってるんだよ。
何でオレに言わないんだよー!

親友の水臭さにモヤモヤしながらも、オレの脳裏にはポロポロとこぼれる女子の涙が焼き付いていた。

オレなら絶対優しくするのになー。
光輝よりも背高いし、サッカーも負けないのに。
女子たち、見る目ないぜ。

***

光輝はその後もモテ続けたが、彼女を作る様子はなかった。

中3、受験生。
オレは中学でもそこそこの成績をキープしていたので、進学校の北高を受験することにした。

「光輝は高校どーすんの?」
「まだ決めてない」
「まだ?遅くね?」
「いろいろ事情があんだよ」

事情?

「そろそろ運動会だよな」
光輝が言う。

「だな。中学最後のイベント」
「オレ、委員やろっかな」
「え、なんで?」
「他のクラスと接点できそうだし」

そういえば、好きな子がいるって言ってたな。
そんな素振り見せないから忘れてた。
この学校だったのか。

「運動会で好きな子に告うの?」
「いやまだ」
「まだ!?中1からずっとだろ」
「いや実はもっと…」
「もっと前から!?」

頭がくらくらしてきた。

「光輝モテてるんだから、告えばいいんじゃねぇの」
「よく知らない女子のテキトーなのとは違うから」
「おまえほんとに健康な男子かよ〜!」

からかったら急に首元を掴まれた。
「その子のことでそーゆーこと言うな」

目が怖い。
「…その子って言われても、誰だかわかんねぇのに」
「関係ない。言うな」

光輝のキレ顔、久しぶりに見た。
ほんとにその子に本気なんだな。

「悪かった、もう言わない」

やっと光輝が腕の力をゆるめてくれた。
でもオレに怒るより、本人に気持ち言えばいいのに。
こじらせてんなぁ…。

***

中3の運動会は俺にとっても忘れられない日になった。

「光輝、おはよ」
「おはよー」

光輝とは一緒に通学していて、その日の光輝はやけに眠そうに欠伸をしていた。

「どしたん?」
「んー、昨日進路について調べてて…」
「やっと決めたん?どこ?」
「北高」
「一緒じゃん!そんなにオレと離れがたいか」
「でも内申Dランクなんだよなー」
「えっ……無謀じゃね?」

北海道では、受験のときに内申点が合否判定に大きく影響するので、ふつうは中1から塾へ行って内申点を上げておく。

オレも光輝も部活で忙しくて塾には行ってなかったけど、少なくともオレは内申Bランクだ。

Dランクで市内トップクラスの北高を目指す奴はあまり聞いたことがない。

「塾行くん?」
「いやそんなお金ないからYouTube見ろって」
「まじか」
「兄ちゃん浪人中で予備校だし、受かったら東京でひとり暮らしだから」
「あー、それで突然おまえが塾行くのは無理だろな」
「そーなんだよね」

学校に着く。
自転車を停めた光輝は、両腕を上げてぐいんと伸びをした。
「でもまぁ、頑張るわ」

何で突然こんな張り切ってんだ??

急に目の色を変えた光輝を、その時のオレは不思議な気持ちで見ていた。

運動会は接戦で盛り上がった。

そして3年の借り人競争。
最初に走り、ゴールしたあとにお題チェック係を担当した。
次々とゴールしてくるので意外と忙しい。

「お題はメガネだからだめ」
「えっだめ?」
「水中ゴーグルはメガネじゃない」

ウケ狙いで変なのを連れてくる奴には容赦なくダメ出しする。

岩田と友達がゴールしてきた。

「はいはい、お題チェック」
オレは声をかける。

預かった札には「好きな人」と書いてある。

「好きな人?」
岩田が連れているのは女子だけど。

「好きな人です!!」
「大好きです♡」

ふたりが口を揃えて言うので、問題なしと判断した。
そうだよな、べつに恋愛的に好きな人じゃなくてもいいもんな。
カップルでもなきゃ、この札を引いた瞬間に告白を決意するのはなかなか勇気がいる。

次は光輝の番だ。
岩田を連れてゴールしてきた。

今はそんなに仲良いわけでもないのに、岩田?
ちょっとした違和感を覚えつつ、一着でゴールしたふたりへ近づく。

「お題チェックしまー…」

オレは途中で言葉を失った。
札には「好きな人」と書かれていた。

……ん?
光輝の好きな人?
昔から好きだった人??
岩田が!?

「えーなんだよ、何てかいてあるの?」

後ろから外野に声をかけられて言葉に詰まる。
光輝を見ると(言わないで!)とサインを出している。

「あ… え… あ…」
追い詰められるオレ。

「お……大きい女子…?」

必死でひねり出した単語で光輝と岩田が固まったのがわかった。

「あー確かに」
外野は笑いながら去っていく。

「…よかった、お題に合ってて」

そう言って笑う岩田。

「じゃあ席に戻るね」

でもさすがのオレでもわかる。
岩田は目の端に涙をためていた。

ひと呼吸置いて、光輝が全力で岩田を追いかけていく。

オレはまだ係があるので動けない。
お題チェックを続けなきゃ。

ああ。オレはアホだ。

中1のバレンタイン、涙を流す女子の姿が頭をよぎる。
あの時の光輝は、ヘタに期待させて傷つけないようにわざと冷たくしていた。

でも今回のは、100%オレが悪い。
オレだけが悪い。

罪悪感で崩れ落ちそうだった。
オレは生まれて初めて女子を泣かせてしまった。

***

罪悪感は酷かったが、光輝がダッシュで追いかけたので、フォローのタイミングで告ったのかと思っていた。

そしたら「告えなかった…」だって。
オレら、揃ってダメダメじゃん。

「岩田、北高受けるの?」

運動会の帰り道、光輝に訊いたら黙って頷いた。
耳まで真っ赤だ。

コイツのわかりやすさは変わってないんだなと、少し安心した。

***

中学の卒業式。
オレらは無事に北高に合格して、晴れやかな気持ちで卒業を迎えられた。

光輝が受かったのはまじで奇跡だ。
いざというときの集中力に感心する。

岩田が北高に合格したことも人づてに確認した。

式が終わったあと、校内でクラスのみんなと最後を名残惜しんでいると、光輝の呼ぶ声がする。

「渡辺ー、写真撮って!」

隣には岩田。
おお、頑張って声かけたんだな。
光輝のスマホを預かると、めっちゃ連写してやった。俺なりの贖罪だ。

スマホを返すと
「渡辺ありがと!」
とニッコリする。

「岩田もありがとー、親とかいつまでも子供あつかいで困るよね」

え、もしかして、親を引き合いに出して撮ってもらったん!?
光輝、おまえ…やっぱりヘタレなのか?

でも、そのあとはうまく連絡先交換に突入したようなので、オレはそっとその場を離れた。

嬉しそうに光輝と話す岩田の顔が目に入る。
オレはふと思った。

岩田だって光輝のこと、好きなんじゃねぇのかなぁ。

***

光輝と岩田は、そのあと高1の学祭で付き合い出した。

光輝がクラス展示の受付を放棄して岩田を追いかけていく時に、「岩田!」とだけ言ってオレに押し付けたのはさすがにどうかと思ったけど。

でも、ようやく告うんだなとわかった。

そのあと岩田に会って、心残りを晴らすこともできた。

「あのとき、大きい人って言ってごめんね」

岩田は笑ってくれた。
「私、ほんとに大きいから」

ああ、良い子だな。
光輝がずっと追いつこうと頑張ってたのもわかるな。

長い片想いがようやく成就した光輝は、明らかに浮かれまくっていた。

登下校も当然オレじゃなく岩田とするようになった。

まぁいいけどさ。
おめでたいけどさ。

でも光輝。
親友はオレだってことは忘れるなよ?

fin.



あとがき

「河原へ集合🎶」イベントへ参加することになり、二次創作小説5作品を書きました。

とってもスラスラ書けて、調子に乗って「他になにか読みたいものありますか?」とTwitterで呼びかけたら、リクエストいただいたのがこの渡辺目線のお話でした。

渡辺と言えば、やはり中3の運動会。
タイトルと中1のバレンタインのエピソードはすぐ思いついたのですが、思いのほか構成が難しく、仕上げるのに苦労した作品です。

最終的に会話のフレッシュさを最優先して構成したら、時系列が前後しまくりのわかりにくい作品に仕上がってしまいました。

読みにくくないかハラハラしていたのですが、公開1週間後のいま、いちばん読んでいただいている作品となっていてホッとしております♡

読んでくださった方、本当にありがとうございました。

ちー

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