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ドンの強さ

私の住む市の包括支援センターにはドンがいた。
巷では有名なドンだった。
ドンは見た目も雰囲気も怖い。
ドンは近寄り難い。

そんなドンに私は可愛がってもらった。
父がドンと知り合いであったことと、共通のケアマネの友人がいることで親しくなった。

しかし、なんとなくそれだけじゃなく、私のことを一介護士して認めて付き合っていてくれた。

ドンは、その雰囲気や言い方から嫌煙されていたと思われる。


ある日のことだった。
施設で介護士として働いていた私が出勤すると、ご利用者Kさんが施設にいない。
急変で入院していた。

その時の様子を聞くと、とても痛がっていたそうで、もってあと数日とのことだった。

Kさんは遠慮がちで、職員の手薄になる時間なども把握していた。職員が忙しい時にナースコールを鳴らすことをしない人だった。

そういう性格だと把握して、介護士からアプローチしてあげる必要があると考え、「今なんかして欲しいことある?」などの配慮を心がけていた。

こちらが配慮するように、Kさんも職員を配慮してくださっていた。

そのKさんが入院してしまった。
しかもあと数日…。

勤務が終わり、病院へお見舞いに行くと、酸素をつけて苦しそうな顔で横になっているKさんがいた。

私の夜勤明けの日のKさんは、
「ありがとね。気をつけて帰んないね。」と笑顔で見送ってくださった。

そして今。

なんで気づいてあげられなかったんだろう。

悲しくて悔しくて、涙が止まらない。
痛みはいつからだったんだろう。
苦しかっただろうな。
いなくて悪かったな。

と、思えば思うほど、苦しそうなKさんを見ながら笑ってるKさんが見えてくる。

よしよしさん、いいんだよ。
ありがとね。

私の頭を撫でられてるような、でも涙が止まらない。

その時、1人の看護師が入ってきた。

その看護師は医療処置を無言で始め、無言で終え、私を見てこう言った。

「泣いているなら出ていってください。
 患者さんがかわいそうです。」

思いもよらぬ一言に、呆然とした。
涙をふいて、部屋を出た。
これが最後の別れだった。

トボトボと言葉にならない感情を持ちながら歩いていると、ドンが向かえから歩いてきた。

「なに?なんかあった?」
と聞かれ、事のいきさつを話した。

そしてドンが火蓋を切った。

「そんなんで落ち込む必要なんてないわよ。
その看護師がバカなだけよ。
あんたとその利用者には、その看護師にはわからない深い関係性があるのよ。それを何も知らない看護師が偉そうに!
怒られてるあんたを見て、患者がどんな気持ちになるのかもわからんやつよ。
こんなやつらと一緒の看護師だと思うと腹が立ってくるわ!
だからいい?
あんたが落ち込む必要は無い!わかった?
全くどんな教育してんのよ。」


ドンは強くて優しい。
頼もしい。
Kさんが私に頼ってくれたように、ドンが私を守ってくれた感覚だった。

利用者に好き嫌いはつけてはいけないのかもしれないけれど、私の大好きな利用者さんの1人だった。
2人でたくさんおしゃべりをした。
17時にボルタレンを左肩に塗った。
右肩にもサービスすると喜んでくれた。
遅番で帰る前に膝にもぬりにいった。
いつも待っていてくれた。
たくさんたくさん笑った。

楽しかった思い出が、悲しくなりかけたところをドンが助けてくれた。

私も誰に対しても強くて優しい人でいたい。
強くそう思った。


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