石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いて…

石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いていくものをまとめ、整理することを目的にnoteを使ってみようと思い立ちました。

マガジン

最近の記事

【随想】時は金なり???(7/7)

 アテンション市場の競争は、財・サービスの市場の競争と比べても、かなりユニークである。  コンテンツ提供事業者は、利用者の視聴や享受をめぐって競争しているのだが、ここで展開する競争は、利用者との取引を獲得するために行われる通常の経済的競争とは違う。経済的競争は、コンテンツを視聴・享受するのに一定の対価を支払うことになるが、アテンション市場においてはコンテンツ単位で価格が設定されておらず、個々に利用者が対価を支払うわけではない。サブスクリプション・サービスだとさらに不明確となる

    • 【独占禁止法叙説】6-3 銀行業・保険業の株式保有制限

       法は、銀行業又は保険業を営む会社が、他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の五パーセント(保険会社は十パーセント)を超えて、その議決権を取得し又は保有してはならない旨、定めている(法十一条一項)。  この規制の趣旨については、これまで二つの観点から説明がなされてきた。一つは、銀行や保険会社などの金融会社がその事業の特性から莫大な資金力を有し、かつ、これらの資金力を背景とした融資や保証等を通じ一般事業会社に対する企業支配の可能性へ懸念がもたれていた。事実、金融会社を中核と

      • 【随想】アテンション市場!?(6/7)

         サブスクリプションというビジネスモデルにおいては、視聴者は、よりコンテンツ志向的になり、話題のコンテンツへのアクセスは検索ツールを通じて行われる。いつでも無制限に視聴することができるから、気に入ったコンテンツを、ダウンロードして手元に置く必要もない。編集やチャンネルの役割は相対的に小さくなる。視聴者は、コンテンツを目指して、ネット上や配信サービスサイトを探索するので、どの出版社や報道機関の記事なのか、どの映画会社の作品か、どのテレビ局の番組かは、それほど重要とはならなくなっ

        • 【随想】コンテンツ・ビジネスの今昔(5/7)

           これまで、財やサービスの取引における対価の有無に注目して話を進めてきた。最近では、取引の目的であり対価を支払う対象でもある「財」の観念も曖昧になりつつある。  とみに利用者を拡大させているインターネットを通じた映像や音楽配信ビジネスを考えてもらいたい。かつては、コンパクトディスクなりDVDなりの形態でお気に入りの映像・音楽コンテンツを購入していたものである。一方、インターネットを通じ、必ずしもコンパクトディスクやDVDのかたちで購入することがなくなっても、映像・音楽コンテン

        【随想】時は金なり???(7/7)

        マガジン

        • 【独占禁止法叙説】
          17本
        • 【菓子探求】
          3本

        記事

          【随想】無償取引に消費者は不利益さえも気づかない(4/7)

           無償取引は、企業が消費者に対して課す不利益さえも見えなくさせるかもしれない。経済学の教科書を見るまでもなく、価格が引き上げられると(一定の予算制約がある)消費者は財やサービスの購入量をこれまでよりも抑えなくてはならないだろう。値上げは、明確なかたちで消費者にとって望ましくない影響を及ぼすことになる  だから、企業が集まって価格引き上げや生産数量制限について話し合うと、カルテルや談合として当局によって摘発される。このように、価格が設定されることは、消費者に不利益を具体的に感じ

          【随想】無償取引に消費者は不利益さえも気づかない(4/7)

          【随想】価格が設定されることの意義(3/7)

           ネットワーク外部性という現象を伴うビジネスでは、一定の条件で無償取引は合理的なものとなる。  企業は本来営利を目的とするもので、収益が上がらないなかでビジネスを続けることは困難なはずだが、このマーケットではそれが可能であるばかりか合理的でもあるのだ。  他方、消費者にとってはどうだろう。消費者は多くの財・サービスを「購入」しながら、生活に必要な物資を得ている。そして、「購入」という言葉に、有償取引であることが内在している。一見すると、無償(タダ)であることは、消費者にとって

          【随想】価格が設定されることの意義(3/7)

          【随想】外部性が無償取引を生み出している(2/7)

           無償になるメカニズムはさまざまである。地上波テレビ放送のように、視聴者からは対価をとらず(NHKは別として)、もっぱら広告費を企業から集めて番組(コンテンツ)の製作(放送)サービスを提供している。この構造は、グーグルなどの検索エンジンと同じである。  以前、このコラムでも取り上げたクレジットカード・ビジネスでは、ユーザーから会費を徴収しないで、もっぱらカード加盟店から加盟店料という対価を徴収する場合もある。  地上波テレビ放送局(検索エンジンサービス会社)もクレジットカード

          【随想】外部性が無償取引を生み出している(2/7)

          【随想】街中にタダ(無償)が溢れている(1/7)

           わたしたちが生活を営んでいく中で、商品やサービスを他社から手に入れる場合、基本的にはこれらの対価として一定の金銭を支払う。ほとんど全ての取引がそうであるので、わたしたちは「取引」といえば有償であることを当然と考えている。  しかし、最近は、一定の商品やサービスがタダ(無償)で提供されるものが少なくなく、いちいち「取引」に「有償」であるか「無償」であるかという冠をつけて説明することが頻繁になっている。  たとえば、わたしたちがどこぞのカフェに入って、インターネットで探し物をす

          【随想】街中にタダ(無償)が溢れている(1/7)

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート4)

          (五)「事業支配力が過度に集中することとならない」場合  なお、ガイドラインにおいては、「事業支配力が過度に集中することとならない会社」として、特に、①純粋分社化の場合(自社が現に営む事業部門を子会社化し、かつ、当該子会社の株式を百パーセント取得する場合)(純粋分社化により、規模や支配力の範囲が拡大するわけではなく、会社の組織形態が変更に過ぎないから、これにとどまるかぎり、事業支配力の拡大・集中の問題は生じないとの理由よる。)、②ベンチャー・キャピタルの場合(会社が、証券取引

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート4)

          【随想】授業はやはり対面にかぎる

           4月になり、新学期が始まった。大学ごと、大学院ごとに対応は異なると思うが、わたしの本務校、就中わたしが所属する法科大学院では「原則対面(のみ)」での講義がいよいよ復活した。学部もかなりの授業が対面となっているようだ。朝9時、1時限目の登校時には、多くの学生が検温と消毒のため列をなし、大学の活気が一気に戻ってきた感じである。  対話が中心となるゼミや法科大学院の授業では、オンラインでは他者の議論に被せるように意見をいったり発言をしたりすることはご法度で、いつの間にやら指名され

          【随想】授業はやはり対面にかぎる

          【随想】車検−マイカーを買い替えるきっかけ

           高額な出費を伴う買い物をする際、その商品やサービスの価格や品質に目を向けるのは当然だが、わたしの場合、職業柄なのか、その商品やサービスの最近のトレンドであるとか、これらがどのような企業(資本関係も含む)により、どのような流通・取引を通じて、わたしたちのもとに届けられるのかを聞かずにはいられない。  わが家のマイカーも子どもたちの送り迎えなどをするために購入し、そろそろ10年になろうとしている。わたしは全く自動車を運転しないので、ほとんど意識していなかったのだが、妻によればそ

          【随想】車検−マイカーを買い替えるきっかけ

          【随想】ウーバーイーツの法律学#4−規制の合目的性を検証する必要性(4/4)

           貨物自動車運送事業法によれば、排気量が125cc以下ないし出力が1キロワット以下の「原動機付自転車」であれば、届出せずに貨物運送事業を行うことができる。もちろん、自らの足でペダルを踏み進める自転車はそもそも同法の対象になっていない。これが、街中を疾走する「ウーバーイーツ」配達員の圧倒的多数が自転車を使っていることの答えということになる。  では、同じく「他人の需要に応じ、有償で……貨物を運送する事業」でありながら、自動車や軽自動車、さらには自転車など使用する車両ごとに規制が

          【随想】ウーバーイーツの法律学#4−規制の合目的性を検証する必要性(4/4)

          【随想】ウーバーイーツの法律学#3−自動車の種類によって異なる規制(3/4)

           貨物自動車運送事業法は、貨物運送を行う自動車が「自動車」であるか「軽自動車」であるかによって取扱いに差を設けている。たとえば、貨物運送事業を自動車で行う場合、国土交通大臣による「許可」を受けなければならず、また、同事業を軽自動車で行う場合、「届出」が必要となるというふうに。  ご存知かもしれないが、「届出」とは、行政庁に対し一定の事項を通知する行為である。したがって、事業の開始にあたり事業法がもとめる事業内容を国土交通大臣に知らせさえすればビジネスを始めることができる(もち

          【随想】ウーバーイーツの法律学#3−自動車の種類によって異なる規制(3/4)

          【随想】ウーバーイーツの法律学#2−出前とウーバーイーツ(2/4)

           レストランなどの飲食店の顧客からすれば、出前も「ウーバーイーツ」も料理の配送サービスという点では違いはない。しかし、ビジネスをする立場からすれば大変な違いがあるのだ。  出前は、特定の飲食店に注文した料理をその飲食店の無償のサービスとして(多くの場合、その店の人が)届けてくれるもの。配送料として追加料金を要求するものはほとんどない(余談だが、いわゆる宅配ピザも出前の一種だが、最近では宅配サービスを受けず店頭まで料理を取りに行った場合は割引が受けられるらしい)。  これに対し

          【随想】ウーバーイーツの法律学#2−出前とウーバーイーツ(2/4)

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート3)

          (三)「事業支配力が過度に集中することとなる」会社  この「会社グループ」が「事業支配力が過度に集中することとなり」、法が禁止対象としているのは、次の3つの類型のいずれかに該当し、かつ、それにより「国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなる」場合である(法九条三項及びガイドライン二-(一))。 ・第一類型(財閥型)---「会社の総合的事業規模が相当数の事業分野にわたって著しく大きいこと」 ・第二類型(金融支配型)---「資金に係る取引に起因する他の事業

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート3)

          【随想】ウーバーイーツの法律学#1−ウーバーイーツは自転車じゃなくてはいけないのか?(1/4)

           最近では、都心だけでなく、わたしの住む郊外にまで、大きな黒い直方体のリュックが疾走するようになった。「ウーバーイーツ」である。「ウーバー」の本来のビジネスは、シェアライド、つまりヒトに移動手段を提供する者とその移動手段を利用したいヒトとを、マッチングさせることだったはずだが、タクシーやバスなどの公共交通機関が過剰に発展・充実しているわが国においては、コロナ禍も手伝って、もっぱらレストランなどの料理の提供者とそれらの料理を需要する顧客とを結びつけ、料理を配送するビジネスとして

          【随想】ウーバーイーツの法律学#1−ウーバーイーツは自転車じゃなくてはいけないのか?(1/4)