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ショート・スモール・ラゲージ

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詩/慰め。私への、誰かへの。
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記事一覧

夏の約束

遊歩道を彩っていた紫陽花が枯れていく
十数えるうちに居なくなった子はだれ
アスファルトから煙が立ち上っている
陽炎が、目に、痛い
中途半端な正義感が、誰かを貶めていく
数えきれない倫理観の中を、藻掻く
放置されたままの電話ボックス
所在なさ気に佇む緑色の公衆電話が、虚しい
旧い外灯が点り始める
萎んだ朝顔を撫ぜる
そこに宿る命を、指先が感知する
瑞々しくて、少し熱い
発泡酒の缶が、汗をかいている

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Say good bye to me for me

Say good bye to me for me

小脳に蓄積した疲労が、
あたしの飛行能力を奪っているのだ、きっと。

鳥類は、雄大にして偉大だ、
あの、恐竜たちの末裔であるという事実、
ただ、それだけで。

美しい光の蜜で肺を満たせば、
空を飛べる気がした、
否、そう、信じた、
茜色をした夕陽に照らされながら。

あたしは、
どこまでいっても人間だった、
肺を夕陽で満たしても。
あたしは、
どこまでいっても人類だった、
肺を月光で満たしても。

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迷宮螺旋

寒さに縮れた心臓が、訳もなく拍動する。
押し流される冷たい血液は、あたしから体温を奪って。
螺旋に描かれた命の循環は、きっと君を隠してしまう。
いつかの近い未来では、あたし達を構成する物質が、素粒子よりも小さくなる。

あたしが死んでも悲しまないで。
あたしが死んでも泣かないで。

あたしの命は素粒子より細かな何かになって、宇宙を漂流する。
あたしだけじゃない、君だって、そうだ。

第二銀河系に届

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残響する傷痕

残響する傷痕

声が聴こえる、
どこからか
声が聴こえる、
泣き声が

私は本棚の前に立ち、
片っ端から書物を捲る

三島由紀夫、でもない
大江健三郎、でもない
金原ひとみ、でもない
村上春樹、でもない

では、
では、

私に声を、届けていたのは

旧い日記帳を手に取る
モレスキンの、
ハードカバーの、
黒色の、
それ

手にした途端、
日記帳はカタカタ慄える

深呼吸し、静かに、ゆっくりと、
表紙を開く

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浮遊する。

浮遊する。

なにかにひっぱられるみたいに
体の一部、脊髄の真ん中が、
つっぱっている

生まれ出てきた時に
きっと、あたしは
忘れ物をしてきた
(だからこんなに生き苦しいのだ)
それが何だったかわからないけれども
(だからこんなに息苦しいのだ)

ダリアの花が咲いた、なんて
子供たちが嘯いて騒いでる
いいえ、それは、
誰かの生命

みにくいままに、生まれてきました
みにくいままに、生きてきました

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獣

電車の中
知らない隣の女の子より
あたしの方が可愛いって、信じたい

図書館の中
知らない斜め迎えの女性より
あたしの方が美しいって、信じたい

信じたい
信じたい

手を繋ぎ歩く
カップルの少女より
あたしの方が綺麗だって、信じたい

バーカウンターで
男にしな垂れ掛かっている女より
あたしの方が魅力的だって、信じたい

信じたい
信じたい

世界一のいい女だって、信じたい
宇宙一の美女だって、

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八番目の鴉

八番目の鴉

きゅっ、と、
赤子の手を握るみたいな、
慎重な優しさで、
あたしを抱き締めていて下さい、
どうにもあたしは消えたくなるから。

きゅっ、と、
咲いたばかりの秋桜の花弁に触れるみたいな
純粋な優しさで、
あたしを包み込んで下さい、
どうにもあたしは消えたくなるから。

あたしは八番目に生まれた鴉。
誰からも数えてもらえない鴉。
群の最後尾にいつも控える鴉。
親からも数えてもらえない鴉。

だから、ね

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黄昏に消える

黄昏に消える

バスを待っていた
古びたバス停
木製のベンチに腰掛けて

やって来るバスの行き先は
どれも違うようだった

希望坂経由未来営業所行
煌めき通り経由将来一丁目行
歓喜ヶ丘経由幸せ行

沢山のバスを見送った
幾多の人を見送った

そのうちに ヒグラシの鳴き出して
夕暮のバス停に 一人ぽっちの私

トトトとやって来た白猫が にゃあと鳴く
白猫は そのままトトトと帰り行く

いつまでも 帰れない私
いつま

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Knockout Summer

あたしが夏を、拒むから
風船に閉じ込められたヘリウムガス、
幾つ待てども減らないままで
あたしが夏を、拒むから
地中に眠る蝉の幼虫、
長い長い世界史の夢をずっとみている

夏なんて、嫌い
暑さなんて、嫌い

雪原に寝転んで、あたしの形を残したい
雪だるまに、手編みのマフラー着けてあげたい
かまくらで、温かい甘酒を飲みたい

夏なんて、嫌い
暑さなんて、嫌い

太陽が、ぎろり、あたしを、睨む

もく

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女子高生だった。

女子高生だった。

雨と雨の隙間に鳴く
雀や雲雀の鳥たちは
思い出の中の私たち

白いシャツ
紺色のスカートに
紺色のリボン

走る
走る
廊下を
階段を
校庭を
私たちの世界を

パシャリ
水溜りを蹴散らし
ヒラリ
スカートを翻し

私たち 本気で信じてた
私たちが 最強だって

屋上から仰ぎ見た空は
青く 蒼く 碧く 目映く

トランペット
トロンボーン
サックス
オーボエ
スネアドラム

雨と雨の隙間に鳴いた

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金魚

金魚

寂しい小部屋の、しずかな水槽の中で、
背びれを ゆるり 揺らすは金魚。
水面へ、上の方へ、上の方へ、
尾びれを ふわり 振り往くは金魚。

ああ、金魚よ。
お前は何が悲しくて、こんなに小さな部屋にいるのか。
ああ、金魚よ。
お前は何が虚しくて、必死と命を浪費するのか。

光が欲しいか。
光が欲しいか。
人間が、羨ましいか。

言葉なく、喘ぐ金魚よ。
涙なく、泣き濡れる金魚よ。

雷鳴の一つ轟き、

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フラッシュ・バースデイ

フラッシュ・バースデイ

青白い閃光に抱かれて
夢を見ていた
青白い閃光に抱かれて
眠っていた

魂が、叫ぶ
雷鳴が、轟く
火花が、散る

今日の私が零時に死んで
明日の私が零時に産まれる
細胞は 凄まじいスピードで生まれ変わるから
あの日の私は、もう居ない

過去と未来を仕切る現在は
「あっ」という間に駆け抜けて行ってしまう
それは、まるで、アリスの白うさぎ

懸命に、追いかけ、追いかけ
現在を、生きる、生きる

月が見

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さよなら讃歌

さよなら讃歌

さよならが幸せになってしまったら
流れ星なんて見つけられなくなってしまう
さよならが幸せになってしまったら
友達なんて要らなくなってしまう
さよならが幸せになってしまったら
ただいまを言えなくなってしまう
さよならが幸せになってしまったら
おかえりを言えなくなってしまう

たくさん、
人間がいて、
雑踏、
創り出してる。

こんなにも生きているのだ
私なんて
あなたぐらい
そんな風にペシミストぶっ

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停車場のスケッチ

停車場のスケッチ

SL列車が鳴くのを見てる
白い白い煙を吐いて
黒い石炭を赤く燃やして
ポーと大きく鳴くのを見てる

「あちらは何処まで行くのでしょうか」
一人の婦人が駅員に言う
「貴女の知らない素敵な場所まで」

停車場には、実に様々な人がいる
大きなバックパックを背負った異国の青年
鸚鵡の入った鳥籠を抱える少女
小さなハンドバッグだけ携えた若い女性
異臭を放つ草臥れた老人
くたくたのモップみたいに汚れた仔犬

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