心理学ガール #01
催眠術 or 催眠?
僕は心理学部の大学4年生。大学会館2階のいつもの席で僕が一休みしていると、後輩のハルちゃんがやってきた。
ハル「先輩、先輩。わたし、凄いんです」
僕「えっ、それは凄い!」
ハル「ちょっと、わたし、まだ何も言ってませんけど」
僕「聞かなくてもわかるよ。それは凄い!」
ハル「ちょっと、まじめに聞いてください!」
僕「ごめんごめん。何が凄いのかな?」
ハル「えへん。なんと、わたし、催眠術ができるようになりました!」
僕「催眠術? テレビとかで時々やってるようなやつ?」
ハル「そうです。テレビでやっているやつができるようになっちゃいました。もしかして、わたしって催眠術の才能があるかもしれません」
僕「確かに凄そうな話だけど、心理学を学んでいる学生としては、色々と聞いてみなくちゃいけないかな。その催眠術ができるようになったきっかけは?」
ハル「わたし、心理学関係の本を読むのが好きなんです。いつも大学の図書館で心理学の本を借りてるんですけど、この前、催眠術の入門書が目に入って借りてみたんです。そして、読んでみたら、わたしにもできそうだなあと思って。昨日、友人に試してみたらできちゃったんです」
僕「どんなことができたの?」
ハル「なんと! 友人の握った掌が開かなくなったり、友人が椅子から立てなくなったりしました!」
僕「なるほど。運動支配と呼ばれてるやつだね」
ハル「あれ? その通りですけど、もしかして先輩も催眠のこと知ってるんですか?」
僕「そうだね。一時期、家族療法の源流として興味を持って催眠について調べていたんだ。関係する本をたくさん読んだし、関係する論文も読んだ。それなりに詳しいと思う」
ハル「なーんだ。せっかく先輩を驚かせようと思ったのに……」
僕「驚きはしないけど、今まで、催眠について話をする相手はいなかったから、ぜひ、ハルちゃんと催眠の話をしてみたいな。それに僕らは心理学を学んでいる訳だし、心理学としての催眠術について話をしてみたらおもしろいと思わない?」
ハル「はい。入門書を読んだくらいのわたしでよければ、お願いします」
僕「こちらこそ、よろしくお願いします。ところで、ハルちゃんは、”催眠術”と言っているけど、催眠術ってのはテレビパフォーマンスとかで使う俗っぽい言い方だから、心理学徒としては、心理学の研究対象として”催眠”と言いませんか?」
ハル「わかりました。先輩とわたしとで、”催眠”についてお話しましょう」
僕とハルちゃんは、少し混んできた学生会館を離れて、芝生の広がった中庭へと移動することにした。ハルちゃんは、なんだかとっても嬉しそうだった。