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在韓の朝鮮学校卒業生と話し合うこと

韓国に移り住んで20年ほどになるが、韓国には朝鮮学校出身者が意外とたくさん住んでいる。

留学や一時滞在ではなく、私のように現地の韓国人男性と結婚し、家庭を築いて暮らす朝鮮学校出身者らとは、定期的な食事会など交流を続けている。

朝鮮大学校まで卒業し、朝鮮学校の教師をしていた友人も何人かいるし、朝鮮高校卒業後に朝銀で長く勤めていた友人もいる。

朝鮮高校時代に「熱烈者」として選抜され、「学習班」という特殊組織(私も属していた)で特殊な教育を受け、修学旅行とは別に一か月の北朝鮮研修を受けた友人もいる。

いわゆる総連系背景を持つこんな友人たちに韓国で出会えるなんて、結婚当初は想像もしていなかった。

夫にも子供にも言えない特殊な自分の背景について、気を遣わずに話し合い共有できる不思議な空間でもある。

この集いの共通の話題の一つは、「子供に自分の過去を話しにくい」ということ。「北朝鮮に修学旅行に行った」と話した時の子供の反応は、「あり得ない!うっそでしょ?なんで?朝鮮学校ってなにそれ?マジ?! 대~박! 」…という感じで、どの家庭も似たり寄ったりだ。

肖像画のある教室の風景や、修学旅行で訪れた平壌の銅像前で撮った写真を見せると(見せないという友人もいるが)、目を丸くして「ママは日本で育ったのに一体なぜ??」と質問攻めになる。一生懸命に説明するも、子供らは途中で関心がなくなり、それ以上は聞かれない…というケースがほとんど。

夫の家族に対しては、ほとんどの友人が自分の背景を具体的に話していない。「フツーの在日韓国人」あるいは「ほぼ日本人」として認識されている。

私の夫の家族も、私を誰かに紹介する時、「日本人だけと血は韓国人」と紹介したり、「キョポ(僑胞)」と説明している。何度か在日の歴史を説明したけれど、あまり興味を持たれなかった。

朝鮮学校に通っていたこと、総連系コミュニティに属していたことは夫だけが認識していて、結婚前は「敢えて説明する必要はない」と夫に言われた。

「総連系」の背景が夫家族にバレたのは、結婚して数年後、私の兄の日本での結婚式に夫の家族が出席した時だった。(兄は日本人女性と結婚)

ホテルの披露宴会場の大スクリーンに、新郎新婦の成長過程が写真スライドで紹介されたのだが、その中に赤い少年団ネクタイ姿で「常に準備!항상준비!」と敬礼している小学生の兄の写真がどアップで映し出された。よく見ると、後ろに巨大な金日成&金正日の肖像画が…。確か、少年団委員長だった兄が、学校行事で舞台に代表として上がった時の写真だった。

その瞬間、お姑さんが叫んだ。
「アレは金日成じゃないか!」

私は一瞬凍り付いたけど、まぁ、笑ってごまかしました。

着物姿の新婦側の親族がどのような反応を見せたのかは、焦っていたので全く記憶にない。

その後、「朝総連 (조총련)の家族なのか?」と義父が夫にそっと聞いてきたが、夫は「大昔のことだよ。今は無関係」と答えた。

それ以来、この件について夫の家族から聞かれたことはない。

後で兄に「よりによって、なんであんな写真を選んだの?」と聞いてみたところ、「何も知らないお嫁さんが自分のアルバムを見て、ただ可愛いという理由で選んだみたい。自分は知らなかった」という。

最近は朝鮮学校や総連、在日に対する見解もかなり変化し、私の場合、現在はテレビやマスコミのインタビューで堂々と明かしているが、いまだに隠しているという友人もいる。韓国に来てまで、自分の出自を明かせないなんて、悲しいね~と苦笑しつつ。

日本全国の朝鮮学校を卒業した同世代の彼女らとソウルで出会い、韓国での苦労や子供の教育問題、老後は?…と悩みを打ち明け合うなんて、かなり特殊なつながりだと思う。

脱北者を支援したり、朝鮮学校や総連の問題を公に指摘したり、北朝鮮の人権問題を訴える私の活動に対しては、皆が静かに応援してくれる。

色々なしがらみがあり、一緒に前に出て発言することはできないけれど、私のストレスや愚痴はいつでも受け止めてくれるので、まぁ、ありがたい。

それぞれが体験した朝鮮学校や総連傘下機関での思い出話はかなり興味深いので、またの機会に書き残したい。







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