見出し画像

水島精二のセットリストはディアステージへのラブレター ーアイドルオタクから見た映画「フラ・フラダンス」ー

映画を見てきたよ!



 久しぶりに映画館で映画を見ました。水島精二さん総監督、吉田玲子さん脚本の「フラ・フラダンス」です。

 僕はアニメは不勉強なので吉田玲子さんは「すごい人!」的な知識しかないのですが、水島精二さんには縁があります。ここ一年ぐらいハマっているD4DJのアニメである「D4DJ first Mix」の監督をされていたり(あとプロジェクト内ユニットのプロデュースをされています、ちなみにこの記事のタイトルはD4DJの代表曲である「Dig Delight!」の歌詞をもじっています)、僕の人生最大の推しアイドルである夢眠ねむさんとプラススパイスという会社を開いていたりします。


 また、夢眠ねむさんが所属されていたでんぱ組.incやそのでんぱ組が所属する秋葉原ディアステージとも縁が深く、実際今回の映画にもでんぱ組の相沢梨紗様が声優として(しかもかなりいい役でしたね)参加されているということもあり、見に行くことにしました。

一般的な感想

ーここから軽度のネタバレ注意ー

 感想としてはとても楽しめました!映像もきれいで気分も上がるし優しい世界に浸れる良作だと思います。
 福島県いわき市を描くということで、ストーリーの根幹には震災が当然あるのですが、それをがっちり出すのではなく(「震災」という単語はおそらく一度しか出てこないはず)、爽やかな青春物の中に通底する音のようにしみこませている、非常に品の良さを感じます(震災の悲劇を表に出すのがよくないと言うことではなく、それを使ってお涙頂戴の安い感動ものにすることはいくらでもできただろうにそうしなかったってことです)
 序盤はちょっと辛いなと思うところがありました。新人たちが失敗を繰り返しながら成長していくと言うストーリーなんですが、その失敗がかなり真に迫るし、本当にきつい失敗として描かれるので、共感性羞恥が強い自分は「うっ」ってなりました。またあれだけ楽しいところと思っていたスパリゾートハワイアンズが失敗を繰り返すにしたがって見え方が変わってしまうという、非常に身に覚えのある光景が丁寧に描かれていてそれもつらかったです。もちろんこれはそれだけ見事な描写であると言うことだと思います。
 ただ、しかしというべきかもちろんというべきか、その辛さが後半以降のカタルシスに繋がります。少しずつ、着実に成長していくダンスシーン、メンバー同士のダンスの連携から見える成長と関係性の変化、そしてそれがどう観客に伝わっていくかを無駄なくライブシーンの中で描いていくのはおそらく「アイカツ!」にも大きくかかわり、ご自身もDJをされる水島精二さんの、まさに「D4DJ First Mix」でも発揮されていた音楽とアニメーションの融合によりエモーションを引き出す力が出ていました。最後のライブシーンではまさにその音楽とアニメの力で涙ぐまされました。
 ストーリーテリングについて。この映画は1年間という割と長いスパンの話なのですが、視点を主人公に固定し(他のフラガールの成長は小さな描写でわかるようにされていて、それも個人的には好みでした)、さらに全体のテンポを速くすることで(主人公の初恋の話が出てきて「これかったるくなりそう」と思ったとたん速攻で終わったのが象徴的)この映画2時間あるのですが、個人的にはそこまでの長さは感じませんでした。そのテンポゆえにちょっと中盤が淡泊ではありますが。ただ、前述したライブシーンが音楽劇としての盛り上がりのピークになるのですが、それが終わった後、わりと現実離れしたファンタジックな展開でストーリーの盛り上がりのピークが来るというピークがズレる構造がこの映画にはあります。正直音楽劇としての盛り上がりの方が強いので「えっまだ続くの?蛇足では?」と見てるときは感じました。ただ、結果最後が軽い感じになったことで、映画が終わって椅子から立ち上がる時、非常に軽やかな気持ちでいられたのでそのような、後口をよくする効果はあったと思います。
 あとこの映画自体が震災復興プロジェクトの一環でもあり、いわき市とも協力関係にあるので、いわき市の色々な名所がやたら出てきて、それも映像がばっちりで物語への没入感の補強になっていました(おそらくそれで映画が長くなっているところはあるのですが)サッカー好きとしてはいわきFCのあの豪華なクラブハウスが見れたのがよかったです。
 あと余談だけど僕の推し声優である各務華梨さんが女子高校生役で登場していると公開当日に知りまして、きっと名前もついてないし一言出演ぐらいだろうと思ったらわりと大事なシーンで役割を果たすキャラだったのも個人的に良かったです。

アイドルオタクとしての感想

ここからは、アイドル、とりわけでんぱ組.incのオタクとしてとても心に残った点、おそらくこれがなければわざわざレビュー記事まで書かなかったであろう点を書こうと思います。

突然の謎ライブシーンとディアステージへのオマージュ

 この映画の公開前に途中に挟まれるアイドルライブの映像が先行公開されました。

 まずそれを聞いた段階で「どういうこと?」と思った人が多いと思いますし、僕もそう思いました。いったいこれはこの映画にどうつながるのかと。実際シーンとして浮いているところはありますし、見た人からも要素として余計では?という声もあります。
 作劇上の役割としては失敗続きで落ち込んだ主人公が高校時代の友人と気分転換にライブに行くシーンで、ここから主人公の状況の逆転が始まる、いわば「流れをぶったぎる」意味と、クライマックスのある展開に絡んでいます。これは後述しますが、もう一つ、「秋葉原ディアステージ及びでんぱ組.incへのオマージュ(また、ディアステージのタレントを多く起用していたアイカツへのオマージュでもあるでしょう)」という面が強くあります。

 このPVを見た瞬間、僕にはこの曲が強く想起されました。

 衣装の感じとか曲調とか近いでしょう?(僕は動画コメント欄で確認しただけの未確認情報ですが、実際この曲をイメージしているようです)というよりこの「ありがとFOR YOU」のPV、

  • 作詞・作曲・編曲:玉屋2060%(でんぱ組のメイン楽曲提供者でサクラあっぱれーしょんも書かれている)

  • 振付:Yumiko先生(でんぱ組の振付師)

  • モーション:虹のコンキスタドール(でんぱ組の後輩ユニット)

  • ロゴ:BOZO(でんぱ組のアートワークやPVをよくされる方)

と完全にでんぱ組シフトで作られているんですね。これは水島精二さんも「私的最高の布陣」と語っています(ちなみに「いついろディライト」というのは玉屋2060%さんが所属するバンド「Wienners」の代表曲「蒼天ディライト」からとられています)

この映画自体にオマージュの面があるのではという話

 とはいえ、「で、それがこの映画にとってどういう意味が?」という話になるのは当然だと思います。ただ、これはでんぱ組のオタである僕の深読みかもしれませんが、この映画のストーリー自体にでんぱ組、そして秋葉原ディアステージへと重ね合わせる面があるように感じられるのです。だからこそこの曲が必要とされたのだろうと。

ーここから終盤のネタバレあり注意ー

 物語終盤、主人公たち新人フラガールはフラダンス大会に出場することになります。とはいえ周囲は自分たちより経験も実力もあるダンサーばかり。どうすればいいか、どうすれば自分たちなりのフラができるのかと考えた彼女たちは、前述のいついろディライトの「ありがとFOR YOU」に合わせてフラとアイドルのダンスを融合させたパフォーマンスをするのです。結果、賞はもらえないものの観客は大喜びで、彼女たちは一つの成功と喜びを得るという結果になるのですが、僕はこのシーンを見た時、そのライブシーンと、的確なストーリーテリングへの感動、あとこの大事なシーンで各務さんがいっぱいセリフもらっていることへの喜びも感じつつ、なぜでんぱ組オマージュのアイドルを出したのか、自分の中で納得ができました。
 でんぱ組.incのパフォーマンスの特徴として、芝居的で目まぐるしいパフォーマンスがあげられます。このスタイルは、彼女たちが体格やダンスのスキルに差があるなどの理由から、ハロプロやAKBのように統一感の高いパフォーマンスができない、ならどうすればいいというところから編み出されたいわば「苦肉の策」でした。それが彼女たちの唯一無二性となったのです。つまり、苦境から自分たちのスタンスを見出すというのが、この映画のフラガールたちと同じではないかということに考えが至ったのです。
 
また、主人公のどん底に落ちてから再起する姿はでんぱ組を代表する言葉である「マイナスからのスタート」を想起させますし、エンディングテーマを歌うフィロソフィーのダンスはディアステージの所属ではないですが、プロデューサーの加茂啓太郎さんがでんぱ組の影響を強く受けてアイドルプロデュースをすることになり、フィロソフィーのダンス結成につながったと公言されています。

https://www.youtube.com/watch?v=0eU_ECjnOJ0


 このように、映画全体としてでんぱ組やディアステージへのオマージュがあり、それがまさにフラガールの物語に重ねられたのではないかと、そのように考えています。
 これが映画にとってどうプラスだったのかはいろんな意見があると思います。単に総監督が私情でやりたいことやっただけ(それはそれで大切なことだと思いますが)ともとれますし、もっとシンプルにディアステージと制作のBNPが関係性近いということの反映に過ぎない、もっと言えばただの僕の誤解ということもできます。ただ、この強烈なオマージュが、僕にとってこの映画に一つの特別さをもたらしたのは間違いないと、それだけは言えます。そして、でんぱ組やディアステージのファンにはこの映画を見てもらいたいし、この映画を見た方がでんぱ組.incに少しでも関心を持ってもらえば嬉しいなぁと思うのです。最新の彼女たちの姿を添えて。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?