見出し画像

#58 百鬼堂農園(10) 祖父とスーパーカブ

 夏場所6日目、開幕6連勝を決めた宇良の上手出し投げ、素晴らしかったですね。カッコいい。技はかくあるべし。

 農園経営において初期段階からの課題解決のため、大きな出費すべきか否かをずっと検討していた。農具や肥料や水などの運搬問題である。

 わが農園は住宅街の一角にあり、市民農園を管理する公社は、車での来園を原則禁止している。苗だの肥料だのを運び込むための一時的なものなら可ということで、たまに路駐して運び込んだりしている。その後は一度帰宅して、自転車で出直すことになる。

 ちなみに他の区画の人たちは、徒歩や自転車の人もいるが、多くは軽自動車を畑に横付けしてそのまま農作業にいそしんでいる。非難するつもりは毛頭なく、自分では路駐しての作業は落ち着いてできないので、やらないことにしているだけだ。車はSUVで少し大きいし。近くの公園に停めたこともあるが、ここも駐車場が狭いので、憩いのために来た人のスペースを奪うような気がして、やめにした。

 結果、農具を背負ってロードバイクで通っているのは先般記した通りだが、やはり荷物が少しずつ増え、農園への往復がかなり厳しいものとなっている。片道5分ほどとはいえ、畑仕事の帰り道は特にきつい。

 そこで思いついたのは、原付(原動機付自転車)の導入だ。

 15年ほど前に、私の祖父は99歳で大往生を遂げた。祖父は農業を生業にはしていなかったが、畑を借りて、スーパーカブで連日通っていた。幼いころよく荷台に乗って祖父の腰につかまり、走って遊んでもらったのを思い出す。

 夏のわが家の冷蔵庫には、祖父が育てたトマトやキュウリがいつも冷やされていて、暑い日にはマヨネーズや味噌をつけてよくかじったものだ。おいしかった。最晩年、危ないからバイクの運転はもうやめてくれ、と家族に頼み込まれても、しばらくはバイクでの畑通いは続いたようだ。

 畑に通うなら、祖父と同じスタイルがいい。

 というわけで、バイクによる農園通いの検討を始めた。なお免許は、原付が乗れる普通自動車のものしかない。学生のころは、よくスクーターに乗っていた。

 かなりの出費になる。妻に相談したところ、強く反対はされなかった。思ったより熱心に畑仕事をやっているからだろう、決して賛成ではなかったと思うが、仕方ないか、という感じではあった。

 原付を購入するにあたり、これ以上乗り物を増やすわけにはいかんと、古いけれど割と高級な小径車(車輪の小さな自転車)を一台売却処分した。

 買い取り業者に写真を送り簡易査定してもらい、さらに本人証明のための免許証や自撮りした写真を何枚か送り、あれこれ個人情報などを入力し、業者とやりとり。大変な思いをして梱包し、運送業者にきてもらい、一度は梱包に不備があるとのことで引き取ってもらえず、時間を調整し再度来てもらい、ようやく引き取ってもらう。買い取り業者が現物をみて査定し直したところ、簡易査定のときより安値だった。が、面倒なのでもちろん売った。所有して処分するというのは、本当に面倒なものだ。

 この自転車売却のくだりはバッサリ削るべきかと思ったが、せっかく書いたので残しました。まあ記録としても残しておきたいので。

 原付導入の準備はできた。ネットで探したところ、いかにも業務用という感じのスーパーカブを、もう少し遊ぶためにアレンジしたような、クロスカブというバイクがかっこいいと思った。前にかごをつけ、後ろにもボックスをつける。大きなリュックは背負うので、リアボックスは大きすぎないものがよい。肥料はボックスを外して荷台にくくりつけるのがいいか、ボックスにそのまま放り込む方がいいのか。動画やネット情報をみて、妄想のなかで、軽やかにバイクでの畑通いは始まっていた。

 入荷したばかりのクロスカブの在庫がある、という店に見に行った。おお、かっこいい。シフトチェンジの難しさやボックスの取り付けなどに関して、店の人にあれこれ質問した。

 当たり前だが、自転車に比べたらでかい。便利そうだが、こんな重くてでかいものを乗り回せるのか。自転車の整備ならできるが、よく考えたらこれは手に負えない感じがする。いろいろ捨ててきたのに、大枚をはたいて化石燃料を消費するこんな大きなものを所有することに、抵抗感がある。

 一度冷静になって考えよう。店の人にお礼をいって、バイク屋をあとにした。

 「こんど畑仕事を始めたんだよ、じいちゃん」と言ったら、祖父はなんて答えるだろうか。

この記事が参加している募集

わたしの野菜づくり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?