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月守えま
2020年8月5日 23:34
遊歩道を彩っていた紫陽花が枯れていく十数えるうちに居なくなった子はだれアスファルトから煙が立ち上っている陽炎が、目に、痛い中途半端な正義感が、誰かを貶めていく数えきれない倫理観の中を、藻掻く放置されたままの電話ボックス所在なさ気に佇む緑色の公衆電話が、虚しい旧い外灯が点り始める萎んだ朝顔を撫ぜるそこに宿る命を、指先が感知する瑞々しくて、少し熱い発泡酒の缶が、汗をかいている
2020年4月23日 19:00
小脳に蓄積した疲労が、あたしの飛行能力を奪っているのだ、きっと。鳥類は、雄大にして偉大だ、あの、恐竜たちの末裔であるという事実、ただ、それだけで。美しい光の蜜で肺を満たせば、空を飛べる気がした、否、そう、信じた、茜色をした夕陽に照らされながら。あたしは、どこまでいっても人間だった、肺を夕陽で満たしても。あたしは、どこまでいっても人類だった、肺を月光で満たしても。
2020年2月10日 17:55
寒さに縮れた心臓が、訳もなく拍動する。押し流される冷たい血液は、あたしから体温を奪って。螺旋に描かれた命の循環は、きっと君を隠してしまう。いつかの近い未来では、あたし達を構成する物質が、素粒子よりも小さくなる。あたしが死んでも悲しまないで。あたしが死んでも泣かないで。あたしの命は素粒子より細かな何かになって、宇宙を漂流する。あたしだけじゃない、君だって、そうだ。第二銀河系に届
2019年10月18日 18:18
声が聴こえる、どこからか声が聴こえる、泣き声が私は本棚の前に立ち、片っ端から書物を捲る三島由紀夫、でもない大江健三郎、でもない金原ひとみ、でもない村上春樹、でもないでは、では、私に声を、届けていたのは旧い日記帳を手に取るモレスキンの、ハードカバーの、黒色の、それ手にした途端、日記帳はカタカタ慄える深呼吸し、静かに、ゆっくりと、表紙を開く―
2019年8月27日 18:31
なにかにひっぱられるみたいに体の一部、脊髄の真ん中が、つっぱっている生まれ出てきた時にきっと、あたしは忘れ物をしてきた (だからこんなに生き苦しいのだ)それが何だったかわからないけれども (だからこんなに息苦しいのだ)ダリアの花が咲いた、なんて子供たちが嘯いて騒いでるいいえ、それは、誰かの生命みにくいままに、生まれてきました みにくいままに、生きてきました
2019年8月19日 18:28
電車の中知らない隣の女の子よりあたしの方が可愛いって、信じたい図書館の中知らない斜め迎えの女性よりあたしの方が美しいって、信じたい信じたい信じたい手を繋ぎ歩くカップルの少女よりあたしの方が綺麗だって、信じたいバーカウンターで男にしな垂れ掛かっている女よりあたしの方が魅力的だって、信じたい信じたい信じたい世界一のいい女だって、信じたい宇宙一の美女だって、
2019年8月8日 20:05
きゅっ、と、赤子の手を握るみたいな、慎重な優しさで、あたしを抱き締めていて下さい、どうにもあたしは消えたくなるから。きゅっ、と、咲いたばかりの秋桜の花弁に触れるみたいな純粋な優しさで、あたしを包み込んで下さい、どうにもあたしは消えたくなるから。あたしは八番目に生まれた鴉。誰からも数えてもらえない鴉。群の最後尾にいつも控える鴉。親からも数えてもらえない鴉。だから、ね
2019年8月2日 18:11
バスを待っていた古びたバス停木製のベンチに腰掛けてやって来るバスの行き先はどれも違うようだった希望坂経由未来営業所行煌めき通り経由将来一丁目行歓喜ヶ丘経由幸せ行沢山のバスを見送った幾多の人を見送ったそのうちに ヒグラシの鳴き出して夕暮のバス停に 一人ぽっちの私トトトとやって来た白猫が にゃあと鳴く白猫は そのままトトトと帰り行くいつまでも 帰れない私いつま
2019年7月10日 16:53
あたしが夏を、拒むから風船に閉じ込められたヘリウムガス、幾つ待てども減らないままであたしが夏を、拒むから地中に眠る蝉の幼虫、長い長い世界史の夢をずっとみている夏なんて、嫌い暑さなんて、嫌い雪原に寝転んで、あたしの形を残したい雪だるまに、手編みのマフラー着けてあげたいかまくらで、温かい甘酒を飲みたい夏なんて、嫌い暑さなんて、嫌い太陽が、ぎろり、あたしを、睨むもく
2019年6月22日 12:40
雨と雨の隙間に鳴く雀や雲雀の鳥たちは思い出の中の私たち白いシャツ紺色のスカートに紺色のリボン走る走る廊下を階段を校庭を私たちの世界をパシャリ水溜りを蹴散らしヒラリスカートを翻し私たち 本気で信じてた私たちが 最強だって屋上から仰ぎ見た空は青く 蒼く 碧く 目映くトランペットトロンボーンサックスオーボエスネアドラム雨と雨の隙間に鳴いた
2019年6月19日 12:29
寂しい小部屋の、しずかな水槽の中で、背びれを ゆるり 揺らすは金魚。水面へ、上の方へ、上の方へ、尾びれを ふわり 振り往くは金魚。ああ、金魚よ。お前は何が悲しくて、こんなに小さな部屋にいるのか。ああ、金魚よ。お前は何が虚しくて、必死と命を浪費するのか。光が欲しいか。光が欲しいか。人間が、羨ましいか。言葉なく、喘ぐ金魚よ。涙なく、泣き濡れる金魚よ。雷鳴の一つ轟き、
2019年6月12日 19:46
青白い閃光に抱かれて夢を見ていた青白い閃光に抱かれて眠っていた魂が、叫ぶ雷鳴が、轟く火花が、散る今日の私が零時に死んで明日の私が零時に産まれる細胞は 凄まじいスピードで生まれ変わるからあの日の私は、もう居ない過去と未来を仕切る現在は「あっ」という間に駆け抜けて行ってしまうそれは、まるで、アリスの白うさぎ懸命に、追いかけ、追いかけ現在を、生きる、生きる月が見
2019年6月10日 11:55
さよならが幸せになってしまったら流れ星なんて見つけられなくなってしまうさよならが幸せになってしまったら友達なんて要らなくなってしまうさよならが幸せになってしまったらただいまを言えなくなってしまうさよならが幸せになってしまったらおかえりを言えなくなってしまうたくさん、人間がいて、雑踏、創り出してる。こんなにも生きているのだ私なんてあなたぐらいそんな風にペシミストぶっ
2019年6月9日 19:01
SL列車が鳴くのを見てる白い白い煙を吐いて黒い石炭を赤く燃やしてポーと大きく鳴くのを見てる「あちらは何処まで行くのでしょうか」一人の婦人が駅員に言う「貴女の知らない素敵な場所まで」停車場には、実に様々な人がいる大きなバックパックを背負った異国の青年鸚鵡の入った鳥籠を抱える少女小さなハンドバッグだけ携えた若い女性異臭を放つ草臥れた老人くたくたのモップみたいに汚れた仔犬そ