『明暗』夏目漱石
初読時には退屈だなあくらいにしか思わなかった作品だけれど、今回読み直して、何と言うかこう、ヒリヒリするような緊張感漲る場面が多くて、弛れることなく読まされた。
特に一つのクライマックスは、津田の病室での延子と秀子の火花の散るやりとり。こんなすごい心理的バトル、読んだことない。
『こころ』までの漱石と大きく隔たっているのは、作品が一本の屋台骨で支えられているのではなくて、複数の視点から光が当てられている、いわばポリフォニックな構造になっているところ。幾人かの人物たちの姿を群像劇として描いて、重層的な物語。
『こころ』までが、平屋の日本家屋だとすれば、『明暗』は、2階建ての洋館のような。そんな複雑さ、大きさを感じさせる。
なのに、いよいよ物語は佳境へというところで、プツリと途切れてしまう。
こんな複雑な群像劇を漱石はどう決着させるつもりだったのだろう。
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