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黒のランドセル

黒のランドセルを買ってもらった。

6歳のころ、親にランドセルを買ってもらった。
鮮明に覚えている。

 親の仕事場の事務所で仕事を終えた父と、その父の手伝いを終えた私が寛いでいるときの出来事だった。
 父がたくさんの種類のランドセルが載ったカタログのようなものを私に見せてきて、この中から選びなさいと言ってきた。
 その頃の私は、幼いゆえに、「ランドセルという高価なものを購入する選択肢が私にあるのか」と驚いたのを覚えている。その驚きと同等の嬉しさがあったのは言わずもがなだった。
 そのパンフレットの中には、私を小学生たらしめてくれる象徴のようなものが溢れており、また、これから「6年」という6歳には一生に等しい年月をともに過ごす相棒のようなものができるんだと、探すことに躍起になっていたのを覚えている。
 
 その中でもひときわ私の興味を引くものがあった。
 それは深い緑色のランドセルだった。理由はというと他の人と被らない、特別感のある色だと思ったから、なんて他の人と被りそうな、年頃の男の子ならだれでも持つ普遍的な理由だが、そのときはそのランドセル以外、眼中に入ることはなかった。 
 
 早速、お父さんに希望のランドセルを伝えた。見開きのカタログの左のページの4列ある紹介欄の上から3番目のところにある黒のランドセルの左にある緑色のランドセルを指で指した。

 結論は上に書いてある通りだった。 
 6年間使うんだからと、あなたのそのセンスは今だけのモノだからと、6歳の少年が反論するには、知識も経験も語彙力も足りないような、そんな親の意見で私は黒のランドセルを背負うことになった。

・・・

 話が変わりますが、皆さんは自分の親は好きでしょうか?
 
 私の親は、人間としてかなり尊敬すべき人だと考えています。(理由は省きます。)それは自分の親というバイアスを取り除いても変わらない意見です。
 客観的にみて子供たちにも愛情を注ぎ、育て上げたのでしょう。実際、多少のトラブルがあれど、子供3人は健康に育っています。長男の私はというと遠い土地で大学に通わせてもらっているくらいです。

 
 ですが、私はこの問いに好きと答えられないんです。
 私が買ってもらったランドセルは黒だったから。
 


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