【独占禁止法叙説】6-3 銀行業・保険業の株式保有制限

 法は、銀行業又は保険業を営む会社が、他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の五パーセント(保険会社は十パーセント)を超えて、その議決権を取得し又は保有してはならない旨、定めている(法十一条一項)。
 この規制の趣旨については、これまで二つの観点から説明がなされてきた。一つは、銀行や保険会社などの金融会社がその事業の特性から莫大な資金力を有し、かつ、これらの資金力を背景とした融資や保証等を通じ一般事業会社に対する企業支配の可能性へ懸念がもたれていた。事実、金融会社を中核とした財閥等が事業会社を支配し経済の民主的運営を阻害してきたとする過去の経験も指摘されている。法は、株式保有と融資力等の金融とによる影響力を合わせた支配を手段とし、金融会社を中心とする結合が形成され、過度の経済力の集中が進行することの防止を企図する(産業支配説)。他方、戦前において各財閥は、金融会社をその資金力の源泉としており、また、戦後形成された六大企業集団もその中核には銀行を中心とする金融会社が存在していた。金融会社は、産業界に対する資金の提供者としての地位を有しており、実際にも系列融資などと呼ばれるような金融会社からの資金的な背景がわが国の企業系列化において大きな役割を果たしてきた。このように資金の流れの偏りから生ずる事業会社間の競争への影響は否定できないし、このことは銀行の健全性の観点からも問題があることが指摘されている(金融癒着説)。
 このように、本規制の眼目は、銀行又は保険会社と一般事業会社とが結びつくことを防止することにある。
 なお、本規制においては、事業の性質上又は債権保全の一環として、かかる制限を超えて議決権を保有する必要性が認められ、かつ、「事業支配力の過度の集中」をもたらすおそれのない場合もあることから、一定の例外が認められている。一つは、「公正取引委員会規則で定めるところによりあらかじめ公正取引委員会の認可を受けた場合」(法十一条一項但書前段)であり、いま一つは、銀行と保険会社が業務の一環として議決権を取得・保有する場合など、実質的に見て他の会社の支配に当たらないものとして法十一条一項各号に列挙された例外的な場合である。

(2024年5月20日記)

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